パーティーに誘ってみた
冒険者ギルドを出た俺は、周囲を見渡すとテレサを追いかけた。
ルクスにちょっかいをかけている間に遠くに行ったかと思ったが、彼女は公園のベンチに座り、膝に手を乗せ俯いていた。
俺は近くの売店で揚げパンを二つ買うと、彼女へと近付き声を掛ける。
「よっ!」
顔を上げたテレサと目が合う。キラキラとした大きな瞳が飛び込んできた。
「まずはこれでも食って元気を出せ」
彼女は受け取ると、戸惑うように俺と揚げパンを交互に見た。
「嫌なことがあったらまず何か食べろ。満腹になればしょうもなくなるからさ」
俺が揚げパンを食べ始めると、テレサは半眼になり俺をじっと観察している。
警戒心の強い小動物のようだ。
少しの間俺を見ていたテレサだったが、お腹の音が鳴ったかと思うと食べ始めた。
美味しそうな匂いが漂ってきて、空腹を我慢できなかったらしい。
小さな口で一生懸命に揚げパンを食べる彼女を観察する。
噂では、途轍もなく強力な魔法を使えるらしいのだが、こうして見ているとただの魔法使いの少女にしか見えない。
揚げパンを食べ終えたテレサがふたたび顔を上げ、俺を見る。お腹が膨れたからか、先程までよりはましな表情になっている。
「さっきの件は俺もその場にいた」
そう切り出すと、彼女の瞳が揺れる。無理もない、今まで所属していたパーティーを追い出されたばかりなのだ。
ショックを受けないわけがなかった。
「お前の悪行は冒険者ギルド中に伝わっている」
ルクスの言った『連携が取れない』と言うのは彼女自身にも問題がある。
強力な魔法を扱えるというテレサだが、魔法を使う際に呼びかけることをしないらしい。
そのせいで、連携を取ることができず、魔法が身体を掠めてしまったことが何度もあるらしい。
そのことは、この街に住むすべての冒険者も知っていることなので、彼女は今後誰ともパーティーを組めないだろう。
それがわかっているのか、膝を握り締め俯き、ふたたび落ち込み始める。
「良かったら、俺とパーティーを組んでみないか?」
勢いよく顔を上げると、テレサは驚いた顔で俺を見た。
「噂の魔法とやらにも興味があるし、俺はずっとソロで冒険をしている。試しに組むのも悪くないと思うぞ?」
テレサの瞳が真っすぐに伸び、俺を観察している。
眉根が何度も動き、表情がやたらと変化する。猜疑心を持つ顔から悩んでいる顔、ふと何かに気付いて慌てている顔や、諦めたような悲しそうな顔。
時間にして十分は経っただろうか?
やがて彼女はコクリと頷くと、俺との冒険を了承した。
「おっけー。なら今更だが自己紹介な。俺の名前はガリオン。半年前に冒険者になった18歳で、田舎の村から出てきたばかりだ。よろしくな!」
俺が名乗って右手を差し出すと握手をする。
必死な様子で俺の手を掴んで振るテレサ。彼女の手はとても小さく冷たかった。