事実確認
ジェリーに聞いてみたら、「やはり気がついていなかったのか」って言われた。
私ってば聖女として活動してる時はそれっぽい感じになるらしい。癖になってるとかではないと思う。かつての私は無だったのでそもそも活動中に余計な事をする気力がなかった。命じられた事を命じられたままにやるのが生き残るために必要だった。
「冒険者として活動している時はそうでもない。聖女として活動している時だけ、人の善性を信じ、魔を敵と見做し、人間のために労力を惜しまない。民にとっては理想の聖女かもしれない人間になっているように見える」
そう聞いて二人同時に溜息を吐いた。
私たちは二人とも、特にそこまで聖女とかにこだわりがない。グリズリー辺境伯家への恩と、この国で住みやすくするためにだけ活動をしている。なので理想もない。
「まともな生活をできている。その見返りというものでしょうか?」
「どうだろうな」
ジャンヌ様のように神の声を聞いたわけでもない私たちは、いるのかもしれない神に対して問いただす術を持たない。
「結果として、君の思考が曇って酷い目に遭う可能性があるというのならば、私はそれを神とは思えないけどね」
騙されたり、それによって何かを背負うことになるのは確かに困る。
そもそも、聖女なんて呼ばれる人は大抵私のようにただの女の子ではない。
無垢であるか、どこか思想がぶっ飛んでいるか。いずれにせよ、神というものを信じ、人を信じる。
それが元々なのか、神によるものかは分かりはしないけれど。
「何もないといいのですけど」
そう呟くと、彼は私の手を掬い上げて、そっと唇を落とした。
「大丈夫。私たちはきっと幸せになるためにこの機会を与えられたんだ。それに、何かあっても、私が一緒だ」
──たとえ、その先が地獄であっても。
甘い声音でそんなことを言って、優しく微笑むジェリーはとても魅力的だった。その瞳にどうしても惹きつけられてしまう。囚われる、という感覚を覚えたけれど、きっとそれが彼の手によるものならばそれすら甘美なものだろう。
私は、私がいない方がジェリーが幸せになれるはずだと思って国を出ましたが…今となってみるとやっぱり彼がいてくれて良かったと心から思います。
「私もあなたに返せるものがあれば良いのですけど…」
「君が私の隣で生きて笑顔で幸せでいてくれればそれだけでいいよ。頼むから死なないでくれ。死ぬ時は老衰で頼む。私が見送る」
声のトーンが本気すぎてちょっと怖かった。
え、私の処刑がトラウマ…?そんなこと言われましても。




