それは素質か、神の意思か
そんな風に決意を新たにしても、とりあえずはお世話になっている皆様の恥にならない程度に成績を維持しながらやらなければいけない。
聖女がヴェールを被っているというのは結構知られているらしくって、それなりに繋ぎを作ろうと話しかけられる。
「それにしても、あなたの婚約者。少し過保護なのではなくって?」
「いえ。家族以外の貴族との会話に慣れておらず、この間まんまと言質を取られかけていた私には丁度良いかと思います」
「それを言われると頷くしかないわね」
少し前に国からの依頼でお仕事をしていた際に、口の上手い官僚の方に言い含められそうになっていた事を話していたので、友人は真顔になった。
ジェリー曰く、私は根っこのところでお人好しなのだそう。
そしてこの友人曰く、「たまに不安を覚えるくらい人の善性を信じそうになっている」のだそう。
彼女はカミラ。この国の侯爵家の令嬢だ。
はじめに侯爵家と聞いた時は私の知っている人と思わず比べてしまい一瞬時が止まった。あれは権威が生んだわけではなく、ただただヤバい人間が権力を握ってしまった結果である事を察してしまった。
「いつも警戒心が低いわけではありませんけれど、たまに……そうですね。人助けの時などは一気に理想の聖女のようになる。わたくしにはそう見受けられます」
どこか心配そうに言われたその言葉に少し驚いた。
理想の聖女。
そんなものを演じているつもりはない。
「まぁ…。そうなのですね、気をつけますわ」
そう言って微笑みを作ったけれど、内心ヒヤヒヤものである。
そんなつもりはなかった、ということは私自身の意思とか関係なくそうなるようになっているということかもしれない。
ジェリーには一度確かめてみるべきだろうなぁ。私より私のことに詳しいし。
溜息を吐きたい気持ちを抑えて、今の人生でくらいは慎ましやかにでも健全な学生生活を送らせてほしいと思ってしまう。
年度終わりにはスキップ試験を受けることも可能になるので、いっそお勉強にもっと時間を費やしてジェリーと同じ学年になるのも手かもしれない。一人では危ない気もしてきました。
聖女として働くこと自体に不満はないけれど、神の使いとして必死に自分を削って働くほどには私は人間という種を愛せない。
何故、主はこんな私に聖女なんてスキルをお与えになったのか。
「聖なる称号を与えられた人間というのは、どういった基準で選ばれているのでしょうね」
「ふふ、それが分かればみんなそういうスキル持ちになってしまうわ」
カミラの言葉に、そうね、と返した。




