母の時計
私たちに「あら、これは今話して良い話ではありませんでしたわ」なんて言って面会は打ち切られた。なんとも勝手なことだ、と思いはするものの今まであまり考えて来なかったこの現象について知らなければいけないのかもしれないとも考える。
そんなこと言ってもしらないこと知らないこととか分からないことも多い。
「ジェリーは、やり直しの前に何か聞いたりしましたか?」
「いや、聞いてはいない」
聞いて“は”いないという言葉が気になった。そんな私に気がついたのか、考え込んでいたジェリーが一つ頷き、胸元から何かを取り出した。
「これを覚えているかい?」
「……!?それは!」
間違いがない。
かつての人生で私が彼に渡した母の形見だ。
これだけは大切な誰かができた時以外は誰にも渡してはいけない、と母が言っていた時計。もう朧げな面影だけれど、それでもその言葉だけは真剣に言われたものだからか妙に頭に残っている。
だから、彼の幸せを願ってお守りとして渡したのだ。誰よりも大切に思えたあなただから。
「私も一応調べてはみたんだ」
以前の私が渡したはずの時計を今所持しているのはおかしいと心当たりを当たってはみたらしい。けれど、アルマリアにいた頃はかつてと違って狂った王子のふりをしていたから調べるのが難しく、兄王子も命を狙われていたためそこまで頼ることができなかった。
冒険者になってからも調べてはいるが、そもそも私の母が何者かというところで捜査が難航しているようだ。
「私と違って、メグは今の人生での過去は朧げなようだったし聞き辛かったんだ。すまない」
「いえ、私が両親の事をあまり覚えていないのが原因です。こちらこそ申し訳ございません」
私が両親について覚えていることはそう多くない。
例えば、母の子守唄がとても綺麗だったこととか、父がなんとなくかっこよかった気がすることとか。
あとこれは逃げ出す準備をしていた時に感じたことではあるけれど、家の中にある一部のものは両親が厳重に管理していた。私も仕舞い込んでしまっているけれど、平民が持つには不釣り合いな品もあって不思議に思ったけれど、そんなものを出してもしもがあった時が嫌で今でも鞄の奥底に眠っている。
「時計を調べてみようと思ったのはね、これを今の私が持っていたことを不思議に思ったのもあるけれど、私の命が尽きようとしていた時、これが眩く輝いたように見えた、というのもあるんだ」
それを聞いて、私の実の両親についても知らなければいけないことがあるのかもしれないと感じた。
私の記憶にあるのはあくまでも温かい笑顔の二人だった。けれど、どんな良い人だって秘密を抱えている。
手渡された時計を握りしめて、そんな事を思った。




