消えた冠
<side:ジェラルド>
ジェラルド第二王子が死んだ。
そんなニュースが大々的に流れている事に苦いものが込み上げる。王族というものの生死はつくづく、お祭り騒ぎを引き起こすらしい。
「で……ジェリー、ゆっくりしてる暇ねぇですよ」
「そうだな」
殿下、と呼びかけた二つ年上の男に返事を返す。
本来ならば数年後には国を代表するような剣士になったであろう人間が、死んだとされた王族に付き従うというのだから困ってしまう。
兄のそばにこそ彼のような人材はいるべきだろう。乳兄弟である男も、どこか晴れやかな表情で地図と睨めっこしていた。
「しかし、お前たちは本当に良かったのか?」
「しつこいよ。僕はあなたと一緒に行くと決めたんだ。誰に強制されたわけでもない自分の意思で」
避けていたはずの彼は、私が王室を離れる事になっても共に来てくれた。
何故かと聞くと、「いや、危なっかしいんだよ。あなたは」と呆れたように言った。
そんなに私は危なっかしいだろうか?前回、簡単に陥れられたのだからきっとその言葉は当たっているのだろうね。
「せめてスキルがもっとまともであれば…!!」
「言うな。ジェリーが一番そう思っているはずだ」
その言葉に複雑な心境となる。
私自身は自分のスキルに対して特に負の感情を抱いていない。まぁ、お陰で家事などの上達が早くなったのは良かった。……彼女に告げるのはちょっと遠慮したいが。
「別に、多くのものはスキルを持ってすらいないんだ。悲観するほどのことでもないだろう」
苦笑すると、二人も顔を見合わせて「それもそうだ」と言うように頷いた。
以前は見つからなかったものであるし、そもそも見つかったところでこのようなスキル自体には目を向ける人間なんていなかっただろう。知ったところで「ふぅん」みたいな反応を示されるに決まっている。兄上だけは少し考え込んでいらした。
その兄は「遊学」という名の下で国を出る事にした。婚約者は未だ決まっておらず、この国の令嬢も落胆しているが両親からの愛情を一心に受ける弟が王太子となるのではとも言われており、その分彼が注目を集めている。
「私も自分の命は惜しいからね」
そう肩を竦めた兄には、思うところがあったのだろう。実際、弟に熱を上げる人間は城内に数多く、兄上はいつも警戒しながら生活を送っていた。
王族であるからには以前から命を狙われることはあった。特に優秀な人間を王に据えたい人間と担ぎやすい神輿を用意して権力を得たい人間はお互いに私たちに暗殺者を差し向けていたものだ。
「我々も向かおう。……ローナ王国へ」
その国が調べた中で一番移り住むに良さそうな場所であった。それに、平民であっても何らかのギルドに登録をしていればある程度の身分が保障される。これは最近、かの国で開発された登録魔法によるところが大きいだろう。
前の人生でも同じ頃に同様の魔法が開発されていたはずだ。
一歩踏み出し、青く澄んだ空を見上げる。
君は、どこかで幸せに笑えているだろうか。
ふと、そんな事を考えた。




