13 帰る
そうこうして過ごしていると、昼過ぎになったら村の人たちがお寺へお参りに上がって来るようになった。
「聞いたぞぉ、肝試しをしたんだって?」
「見た? なんか見えた?」
何故か肝試しが村を挙げて一大イベントのように話が広まっていて、誰からもワクワクした顔で「幽霊を見たか?」と聞かれる。
それから「自分の若い頃になぁ」と昔話に花が咲くのだ。
なにせ娯楽のない山の中であるので、些細な変化が楽しいのだろう。
そして話しかけるのは決まって郁也で、崎山を構いに行かない。
その理由を聞くと、村の人たち曰く「面白い話題が出てこない」のだという。
「愛ちゃんはねぇ」
「話を聞き尽くした感じだからねぇ」
「アタシだって、アタシだって幽霊見たい~!」
そんな村人たちに囲まれた崎山が、ジタバタしていた。
「まあ、愛ちゃんは見えねぇ人なんだなぁ」
「いるんだよ、そういう奴も」
嘆く崎山を、村人たちが笑いながら慰めている。
そんな話をした後で、誰もが自然なことのようにお寺の風呂に入っていく。
本当に皆の温泉であるとわかった郁也であった。
「でも皆、示し合わせたみたいに同じくらいの時間に来るんですね」
本堂でワイワイと賑わっている様子を眺めている郁也に、僧衣に着替えた清水が「そういうものですから」と言ってくる。
「ご先祖様の見送りのお参りは、遅い方がいいのです。
少しでも長く引き留めたいという気持ちの表れですからね」
「はぁ~、なるほど」
そんな話をしていると、郁也の祖父母もお寺に上がって来た。
「じいちゃん、ばあちゃん!」
「おお郁也、どうだった?」
「幽霊さんに会えた?」
手を振って出迎える郁也に、祖父母が自然な風に幽霊との邂逅について聞いて来る。
郁也としてはもう苦笑するしかない。
これから墓参りをしてから祖父母と一緒に帰るので、郁也は三人で本堂にお参りしてから、墓地になっている山の斜面を登って行く。
さすが山道に慣れている祖父母は、登っていく足取りも軽いものだ。
見晴らしの良い場所にある橘家の墓の前くると、しゃがんで手を合わせる。
――ご先祖様の幽霊は見ないんだよなぁ。
清水のご先祖様と橘家のご先祖様との違いは、一体なんだというのか?
「そりゃあ、修行して積んだ徳の違いよ」
心の中の疑問への答えが聞こえて、郁也はギョッとして首を巡らせる。
すると、墓地の外側にある山の木の上に、あの作務衣姿の髭面の男の姿があった。
≪で……、……!≫
ポン助がなにやらわめいているようだが、またもや電波が途切れたかのように聞き取りづらい。
――もしかして、この作務衣の男のせい?
急にモゾモゾっとし始めた頭とお尻を、郁也は慌てて押さえる。
こんな時にタヌキになるのは勘弁だ。
そんな郁也に構わず、漢が話をしてくる。
「俺ぁこれでもかなり徳の高い魂だからな、そこいらの連中と一緒にされちゃあ困る。
お前さんの先祖は、ちゃあんとお前さんの目の前にいるぞ?」
男にそう言われて、郁也は驚いてよくよく目を凝らして前を見るが、それらしいものはさっぱり見えない。
この郁也の様子を見て、男が「はっは!」と笑った。
「見えねぇのは良いこった!
この世に未練がねぇってことだからな!」
ということは、この男には未練があるのだろうか?
いや、徳が高いから見えるのか?
この郁也の疑問に、男は「両方だ」と答えた。
「徳高いこの俺だって、未練なんざたんまりあらぁな。
まだまだ修行がし足らないっていう未練がな」
修行が未練だなんて、郁也からすると変わってて、修行僧だと「らしい」のかもしれない。
そう思うと、ちょっと笑えて来る。
するとその時、あらぬ方向を見て笑っている郁也に祖母が気付いた。
「郁也、誰かいたのかい?」
「いや、なんでもない……面白い鳥が飛んでいたんだ」
祖母に尋ねられたのに、郁也はそんな言い訳をした。
――面白い鳥ってなんだ。
我ながらとっさに出た言い訳のつまらなさに呆れてしまう。
そんなことをしていると。
「面白い奴め、また来い。
そこのタヌキと一緒にな」
男のそんな声が聞こえたかと思ったら、いつの間にか姿が消えていた。
≪プハァ~! もう息苦しいんだからぁ、会いになんかいかないからね!≫
すると急にポン助が息を吹き返したように、うるさくなる。
ともあれ、こうして郁也のお盆初体験が終わった。




