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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
4話 夏に涼し

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10 謝るしかない

「どうも、ご迷惑をおかけしました」


郁也は深々と頭を下げた。布団の上で土下座状態である。

 現在朝というにはまだ早く、夜が明ける前で外は薄暗い時刻だ。

 なにに対する土下座かというと、郁也はタヌキ姿で寝てしまったため、布団をタヌキの毛にしてしまった。

 タヌキ臭くもあるだろうから、布団に消臭剤を振りかけて干す必要もあるし、なにより毛だらけシーツを洗濯してもらうのは申し訳ない。


「いえいえ、気にしないでください。

 一晩中タヌキを抱えているなんて、そうそうできない経験でしたよ」


一方の清水はニッコニコだが、その顔にはタヌキの足跡がくっきりとついてしまっている。

 この足跡は、郁也が起きたら目の前に清水の寝顔があったので、驚いて思わず蹴ってしまったものだ。

 それで清水も起きて、郁也もしっかり覚醒して、今に至るというわけだ。

 清水は動物に嫌われる質だという話だったし、憧れの動物のモフモフを一晩中堪能できて満足なのだろう。

 けれど郁也は起きたら清水にがっちりホールドされていたのだから、異常事態に心臓が止まるかと思った。

 タヌキのまま死んでしまったら、郁也はタヌキとして死んだことになるのだろうか?

 そんな事態になるのは、絶対に回避したい。

 そして郁也は驚きすぎてタヌキから人間に戻れたのだが、そうなると清水は人間版郁也を抱えていることになり、それはそれでカオスであった。

 そんな流れからの土下座タイムが終わったところで、まだ外は暗いのだけれど、郁也はもう一度寝れそうにない。

 むしろ今からタヌキまみれのシーツを洗ってきたい。


「あの、シーツを洗濯をしてきたいのですけど」


郁也がそう言うと、清水は「そうですねぇ」と思案する。


「ではついでに、お風呂に入ってきてはどうですか?

 まだお湯を落としていないはずですし、橘君は昨日は入らずに寝たことですし」


清水の提案に、郁也はブンブンと首を横に振る。


「いえ、朝からお風呂を使わせてもらうのはなんか贅沢で、申し訳ないです!」


「気にしないでいいですよ、ウチの風呂は天然温泉ですから、入らないと損ですし」


そう話す清水曰く、郁也の祖父母の家がある集落とは反対側の山向こうには、温泉宿がいくつかある集落があるそうで、そこの源泉と同じお湯が沸いているのだという。


 ――寺で温泉とか、なんか効きそうなカンジだなぁ。


 こう言われると俄然入りたくなってきた郁也である。

 温泉なんてあの両親が連れて行ってくれるはずがなく、祖父が身体が大きな郁也に「風呂が窮屈だろう」と言って車で山向こうにある温泉施設に連れて行ってくれたのが、初温泉であった。

 その温泉と、この寺の風呂は同じということだ。


「シーツも別に気にすることはないんですが、やりたいなら風呂に入るついでに浸け置きしておくといいですよ」


さらに続く清水の言葉に、郁也の傾いていた心は固まる。


「じゃあ、ありがたくお風呂に入ってきます」


というわけで、風呂に向かった郁也だったのだが。


「……あれ、先生も入るんですか?」


風呂の場所がわからないだろうと、風呂場である離れまで案内してきた清水まで、そのまま脱衣所に入って服を脱ぎだしたのだ。


「ええ、僕もすっかり起きてしまいましたので」


清水はそう話すと、サッサと先に入ってしまう。

 というわけで二人で入ることになった風呂場は、贅沢に石造りの上に大きく窓がとってあるので、さながら露天風呂気分だった。


「おや、あまりお湯が冷えてませんね。

 さては、先に誰か入ったようです」


湯加減をみている清水の横で、郁也は「はぁ~、本当に温泉っぽい」と感心するばかりだ。

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