10 謝るしかない
「どうも、ご迷惑をおかけしました」
郁也は深々と頭を下げた。布団の上で土下座状態である。
現在朝というにはまだ早く、夜が明ける前で外は薄暗い時刻だ。
なにに対する土下座かというと、郁也はタヌキ姿で寝てしまったため、布団をタヌキの毛にしてしまった。
タヌキ臭くもあるだろうから、布団に消臭剤を振りかけて干す必要もあるし、なにより毛だらけシーツを洗濯してもらうのは申し訳ない。
「いえいえ、気にしないでください。
一晩中タヌキを抱えているなんて、そうそうできない経験でしたよ」
一方の清水はニッコニコだが、その顔にはタヌキの足跡がくっきりとついてしまっている。
この足跡は、郁也が起きたら目の前に清水の寝顔があったので、驚いて思わず蹴ってしまったものだ。
それで清水も起きて、郁也もしっかり覚醒して、今に至るというわけだ。
清水は動物に嫌われる質だという話だったし、憧れの動物のモフモフを一晩中堪能できて満足なのだろう。
けれど郁也は起きたら清水にがっちりホールドされていたのだから、異常事態に心臓が止まるかと思った。
タヌキのまま死んでしまったら、郁也はタヌキとして死んだことになるのだろうか?
そんな事態になるのは、絶対に回避したい。
そして郁也は驚きすぎてタヌキから人間に戻れたのだが、そうなると清水は人間版郁也を抱えていることになり、それはそれでカオスであった。
そんな流れからの土下座タイムが終わったところで、まだ外は暗いのだけれど、郁也はもう一度寝れそうにない。
むしろ今からタヌキまみれのシーツを洗ってきたい。
「あの、シーツを洗濯をしてきたいのですけど」
郁也がそう言うと、清水は「そうですねぇ」と思案する。
「ではついでに、お風呂に入ってきてはどうですか?
まだお湯を落としていないはずですし、橘君は昨日は入らずに寝たことですし」
清水の提案に、郁也はブンブンと首を横に振る。
「いえ、朝からお風呂を使わせてもらうのはなんか贅沢で、申し訳ないです!」
「気にしないでいいですよ、ウチの風呂は天然温泉ですから、入らないと損ですし」
そう話す清水曰く、郁也の祖父母の家がある集落とは反対側の山向こうには、温泉宿がいくつかある集落があるそうで、そこの源泉と同じお湯が沸いているのだという。
――寺で温泉とか、なんか効きそうなカンジだなぁ。
こう言われると俄然入りたくなってきた郁也である。
温泉なんてあの両親が連れて行ってくれるはずがなく、祖父が身体が大きな郁也に「風呂が窮屈だろう」と言って車で山向こうにある温泉施設に連れて行ってくれたのが、初温泉であった。
その温泉と、この寺の風呂は同じということだ。
「シーツも別に気にすることはないんですが、やりたいなら風呂に入るついでに浸け置きしておくといいですよ」
さらに続く清水の言葉に、郁也の傾いていた心は固まる。
「じゃあ、ありがたくお風呂に入ってきます」
というわけで、風呂に向かった郁也だったのだが。
「……あれ、先生も入るんですか?」
風呂の場所がわからないだろうと、風呂場である離れまで案内してきた清水まで、そのまま脱衣所に入って服を脱ぎだしたのだ。
「ええ、僕もすっかり起きてしまいましたので」
清水はそう話すと、サッサと先に入ってしまう。
というわけで二人で入ることになった風呂場は、贅沢に石造りの上に大きく窓がとってあるので、さながら露天風呂気分だった。
「おや、あまりお湯が冷えてませんね。
さては、先に誰か入ったようです」
湯加減をみている清水の横で、郁也は「はぁ~、本当に温泉っぽい」と感心するばかりだ。




