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6 教室にて

けれど学校で「橘郁也死亡論」が蔓延しているのは、郁也としてもわからなくもないのだ。

 郁也自身は意識が無かったので知る由がないものの、発見された時は心臓が止まっており。

 幸運にも蘇生が成功したものの、三日も意識が戻らなかったらしいのだから。

 郁也が運ばれた病院には学校の関係者も様子を見にきていて、心臓が止まったことを知らされたため、そこから死亡という話が流れ、蘇生した情報までは続かなかったのだろう。

 そんな大事だったわりに、郁也本人はこうして無傷でピンピンしているので、気分は大掛かりなドッキリを仕掛けられているようである。

 こんな風に微妙な気持ちになりつつ、廊下を歩いて一番奥の教室までたどり着き、波木が戸を開ける。


「みんな、おはよう」


郁也を連れた波木が挨拶しながら教室に入ると、中は他のクラスと違ってシーンとしていた。


 ――あれ?


 てっきり他のクラスみたいに悲鳴が上がると思っていたのだが、予想に反して静かな教室に、郁也が首を捻っていると。


「昨日伝えていた通り、退院した橘くんは今日から授業を受けることになったから、みんなで色々気を遣ってやってね?」


教壇に立ちながらそう伝える波木に、クラスメイトはどうやら前以て郁也が今日学校に来ることを告げられていたのか、と知る。

 なら、他のクラスにも伝わっていてもいいようなものだが。

 生憎と郁也は学校の人気者というわけではない、どちらかというと避けられている側の生徒である。

 そんな生徒の復学のことなんて、会話に上げる価値もないのかもしれない。

 そんな風に納得する郁也だが、真実は別にあり。

 クラスメイトの中では郁也がヤクザの抗争に巻き込まれ、なにがしかの危険から身を守るために死亡説が流れたのだという推測が真実のように語られていたのだ。

 なので郁也のためにも無事だという話をしてはいけないと、使命感から全員で沈黙を貫いていたのである。

 実に見当違いな思いやりであった。

 そんな親切(?)なクラスメイトたちは、郁也の無事な姿を見て、「自分たちはやり切った!」という安心感から、優しく微笑んでいる生徒、中には涙ぐんでいる生徒までいたりする。

 そしてそんな反応をされた郁也は、ここまでの校内の反応と全く違うクラスメイトたちに、戸惑いつつも、「また、これからもよろしく」と挨拶をして、自分の席に座る。

 それから、普通に波木のホームルームの話を聞いて、すぐに一限目の時間となり。


 ―― 一限目ってなんだっけ?


 郁也が時間割を確認するよりも先に。


「はい、皆よろしく」


波木と入れ替わるように、一限目の担当教師が教室に入って来た。


 ゾワッ!


 とたんに郁也の全身を襲う鳥肌。

 そう、一限目は数学。あの清水の担当なのである。

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