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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
4話 夏に涼し

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1 一学期が終わった

雨の季節が終わるとほぼ同時に、一学期が終わった。

 郁也にとって、春から実に目まぐるしい変化に見舞われた一学期だった。

 新しい環境、新しい人間関係、新しいタヌキ……いや、タヌキは新しいとかは関係なく、そもそも人生に食い込んでくる予定はこれっぽっちもなかったか。


 ――ペット候補の動物でもなかったし。


 それはともかくとして。

 一学期終了ということは、明日からは夏休みだ。

 一学期の終業式が終わった今、「夏休み中の部活動の計画をたてる」と言う先輩の崎山に呼ばれて、こうして部室である数学準備室にいる。

 清水は夏休み前の職員会議が長くなるとかで不在で、崎山との二人である。

 崎山がインスタントのアイスコーヒーをブラックで、郁也が甘いカフェオレにして飲みながら、夏休みの活動について話し合っていた。


「まず、肝試しは外せないでしょ~♪」


崎山が「夏のイベント!」という題目で、ホワイトボードに書き込んでいく。


 ――そんな必須項目はいらないんだけどな……。


 そう思いはしても、口に出しては言えないのが郁也なのである。


「場所はぁ、快斗くん家でいいとしてぇ……あ!

 そだそだ!」


そう言いながら崎山がホワイトボードからこちらへパッと振り向いた。


「橘くん、ウチのお姉ちゃんに会ったんでしょ?」


「はい?」


突然そんなことを言われた郁也は、目を丸くする。

 崎山先輩の姉なんて知らない。


 ――いや、しかしこのフレーズをどこかで聞いた気がする?


こんな既視感を、以前にも抱いたことがあった気がするのだけれども、はて一体どこでだったか?

 郁也が記憶をひっくり返して考えていると。


「あれぇ~? 会ってるヨネ?

 快斗くんところにいる、お姉ちゃんだってば♪」


崎山がペンをフリフリしながらそう述べた。


『愛は私の母の年の離れた妹で、叔母さんです』


途端に以前に聞いた清水の言葉が、脳内に蘇る。


 ――そうだ! 清水先生のお母さんって、崎山先輩に似ていたんだ!?


 崎山が清水の母の妹ということは、清水の母は崎山の姉ということだ。

 言葉にすれば「当たり前だろう」と言われることだが、この二つは言い方を変えただけで、自分は何故気付かなかったのか?

 今になって謎が解けた郁也が、驚きすぎてカフェオレを机にこぼしてしまい、慌ててティッシュで拭いていると、数学準備室のドアがガラッと開く。


「はぁ~、疲れた。

 書面を読めばいい話を、延々説明されるのは勘弁ですよ」


そしてそうボヤきながら、清水が入ってきた。


「快斗くん、お帰り~♪」


「なにか決まりましたか?」


笑顔で迎える崎山に、清水が尋ねる。

 これに、崎山が笑顔で答えた。


「えっとね♪

 まずは肝試しは外せないよねって、橘くんも言ってくれていたトコ♪」


 ――いやいや、俺は同意していませんから!?


 崎山の中では郁也も積極的であることになっているらしい。

 なんということだろうか?


≪肝試しって、ニンゲンって昔から好きだよねぇ~。

 なにが楽しいのかワカンナイ≫


ポン助がこんなことを言っているが、このタヌキだって結構なビビリなくせに、と郁也は白けた気持ちを脳内に向ける。


 ――夜中のカエルの鳴き声にだってビビっているの、気付いているからな。


 この時期、夜になると「ウォーン」という不気味な音が響いていて、あれがカエルの鳴き声だと知るまでは郁也だって怖かったものだ。

 いや、今だって不意打ちで鳴かれると怖い。

 カエルの鳴き声はケロケロで統一してほしい。

 郁也がそんなことを考えていると。


「やっぱり、決行日はお盆でしょ~♪」


「ウチは別にいいですけど、客間は開いていますし」


「よぅし、決まり♪」


なんと、肝試し計画の実行が決まってしまっていた。

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