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5 心配?

職員室に戻ったらもう清水はいなかった。


 ――助かった!


 郁也はホッとしたものの、清水がなにか悪いことをしたわけではない。

 だが、あの意味不明な動悸と鳥肌は勘弁してほしい。

 それにしても、あれは一体なんだったのか?

 やっぱりどこか怪我をしていて、その後遺症とかなのか、と先程の現象をそんな風に想像ながら、郁也は担任の所へ向かう。


「波木先生、おはようございます」


「ああ橘くん、本当に元気そうね。安心したわ」


郁也の挨拶に、ホッとした表情をする担任の女性教諭の波木容子はぎ ようこは、四十代半ばの少々ぽっちゃりなおっとりした人である。

 彼女は入学式直前に急遽入学が決まった他所の土地から来た郁也が、なかなか地元出身のクラスメイトと馴染めていないことを、とても心配してくれてもいた。

 そんな最中での事故なので、心配の二重かけのようなこととなり、郁也としても申し訳なく思う。

 その波木から、休んでいる間の授業についてと、身体は本当になんともないのかという確認をされ。

 クラスメイトが不安がっていたので安心させてあげるように言われた。


「皆心配したのよ?

 事故が起きたばかりの頃に、死亡したって噂が流れたから……」


波木は「私もビックリしたわぁ」と朗らかに言うものの、その噂は学内を見たところ、結構根強いようであったのだが。


 ――クラスで幽霊が出たって、パニックになったりしないだろうな?


 郁也はそんな一抹の不安を抱えながら、朝のホームルームのチャイムが鳴ったので、波木と共に自分のクラスの教室へと向かう。

 この高校は進学コースや商業コース、工業コースなどがある総合学校で、郁也は商業コースである。

 自分には大学にいくほどの頭も受験に費やす情熱もなかったし、幸いにも数字には強い質であったので、商業関連の資格を取れたら将来困らないかと考えてのことであった。

 一年の教室は職員室のある棟の三階なので、波木と一緒に階段を登っていく。


「年を取ると、だんだんこの階段が辛いのよねぇ」


階段を踏みしめながら軽く息が上がっている波木に、郁也は「そうですね」と年を取ったという点を肯定するのも失礼な気がして、そっと背中を押すに留める。

 それに波木は「あら、優しい」と喜びながら、三階へと上がり切る。

 どのコースでも、教室は一年が三階、三年が一階にある配置になっていて、「年下が苦労をしろ」ということなのだろう。

 だが、先生たちにはそんなことは関係ないわけで。

 古い校舎なのでエレベーターなんてハイテクなものも設置されておらず、あちらこそご苦労様だと郁也は思う。

 ともあれ、三階にまで上がったら、各教室での騒ぎ声が聞こえてくる。


「マジだって、見たんだって!」


「嘘だぁ」


「幻だって」


そんな会話が聞こえて来て、郁也は「もしや」と思うものの、それらの教室の横を通らねばならず。

 そして郁也のクラスは幸か不幸か、階段から一番奥の教室であった。

 波木の後について廊下を歩くと、通り過ぎる教室から悲鳴が上がる。


「きゃあ! 橘だ!?」


「マジで生きてた!?」


「ほら、言ったじゃんか!」


 ――すみませんね、生きてて。


 無事であることを驚かれるのに、郁也はなんとも言えない気分になってきた。


「全く、ごめんなさいね、皆失礼な事ばっかり言っていて。

 あとでよく言ってもらうように、先生方に伝えておくわ」


波木が申し訳なさそうにしているのが、郁也としては逆に申し訳ない。

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