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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
3話 雨のち晴れ

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8 清水の母

≪はぁ~、疲れたぁ~≫


(ポン助はなんにもしてないじゃんか)


郁也は脳内でだらけたポン助の声に、心の中で反論しながら、清水の後に続いて降りていく。

 それにしても、これまでのどんよりした天気が嘘のような快晴だ。

 雨が上がったとたんに一斉に鳴き出したセミも、かなり出番を待ちかねていたことだろう。

 上りよりも下りの方が滑りやすくて、郁也はぬかるんだ坂道で転ばないように慎重に歩く。

 そうやって山を下りて清水の車を停めた本堂のあたりまで戻ると、そこに女性が一人いた。

 身長は低めで、短めの髪がフワフワとしていて、なんだか可愛らしい人だ。

 そして小さくて可愛いと、怖がられないかとか、泣かれないかとか考えたりして、緊張してしまう郁也であるので、なんとなく清水の背後に隠れるようにする。

 体格が大きいので、実際は全く隠れられていないけれども。


 ――そう言えば、あの子にはビビらなかったな、俺。


 子どもは皆等しく泣かれる存在であると思っているのに、何故自分から行ってしまったのか?

 これももしかして、神様パワーだったのかもしれない。

 それはともかくとして。


「もう、車だけあって姿が見えないと、何事かと思うじゃないのぅ!」


その人が清水に対して、そんな風にプリプリと怒っている。


「ちょっと上に行ってきただけだって」


清水が彼女に笑いかけながらそう返す。


 ――先生も、あんな風に話すことがあるんだな。


 清水の砕けた口調を初めて聞いた郁也は、ビックリしつつも、相手は何者か? と考える。

 二人は似ている気がするし、「先生の妹かな?」と郁也は考えて、ペコリと頭を下げた。

 そこで、あちらは初めて郁也がいることに気付いたようだ。

 こんなデカい男に気付かなかった彼女は、かなりのぼんやりさんかもしれない。


「生徒さんと一緒だったの? あら、でもどこかで……」


彼女は清水を回り込むようにこちらをのぞき込んできたので、郁也はちょっとビクビクしてしまう。

 しばし郁也を見つめていた彼女が、やがて「ああ!」と叫ぶ。


「キミあれでしょ!? 橘さん家のお孫さん!

 橘さんたちと挨拶にいらしたの、覚えているわ!」


彼女は分かったのが嬉しそうにするが、郁也は逆に縮こまってしまう。

 確かに郁也はここへ来てすぐ、墓参りついでの挨拶だと、祖母に寺まで連れて来られた。その時彼女に見られたのだろう。


「……どうも、お世話に、なってマス」


郁也は生来のビビリが発動していたが、とりあえず失礼のないようにとカタコトな挨拶をして頭を下げておくと、彼女は「まあまあ!」と嬉しそうに郁也に歩み寄り、手を取った。


「訪ねてくれてうれしいわ、お参りにきたの?

 ぜひ上がって行って、お茶を飲んで行ってね。

 さっき窺ってきたお宅で頂いたお饅頭があるのよぉ」


そう話す彼女に引っ張られるように、本堂の奥にある自宅へと連れて行かれる。


「え、あの……」


戸惑う郁也に、彼女はウキウキした調子で告げる。


「最近雨のせいで、ここまでお参りに上って来る人が少なかったし、人恋しかったのよ。

 それがこんな若いコに会えて、嬉しいわぁ♪」


「そうなんですか……」


郁也はこの流れを拒絶できないまま、自宅の客間に案内された。

 彼女は郁也を座らせると、お茶を用意しに行く。残された郁也は彼女がとりあえずいなくなったことでホッとして、ここまでついてきて客間に残った清水に言った。


「あの、妹さん、よく僕を覚えてましたね?」


この郁也の疑問に、清水がむず痒そうな、苦いものを堪えるような顔をする。


「……ああ、久しぶりに言われましたねぇ」


そう零した清水が告げるには。


「……橘くん、アレは僕の母ですから」


数秒、郁也は時間が止まった気がした。


「はい!? ウソですよね!?」


 ――若くない!?


 彼女はどう見ても、清水と同世代に見える。


≪ねぇ、お菓子ないのぉ~?≫


郁也の大混乱の脳内を、ポン助のそんな声が横切る。

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