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タヌキと俺と、時々坊主  作者: 黒辺あゆみ
2話 ひとちがい

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6 学食にて

そして連れて行かれた先には、心配するような待ち構えた集団などいなかった。


「ここで待っててくれるぅ?

 私、ご飯買ってくるからぁ♪」


彼女はそう言って学食の食券売り場へと向かう。

 この隙に、郁也は弁当の中身を確認する。


「……」


そしてすぐに蓋を閉めた。

 弁当の中身は、タコさんウィンナーとハートの卵焼きと、ペンギンおにぎりだった。

 これが幼稚園児サイズの小さな弁当箱に詰められていたら「可愛い♪」となるのだろう。

 しかし食べ盛りな高校生男子サイズはそれに比べてかなり大きく、よってタコさんもハートもペンギンも数が多くなる。

 特に、ズラッと横一列に並んだタコさんとペンギンはどこかシュールだ。

 これはもう諦めよう、これは祖母の趣味に付き合っていると思って。

 郁也が心の整理を付けた時。


「お待たせ~♪」


彼女がトレイを持って戻って来る。

 けれどそのトレイに載っているのは、小柄な彼女の外見にはあまり似つかわしくないモノだった。


 ――大盛のソースカツ丼って、あの人が一人で食べるのか? 本当に?


 彼女が選んだのは、運動部の男子生徒の中でも大食いな連中が買うメニューだろう。

 もう一度確認すると、彼女は小柄な人である。

 アレを果たして食べきれるのか? それとも間違えたのをそのまま買ってきたとか?

 郁也が驚くというより不思議に思っていると、彼女は機嫌良さそうに郁也の正面の席に着く。


「たまの学食だと、やっぱりコレだよね~!

 コンビニご飯だと最近はお上品な量になっちゃって、足りないんだぁ♪」


「……そっスか」


どうやら彼女は間違えたわけではなく、あえての大盛ソースカツ丼であったようだ。

 人は見かけによらないというのは、郁也以外にもいるらしい。


「じゃあほらほら、食べよ!

 いただきマ~ス♪」


「……いただきます」


こうして郁也の高校生活初である友人との昼食が始まった。

 今日会ったばかりの先輩を友人と呼ぶのかは謎だが、昨日教師に囲まれて食べたことに比べたら、友人カテゴリーに近いだろうと思う。

 それに大盛ソースカツ丼のおかげで、郁也は若干緊張がほぐれた気がする。

 彼女は郁也の弁当に、当然興味を示した。


「へぇ! そっちのはなんか楽しいね~♪」


郁也の弁当への感想に、「可愛い」とか「意外」など言わない彼女に、郁也は少しホッとする。


「弁当を作ってくれるばあちゃんが、最近なんかこういうのにハマったみたいで」


「すごぉい! 感性が若いおばあちゃんって、いいねぇ♪」


この弁当を食べている郁也をからかうのではなく、祖母を褒めてくれた彼女に、郁也は思わずきょとんとしてしまう。


 ――この人、いい人かも。


 そして未だに彼女の名前を知らないことに、ようやく思い至る。


「あの、知っているみたいだけど、俺、橘郁也、デス」


「あ、自己紹介まだだったっけ! すっかりやった気でいたよぉ。

 アタシは崎山愛さきやま あい、橘くんの一コ上ね♪」


彼女、崎山が「てへっ」という表情でそんなことを言う。

 そう言えば、崎山は郁也の事を知っていた。もちろん郁也はある意味有名人である自覚もあるため、名前を知られていることについては不思議に思わない。

 けど、郁也に直に話をしに来るのは珍しい。

 部活がどうのと言っていた気がするが。


「それで、なんの話……」


「そうなの!

 橘くんを勧誘したくって! でね……」


崎山が熱弁を始めようとした所。


「二人とも、盛り上がってますか?」


そこへ聞き覚えのある声が割って入って来たので、郁也がそちらに目を向けると。


「清水先生?」


学食のトレイを持って郁也たちの横に立っていたのは、やはり清水であった。


「隣いいですかね」


「あ、ハイ」


自然な様子で郁也の隣にトレイを置く清水に、郁也は断る理由が思い当らずに頷いてしまう。

 それにしても、何故清水がここにいるのか?

 もちろん、昼食のためだというのはわかっているが、わざわざ郁也たちの所へ来ることもないだろうに。

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