6 学食にて
そして連れて行かれた先には、心配するような待ち構えた集団などいなかった。
「ここで待っててくれるぅ?
私、ご飯買ってくるからぁ♪」
彼女はそう言って学食の食券売り場へと向かう。
この隙に、郁也は弁当の中身を確認する。
「……」
そしてすぐに蓋を閉めた。
弁当の中身は、タコさんウィンナーとハートの卵焼きと、ペンギンおにぎりだった。
これが幼稚園児サイズの小さな弁当箱に詰められていたら「可愛い♪」となるのだろう。
しかし食べ盛りな高校生男子サイズはそれに比べてかなり大きく、よってタコさんもハートもペンギンも数が多くなる。
特に、ズラッと横一列に並んだタコさんとペンギンはどこかシュールだ。
これはもう諦めよう、これは祖母の趣味に付き合っていると思って。
郁也が心の整理を付けた時。
「お待たせ~♪」
彼女がトレイを持って戻って来る。
けれどそのトレイに載っているのは、小柄な彼女の外見にはあまり似つかわしくないモノだった。
――大盛のソースカツ丼って、あの人が一人で食べるのか? 本当に?
彼女が選んだのは、運動部の男子生徒の中でも大食いな連中が買うメニューだろう。
もう一度確認すると、彼女は小柄な人である。
アレを果たして食べきれるのか? それとも間違えたのをそのまま買ってきたとか?
郁也が驚くというより不思議に思っていると、彼女は機嫌良さそうに郁也の正面の席に着く。
「たまの学食だと、やっぱりコレだよね~!
コンビニご飯だと最近はお上品な量になっちゃって、足りないんだぁ♪」
「……そっスか」
どうやら彼女は間違えたわけではなく、あえての大盛ソースカツ丼であったようだ。
人は見かけによらないというのは、郁也以外にもいるらしい。
「じゃあほらほら、食べよ!
いただきマ~ス♪」
「……いただきます」
こうして郁也の高校生活初である友人との昼食が始まった。
今日会ったばかりの先輩を友人と呼ぶのかは謎だが、昨日教師に囲まれて食べたことに比べたら、友人カテゴリーに近いだろうと思う。
それに大盛ソースカツ丼のおかげで、郁也は若干緊張がほぐれた気がする。
彼女は郁也の弁当に、当然興味を示した。
「へぇ! そっちのはなんか楽しいね~♪」
郁也の弁当への感想に、「可愛い」とか「意外」など言わない彼女に、郁也は少しホッとする。
「弁当を作ってくれるばあちゃんが、最近なんかこういうのにハマったみたいで」
「すごぉい! 感性が若いおばあちゃんって、いいねぇ♪」
この弁当を食べている郁也をからかうのではなく、祖母を褒めてくれた彼女に、郁也は思わずきょとんとしてしまう。
――この人、いい人かも。
そして未だに彼女の名前を知らないことに、ようやく思い至る。
「あの、知っているみたいだけど、俺、橘郁也、デス」
「あ、自己紹介まだだったっけ! すっかりやった気でいたよぉ。
アタシは崎山愛、橘くんの一コ上ね♪」
彼女、崎山が「てへっ」という表情でそんなことを言う。
そう言えば、崎山は郁也の事を知っていた。もちろん郁也はある意味有名人である自覚もあるため、名前を知られていることについては不思議に思わない。
けど、郁也に直に話をしに来るのは珍しい。
部活がどうのと言っていた気がするが。
「それで、なんの話……」
「そうなの!
橘くんを勧誘したくって! でね……」
崎山が熱弁を始めようとした所。
「二人とも、盛り上がってますか?」
そこへ聞き覚えのある声が割って入って来たので、郁也がそちらに目を向けると。
「清水先生?」
学食のトレイを持って郁也たちの横に立っていたのは、やはり清水であった。
「隣いいですかね」
「あ、ハイ」
自然な様子で郁也の隣にトレイを置く清水に、郁也は断る理由が思い当らずに頷いてしまう。
それにしても、何故清水がここにいるのか?
もちろん、昼食のためだというのはわかっているが、わざわざ郁也たちの所へ来ることもないだろうに。




