18 おマヌケタヌキ
「そうなのか? 俺、死にかけだったのか?」
郁也が脳内タヌキに尋ねてみると、耳がピルピルってなって、尻尾がボフン!と膨らむ。
「≪そうなの!
ボクがいなかったらキミは死んでたの!
感謝してよねもう!≫」
ムフン! と鼻息荒く脳内タヌキが郁也の口を使って語った内容によると。
「地獄行きは嫌だ」と慌てて崖に下にダイブしたはいいものの、勢い余ってゴロンゴロンと転がって崖下に着いた時には目が回り、しばらく「キモチワルイ~」としていたタヌキだったが。
気が付けば目の前に頭がパッカーンとなって全身ズタボロな死体があった。「ギャー、地獄ゥ!」と絶望に襲われたものの、よくよく観察すれば、虫の息であったが生きていた。
死体じゃなかった。
「≪だからボク、とにかく生き返らせなきゃと思って、でもどうしようと思って、パニクっていたら石に躓いて、ほぼ死体に向かってうっかりドーンって体当たりしちゃったの!
そうしたらなんか知らないけど同化しちゃって、出れなくなって、キミは元気になるし、意味わかんなーい!≫」
「オイ、ちょっと待て」
今、この脳内タヌキが聞き捨てならないことを言った。
助けようと思ってこうなったのではなく、単なる偶然だった……?
「なんだ、このマヌケタヌキは⁉」
「≪でも、結果助かったデショ!?≫」
あんまりな成り行きに怒りの声を上げる郁也に、脳内タヌキが開き直ったのか胸を張る。
「やはりポンコツでしたか」
呆れ顔の清水に、今度ばかりは同意したい。
この脳内タヌキ……いや、もうコイツはポンコツなポンポコタヌキのポン助でいい。
「じゃあなにか!?
俺はこの先タヌキ人間のままか!?」
「≪そうかな~。
ボクってばキミと同化しちゃったら、キミになにかあったら一蓮托生ってヤツだし、ボクもすんごく困るの!
だから危ないことをしないでよねっ!≫」
郁也が問いただすと、ポン助はサラッとそんなことを言ってくる。
何故にタヌキの安全にまで郁也が気を配らねばならないのか。
いや、おかげで今郁也は助かったているのは事実なのだけれど、それでも相手がこのポンコツなポン助だと思うと、モヤっとするのだ。
しかし、もうノータヌキな郁也には戻れないらしいことは、なんとなくわかる。
「俺、これ、どうなるんですか?」
不安に襲われた郁也が、清水に問う。
「どうもならないのでは?」
すると、清水はあっさりとそう告げた。
「そんな……」と絶望する郁也に、清水が「まあまあ」と宥めてくる。
「どうなるもなにも、普通に、今まで通りに暮らせばいいのです。
人間の一生なんて、あやかしにとってはあっと言う間ですから。
その一瞬の間だけ橘くんを生かしてもらっても、いいのではないですかね?
橘くんが寿命で逝く頃には同化も解けて、そのポンコツは元の化けタヌキに戻るでしょうし」
清水が言ったことに、郁也は呆ける。
タヌキ付きになったのに、祖父母と今まで通りに暮らしていいというのか?
だったら、郁也はそれだけで安心である。
「≪調伏~! とかしないの?≫」
ポン助も不安事を口にする。ポンコツでも一応不安があったらしい。
これに、清水が笑みを深める。
「金を貰えるわけでもないのに、何故僕がそのような労力を払わなければならないのですか?」
清水が低い声で述べるのに、郁也は背中をユラユラしていた尻尾がブルルッしたのがわかる。