16 衝撃の事実
「……え?」
きょとんとする郁也を、清水がじぃーっと見つめる。
「僕はそれとは少々、違った見方をしているのです」
「……と、いうと?」
郁也はなんだか自分事ながら、刑事モノの二時間ドラマを見てる気分になって、ごくりと息を呑んだ。
そして清水が懐に片手を入れながら、口を開く。
「橘くんは、本当は死んでいた。
けれどなんらかの事情で生き返った、と」
そう言った清水が懐からなにかを投げてきた。
「へ!? なにっ!?」
驚いた清水の視界に入ったそれは、長い数珠である。その数珠が、郁也の腕に絡まった瞬間――
≪ウギャア!≫
脳内タヌキが悲鳴を上げ、郁也自身もまるで感電したかのような衝撃を受けた。
――なにこれ、しびれるんだけど!?
あの清水の数珠はしびれさせる機能付きなのか?
今どきの数珠とはそんな物騒なものなのか、はたまた僧侶の肩こり対策の機能なのか。
しかし、郁也にとって苦痛な部類であるのは確かで、脳内タヌキもなにやらわめいているのが感じ取れるが、それよりも――
「≪痛い!≫」
偶然にも、郁也と脳内タヌキの声が重なった、その時。
ポフン!
そんな軽い音と共に、郁也の頭とお尻に違和感が生じた。
「やはり、正体を現しましたか」
清水が固い声で告げ、郁也を睨んできた。
――いや、正体とか意味わからないことはどうでもいいから!
とにかく、この痛いのをどうにかしてほしい。
「痛いよ、先生!
生徒虐待反対!」
郁也が涙目で訴えると、何故がお尻のあたりをモフモフとしたものがモフモフしてくる。
なにがモフモフしているのか気になるが、まずは痛いのが嫌なのだ。
しかしそんな郁也に対して、清水が目を丸くした。
「え? 橘くんは意識があるのですか?」
「は? 先生なに言ってんの?」
清水がやっていることの意味が分からない郁也は、同じように目を丸くする。
「僕はてっきり、死んだ君にその化けタヌキが成り代わったものだとばかり……」
「へ? タヌキって、なんで?」
郁也は清水が脳内タヌキの存在を言い当てたことにドキリとする。
あの謎タヌキはどういう存在なのか不明だが、今のところ実害はないので気にしないようにしていたのだが。
「化けタヌキ」という言い方が、ちょっと不穏なので心配になってくる。
すると、清水が呆れ顔になった。
「呑気ですねぇ、気付いていないのですか?
その頭とお尻についてるモノに」
そう言う清水が数珠をジャラリと振れば、郁也の腕に絡まっている数珠が外れた。
なんだか器用だし、ちょっとカッコよかったなと思ってしまう。
しかしそれはともあれ、郁也は指摘された頭とお尻に手をやってみる。
「うん?」
すると、なにかモフっとしたものに手が触れた。
頭には二つの丸っこい塊があり、お尻にはなにやらでっかいモフモフがある。
さっきからお尻をモフモフしていた正体は、多分コレだろう。
にしても、コレは一体なんなのだろうか?
確認しようにも頭の上は見えず、お尻がギリギリ茶色いものが視界をかすめただけである。
――見えないと、余計に気になる!
郁也はかろうじて視界に納まるお尻の方を見ようと、その茶色いものを追いかけるが、すぐに逃げられてしまっていると。
「その自分の尻尾を追いかける犬みたいな行動は面白いですけど、今はこれで我慢しておきなさい」
清水がそう言って、ポケットサイズの手鏡を差し出してきた。
デキる男は手鏡を持っているらしい。
手鏡どころかハンカチもポケットティッシュも持っていない郁也は、一つ学ぶ。
そしてありがたく手鏡を使わせてもらい、まずは頭を映すと。
「なんだこれ?」
頭に茶色い動物の耳――もっと言えば、タヌキの耳がついていた。
あの夢の中の脳内タヌキのものと同じであるので、間違いない。
そして次に鏡でお尻をなんとか工夫して移すと、そこにはモッフリとした茶色くてぶっとい尻尾がある。
つまり、郁也はタヌキの耳と尻尾を付けているのである。
「は!? なんで!?」
郁也が自分の状態にギョッとすると。
「≪うわぁ~ん、辱められたぁ!≫」
脳内タヌキが泣き喚いた。
郁也の口で。