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15 現場検証

「ここらしいですね、橘くんが倒れていたのは」


崖の下に降りて少し移動してから、清水がそう言ってとある地点を指し示した。


「うわ……」


郁也はその地点を見て、腰が引けてしまう。

 なにせそこには、結構広範囲の血の跡がベッタリとついた大岩があったのだから。


「マジで、ここですか?」


「ええ、マジでここです」


怯え気味の郁也の質問に、清水がそのまま返してくる。

 そして、当日のことを語り出したところによると。


「あの日、ご近所さんネットワークから私に連絡がありましてね」


その知らせに驚いた清水は、その時にやっていた作業をまるっと放り出して、すぐに現場を見に行ったそうだ。

 そして駆け付けたのは、ちょうど救急隊が救助している最中だったのだが、その光景というのが酷いものだったらしく。


「橘くん、君は頭は血まみれだし、制服は擦り切れてボロボロだしで、『ああ、これは死んだ』と思いましたね。

 実際、その時は心臓が止まっていて、蘇生作業でてんやわんやでしたし」


あまりに衝撃過ぎる内容に、郁也は口をポカーンと開けてしまっていた。


「……マジで?」


「ええ、マジです」


郁也の確認に、清水が重々しく頷く。

 ということは、郁也のあの気を失う前の感覚は真実だったのか。

 けれど、それにしては頭を縫ったりだとかの処置をした跡がないのはどういうわけか?

 郁也のそんな疑問についての答えを、清水が口にする。


「しかしですね、救急隊員が不思議なことを言うのです。

 橘くんの身体には、傷一つなく綺麗なものだと。

 けれどこの崖の高さとあの血まみれボロボロ具合を見るに、そんなはずないと思いませんか?」


「えっとぉ……?」


清水にそう話を振られるものの、無事ではなかった覚えのある郁也としては「思う」と言いたいけれど、事実こうしてピンピンしている身からすると、「でも実際元気だし」とも思ってしまう。

 本人ですらこんな微妙な心理なのだが、その時の現場の見解はどうなったのかというと。


「けれど現実にこうなのだから、なにかしらの奇跡的な偶然だろうと、救急隊員は言っていました。

 頭部の血まみれは、なにか事情があって血糊でも事前に被っていたのだろうというのが、出された結論ですね」


「いや、ないでしょそんな偶然とか」


清水が告げたことに、郁也は思わずツッコんでしまう。

 少なくとも郁也はそんなショッキングな偶然をこなした覚えはない。

 その結論を出した救急隊員は、よほどテンパっていたのだろうか?

 その後についても、清水が教えてくれる。


「病院に担ぎ込まれた頃には、心臓も動き出していました。

 心停止の時間が長かったので、なにかしらの症状が出るかと思われたものの、それもなくただ眠るだけ。

 目を覚ましてもいたって元気で即退院。頑丈な身体を持っていて、実に羨ましいことです」


「それは、ありがとうございます?」


なんだか褒め言葉を言われているけれども褒められた気がしない郁也であるが、一応礼を述べた……のだが。


「というのが、世間で言われている君の事情ですがね」


清水が急に声を低くしてそう言ってきた。

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