14 寄り道にて
車は山道を登っていくが、やはり4WD車は原付バイクと違って坂道での走りが力強い。
郁也はいつも愛車に「がんばれ! まだまだやれる!」と応援しながらの登坂だというのに、羨ましい限りである。
そんな風に感じながら、いつもは前だけを見て楽しむこともしない周囲の景色を、窓越しにボーッと眺めていると。
「ああ、ちょっと寄りますね」
清水がそう言って車を端に寄せて止めたのは、事故が起きたことを知らせる看板前、つまり郁也が事故を起こした現場である。
停車した清水は、そのまま運転席から外へ出た。
――なんだろう?
郁也はなにをする気かと、窓から顔を出して眺めていると。
清水が看板の前に備えられていた花束とお茶のペットボトルを回収している。
「いいんですか? それ、とっちゃって」
郁也は思わず声をかけた。
いや、郁也はこうして生きているのだから、お供えのようなソレはなくしてもらって構わないのだが。
それでも置いた人間に無断でどうこうするのは気が引けるという、微妙な心理なのである。
しかしこの郁也の心配に、清水はニコリと微笑んで告げたことには。
「いいのですよ、なにせこれを置いたのは僕ですから」
「はい!?」
なんと、縁起でもない置物の犯人はここにいた。
「なんで先生が、そんなことをしたんですか!?」
郁也としては最もだと思える苦情に、しかし清水は笑顔のまま。
「それは、安らかに眠ってほしかったからに他なりませんね。
兼業とはいえ、坊主ですし」
清水の「安らかに眠って」のセリフに反論したい郁也だが、もう一つ新しい情報も気になる。
「清水先生、お坊さんなんですか?」
実家が寺なのはついさっき聞いたが、自身も僧侶だとは驚きな郁也に、清水は「おや、そこが気になりますか?」と目を丸くする。
「ええ、そうです。
きちんと日々修行をこなしていますし、父に代わってお経をあげにお宅を回ることもあります」
「ふわぁ、そうなんだ。なんか、大変そうですね……」
学校の授業をこなしてお寺の活動もするなんて、想像すると忙しそうだ。
――あ、だからこんなに早く帰る日があるのかも?
学校側も僧侶活動を認めて、時間の融通を利かせてくれているのかもしれない。
あれだ、部活動で生徒が授業を早引けするみたいなカンジで。
いや、僧侶は部活動ではないだけれども。
しかしだとしたら、さっき清水を「暇なのか?」と思ってしまったことを謝らなければならないだろうか?
そう思ってしまって、郁也が眉をへにょっとさせていると。
「そうだ、せっかくですから下も見ていきますか?」
清水がそんな提案をしてくる。
「えっと……」
郁也自身も現場がどういう所だったのか、興味がある。
「じゃあ、行きます」
ということで、崖の下に降りていく階段が近くにあったので、それを使って二人で降りていく。