13 郁也の事情2
郁也はそれまでは都心の高校に入学するつもりでいたので、進学先から新しく考え直す事態になり、慌てたのだが。
祖父母が地元の高校へ急遽入学できるか交渉したところ、幸い入学人数が定員割れしていたとかで入れそうだとなり。
一応入学試験は受けたものの、すんなりと入学が決まり、今こうして通っているわけだ。
こんな迷惑両親から離れられ、郁也は今の生活に満足していた。
ド田舎暮らしになったが、少なくとも引っ越してくる前よりも寂しくない。
近所付き合いも、遠巻きにされて針の筵であった引っ越し前より、両親の話をストレートに話題にされて笑い飛ばされるこちらの方が、気分もマシな気がする。
大恋愛も、本人たちには結構なことだが、巻き込まれる家族はたまったものではない。
郁也は巻き込まれたというか、産まれたせいで巻き込まれたという言い方が正しいのだが。
今の郁也にならば、両親の結婚に反対をした人たちの言い分が理解できる気がする。
あの両親は、「好き」というだけでお腹がいっぱいになって、家事育児などの全ての事が解決すると思っていたのだろう。
特に、母親の方がそういう性格であったと思う。
けれど生活は「好き」だけではなんともならなくて、必要なのは労力とお金である。
そして両親はそのあたりの生活力が欠けていた。
母親は専業主婦だったけれど、「好き」「愛している」「○○記念日」などの特別さを欲しがって、日々の地味な雑務を嫌がった。
父親は人に自慢できる日常を意識するあまり、日常生活を普通に送るということを嫌がった。
そんな二人が結婚という日常生活の連続を長く続けることなど、土台無理だったのだ。
けれどすぐに離婚するのは、お互いのプライドが許せなかったらしく。
そんな両親の歪んだ生活のあおりを受けたのが郁也である。
そのため、郁也は誰もやらない家事を幼い頃からするようになり、必然的に家事が上手くなった。
祖父母と暮らすようになって、一人きりで家事に追われず、誰かと苦労を分かち合える生活がなんと楽なことかと感動したものである。
郁也はそんな過去のあれやこれやを思い返しながら、清水の質問に答えた。
「……そうですね、こっちにきて始めた畑仕事が楽しいです」
祖父は農家であり、郁也も週末に手伝っている。
今まで役に立っていなかったこの体格の良さが、人生で初めて役立った気がした。
「俺、結婚はしなくていい気がしています」
「今からそんなことを言うなんて、枯れてますねぇ」
郁也の心の底からの感想に、清水が苦笑する。
けれどあの両親を見ていると、そんな考えになるのである。
もちろん、まともに日常を送っている家族がほとんどなのはわかっているのだが。
「まあ、まだ高校生活も始まったばかりなんですし、これからいくらでも考え方は変わりますよ」
清水がそう結論付けたところで信号が青に変わり、発進した車は山道へと入っていく。