はじまりの魔女
『ハロウィンの夜に魔女現る』
SNSのトップニュースの記事に載っている大きな見出し。そこにはほうきにまたがり、宙に浮いている私の姿が映し出されていた。数時間前に男の子を救出したばかりだというのに、コメント欄はねずみ算式に増え続いていて、見たことがない桁数に膨れ上がっていた。ギャラリーの誰かが写したであろう動画を大手のテレビ局が買収したのか、テレビのニュースでもそれが題材的に取り上げられている。キャスターがゲストに話題を振ると「にわかに信じがたい」「海外ドラマの撮影では?」「ハロウィンイベントを駆使した新手のマーケティング」などといったコメントが返っていた。
まあ、混乱するのも無理はない。
このご時世に、魔女なんて。
「まあまあの成果じゃない?」
ベッドに寝転んでスマホをいじっている私の耳元でレイがささやく。
「後はこれで、あんたの情報がどれくらい出るかね」
仰向けになり、隣にたたずんでいるレイを見やる。顔は私が変身した時と瓜二つ。服装はシンプルな白のロングワンピース。それ以外は何も身につけていない。しいて言えば、少し体がうっすら透けているくらいだろうか。
「幽霊のくせに生前の記憶がないなんて、どうかしてる」
「それを言うなら、幽霊のあたしを見て驚かなかったらマナのほうがどうかしてるよ」
私たちはお互いにせせ笑った。正直なところ、私の正体を知る人物がレイでよかったと思っている。万が一、私の正体が他の誰かに知られれば、私と正体を知った人物は灰になってしまうのだから。