サクラサク
銘尾友朗様主催『冬の煌めき企画』参加作品です。
冷たい小雨の降る、冬の週末。
この店に、見慣れない女性客がやって来た。
「食パンのハーフサイズ、四枚切りでお願いします」
トレーの上には、ピザや菓子パンがびっしり。
大事そうにマイバッグに詰め、帰って行った。
彼女の次に並んでいた、常連さん。
彼のオーダーはいつも、食パンハーフサイズの四枚切りだ。
次の週末も、そのまた次の週末も。
食パンが焼き上がる二時頃になると、彼女は店にやって来た。
そして、いつの頃からか。
二人は一緒に店を訪れるようになった。
「「食パンを一斤、八枚切りでお願いします」」
午後二時。
いつもの二人がやって来る時間帯。
焼きたての食パンを店頭に並べ終える。
すると、今年最初の甘い香りが立ち込めた。
もうすぐ焼き上がるのは、季節限定の桜あんぱん。
この店には、ひと足先に春が来る。