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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第二部

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第21話 老人と城

更新です('ω')

「お待ちしておりましたよ、皆さま」


 大仰な仕草でロゥゲが腰を折る。


「待っていた?」

「左様。いずれはここ──ウォーダン城にいらっしゃると思っておりました」


 ウォーダン城。

 それがこの巨大な城の名前か。


「城下町はいかがでしたか? 喜びの都『グラッド・シィ=イム』は美しい街でございましょう?」


 口を弧に歪めて嗤うようにするロゥゲ。

 ここまでの道行きを見ていたと言わんばかりだ。


「教えてくれ、ロゥゲ。()()()()()?」

「イヒヒ……それを、知ってどうなさいます? この黄昏に染まった街並みと民は、もはや()()()()()()()()()()()()()()()()()


 相変わらず、抽象的な言葉でぼやかして嗤う老人に小さく苛つきながらも、俺は言葉を続ける。


「あの魔物たちは、元人間なのか?」

「これはこれは。さて、人間とは何でございましょう? 四肢と頭部を有する生命体であることですかな? それともコミュニケーションができる手合いを指すのですかな?」

「そういうことを、聞いてるわけじゃないというのはわかっているよな?」


 俺の言葉に、老人は首を振る。


「いいえ、ユーク様。その在り方がどのようであっても、人は人たり得るのかというのは重要なことでございますよ」


 狂気の中に哲学すら感じさせる言葉だ。

 確かに考えたこともなかった。『人間』が何であるか、など。


「教えて、おじいちゃん。どうして、ここの魔物はなんなの?」

「吾輩の口からはとてもとても。()()()()()しまいますから。答えは、ご自分の目で、耳で、手で、お確かめ下され」


 そう言って、巨大な城門を指し示す。


「城の中に答えがあるのか?」

「あるいは」


 最後まではぐらかしておいて、俺達をどこへ誘うというのか。

 信用できないが、どちらにせよ城の調査もする必要はある。

 まるで誘いに乗ったようで業腹だが、『ウォーダン城』に踏み込むしかあるまい。


「ねぇ、ロゥゲさん。あの指輪は、なに?」

「あれはかつて、『一つの黄金』と呼ばれていたものでございます」

「一つ? たくさん、あるのに? ……あれで何を、編み上げて、いるの?」


 レインの質問が俺にはよくわからなかった。

 俺にはあれが何かわからなかったし、大した魔法道具(アーティファクト)のようにも見えなかったからだ。

 そして、ロゥゲにしても予想外の問いだったらしい。

 レインの質問に一拍おいてから、老人が口を開く。


「聡いことが幸せとは限りませぬよ、青い髪の美しいお嬢さん」

「ボクは、知りたいだけ。あれは、何をもたらす、ものなの?」


 魔法道具(アーティファクト)を見る時とはまた違う、どこか真剣な目でロゥゲを見るレイン。

 マリナと同じく、魔法使いか、あるいは僧侶として何かをつかみかけているのかもしれない。


「青い髪の聡いお嬢さん。あなた様はもうお気づきのはず」

「……」

「愚かしく無知であることも、幸せなことなのですぞ」

「それでも、知りたい」

「左様でございますか……。では、進まれるとよろしいでしょう」


 肩を揺らして嗤うロゥゲの姿は徐々に薄れ始めていた。


「そろそろ、時間でございますな。次にまみえるのは、いつになりましょうか。このロゥゲ、楽しみに待たせていただきますぞ」

「今度は、答えてくれるのか?」

「狂人の口から出る言葉は出任せと決まっておりますぞ。自らの目と耳と手で真実に触れられるとよろしいでしょう……──」


 忠告とも取れる言葉を残して、またしても狂った老人は滲んで消えた。


「何者なのでしょうか……?」


 注意深く警戒していたシルクが、緊張を解いて俺に問う。


「わからないが、どうやら俺達は誘われているらしい」

「っすね。挑発だと思うっす」


 金属製の巨大な城門を見ると、到着時と少し違った部分があった。

 ほんの少しだけ、隙間が空いている。

 到着時は、完全に閉じていた巨大な門扉が、だ。


 ロゥゲの仕業だろうか?

 ……恐らくそうだろう。

 中に入って来い、というわけか。


「それよりも、だ。レイン、何かわかったのか?」

「感覚的なもの、だから、説明しにくい。帰ったら、少し、試してみたいことが、ある」

「その時に、説明をしてくれるか?」

「うん。ユークに、手伝ってもらわないと、だしね」


 レインにうなずく。

 隠しているというわけではないのだろう。

 俺と同じく、確信が持てないから口にできなかっただけに違いない。


「わかった。よし……それじゃあ、まずは依頼から片づけていこう」


 全員が頷いたのを確認してから、ネネに目配せをする。

 意図を読んだネネが、城門へと駆けていく。


「クリアっす。踏み込めるっすよ」


 罠や敵影はないようだが、さて……内部はどうなっているか。

 オーリアス王城跡迷宮では、王城に入ってからが本番だった。

 罠も多く、魔物(モンスター)の強さも急激に上がるので、何度か危険な目にあったこともある。


 ここもそうだとすれば、些か厄介だな。

 これまで出会った魔物(モンスター)の多くは、体感だがCランク相当だった。

 しかも、特殊な能力を用いるものが多い。


 もし、セオリー通りならば、遭遇する魔物のランクはB以上。

 下手をすればAランク相当の魔物(モンスター)もいるかもしれない。


「緊張、してるね?」

「ああ。気を引き締めてくれよ? 【退去の巻物スクロールオブイグジット】はもう手元にないんだからな」

「うん。気を付けて、行こう」


 レインにうなずいて、魔法の巻物(スクロール)魔法薬(ポーション)のストックをそっと確認しておく。

 奇襲を受けても撤退に必要な作戦を組み立てるだけの準備はある。

 ……大丈夫だ。


「念の為、各自損耗チェック。終わったら踏み込もう」

「あたしは問題なし!」

「わたくしも矢のストックは十分です」

「魔力、よし、です」

「いけるっす」


「よし、それじゃあ……『ウォーダン城』進入開始!」


いかがでしたでしょうか('ω')

もう少ししたら、いろいろわかるかも……?


「続きが気になる」「指輪って……もしや」って思った方は是非下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援していただければ幸いです!


よろしくお願いいたします。

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