第21話 老人と城
更新です('ω')
「お待ちしておりましたよ、皆さま」
大仰な仕草でロゥゲが腰を折る。
「待っていた?」
「左様。いずれはここ──ウォーダン城にいらっしゃると思っておりました」
ウォーダン城。
それがこの巨大な城の名前か。
「城下町はいかがでしたか? 喜びの都『グラッド・シィ=イム』は美しい街でございましょう?」
口を弧に歪めて嗤うようにするロゥゲ。
ここまでの道行きを見ていたと言わんばかりだ。
「教えてくれ、ロゥゲ。ここは何だ?」
「イヒヒ……それを、知ってどうなさいます? この黄昏に染まった街並みと民は、もはや救いようがないほどに救われています」
相変わらず、抽象的な言葉でぼやかして嗤う老人に小さく苛つきながらも、俺は言葉を続ける。
「あの魔物たちは、元人間なのか?」
「これはこれは。さて、人間とは何でございましょう? 四肢と頭部を有する生命体であることですかな? それともコミュニケーションができる手合いを指すのですかな?」
「そういうことを、聞いてるわけじゃないというのはわかっているよな?」
俺の言葉に、老人は首を振る。
「いいえ、ユーク様。その在り方がどのようであっても、人は人たり得るのかというのは重要なことでございますよ」
狂気の中に哲学すら感じさせる言葉だ。
確かに考えたこともなかった。『人間』が何であるか、など。
「教えて、おじいちゃん。どうして、ここの魔物はなんなの?」
「吾輩の口からはとてもとても。ざわついてしまいますから。答えは、ご自分の目で、耳で、手で、お確かめ下され」
そう言って、巨大な城門を指し示す。
「城の中に答えがあるのか?」
「あるいは」
最後まではぐらかしておいて、俺達をどこへ誘うというのか。
信用できないが、どちらにせよ城の調査もする必要はある。
まるで誘いに乗ったようで業腹だが、『ウォーダン城』に踏み込むしかあるまい。
「ねぇ、ロゥゲさん。あの指輪は、なに?」
「あれはかつて、『一つの黄金』と呼ばれていたものでございます」
「一つ? たくさん、あるのに? ……あれで何を、編み上げて、いるの?」
レインの質問が俺にはよくわからなかった。
俺にはあれが何かわからなかったし、大した魔法道具のようにも見えなかったからだ。
そして、ロゥゲにしても予想外の問いだったらしい。
レインの質問に一拍おいてから、老人が口を開く。
「聡いことが幸せとは限りませぬよ、青い髪の美しいお嬢さん」
「ボクは、知りたいだけ。あれは、何をもたらす、ものなの?」
魔法道具を見る時とはまた違う、どこか真剣な目でロゥゲを見るレイン。
マリナと同じく、魔法使いか、あるいは僧侶として何かをつかみかけているのかもしれない。
「青い髪の聡いお嬢さん。あなた様はもうお気づきのはず」
「……」
「愚かしく無知であることも、幸せなことなのですぞ」
「それでも、知りたい」
「左様でございますか……。では、進まれるとよろしいでしょう」
肩を揺らして嗤うロゥゲの姿は徐々に薄れ始めていた。
「そろそろ、時間でございますな。次にまみえるのは、いつになりましょうか。このロゥゲ、楽しみに待たせていただきますぞ」
「今度は、答えてくれるのか?」
「狂人の口から出る言葉は出任せと決まっておりますぞ。自らの目と耳と手で真実に触れられるとよろしいでしょう……──」
忠告とも取れる言葉を残して、またしても狂った老人は滲んで消えた。
「何者なのでしょうか……?」
注意深く警戒していたシルクが、緊張を解いて俺に問う。
「わからないが、どうやら俺達は誘われているらしい」
「っすね。挑発だと思うっす」
金属製の巨大な城門を見ると、到着時と少し違った部分があった。
ほんの少しだけ、隙間が空いている。
到着時は、完全に閉じていた巨大な門扉が、だ。
ロゥゲの仕業だろうか?
……恐らくそうだろう。
中に入って来い、というわけか。
「それよりも、だ。レイン、何かわかったのか?」
「感覚的なもの、だから、説明しにくい。帰ったら、少し、試してみたいことが、ある」
「その時に、説明をしてくれるか?」
「うん。ユークに、手伝ってもらわないと、だしね」
レインにうなずく。
隠しているというわけではないのだろう。
俺と同じく、確信が持てないから口にできなかっただけに違いない。
「わかった。よし……それじゃあ、まずは依頼から片づけていこう」
全員が頷いたのを確認してから、ネネに目配せをする。
意図を読んだネネが、城門へと駆けていく。
「クリアっす。踏み込めるっすよ」
罠や敵影はないようだが、さて……内部はどうなっているか。
オーリアス王城跡迷宮では、王城に入ってからが本番だった。
罠も多く、魔物の強さも急激に上がるので、何度か危険な目にあったこともある。
ここもそうだとすれば、些か厄介だな。
これまで出会った魔物の多くは、体感だがCランク相当だった。
しかも、特殊な能力を用いるものが多い。
もし、セオリー通りならば、遭遇する魔物のランクはB以上。
下手をすればAランク相当の魔物もいるかもしれない。
「緊張、してるね?」
「ああ。気を引き締めてくれよ? 【退去の巻物】はもう手元にないんだからな」
「うん。気を付けて、行こう」
レインにうなずいて、魔法の巻物と魔法薬のストックをそっと確認しておく。
奇襲を受けても撤退に必要な作戦を組み立てるだけの準備はある。
……大丈夫だ。
「念の為、各自損耗チェック。終わったら踏み込もう」
「あたしは問題なし!」
「わたくしも矢のストックは十分です」
「魔力、よし、です」
「いけるっす」
「よし、それじゃあ……『ウォーダン城』進入開始!」
いかがでしたでしょうか('ω')
もう少ししたら、いろいろわかるかも……?
「続きが気になる」「指輪って……もしや」って思った方は是非下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援していただければ幸いです!
よろしくお願いいたします。





