第18話 教会の魔物とマリナの一撃
更新でございます('ω')
ネネと入れ替わるようにして、教会の中を覗き込む。
先ほどまで聞こえてきていた泣き声は止み、周囲は静寂に包まれている。
「……?」
暗がりの中に、蝋燭の灯りが揺らめいている。
やはり、人がいるのだろうか?
姿は見えないが。
……いや、いる。
教会の一番奥、本来なら祈りのシンボルなどを掲げる場所に、異質なものがいた。
「なんだ、あれ……!」
自問するように呟いて、心の安定を図る。
それほどまでに、それは不気味で得体が知れなかった。
「あれ、赤ん坊ですか?」
シルクの問いに、どう答えたものかと言葉を詰まらせる。
何せ、あまりにも現実離れしているからだ。
確かに、人間の赤子の形をしてはいる。
しかし、まるで生気のない青白い肌をしたそれは、大きすぎた。
頭の大きさだけで、俺の背丈と同じくらいはある。
冒険者をやっていれば理解不能なものに出会う機会は多いが、これはいくら何でも異質すぎる。
「巨人族の赤ちゃんかな?」
「いいや、巨人族は人間サイズで生まれてきてデカくなるんだ。赤ん坊がデカいなんてことはない」
「さすが、ユーク! 物知りだね」
マリナの称賛に心の中で自嘲する。
そんなこと知らなければ「お、そうかもしれないな!」なんてこの事態を軽視できたかもしれなかったのに。
「ここを離れよう」
そう短く告げて、たち去ろうとしたその瞬間。
小さく身じろぎした青白い赤子の目が、俺を捉えた。
(気付かれた……?)
黒目しかない虚ろな瞳で、俺たちを見ていた赤子は一拍おいてから、大声で泣き始めた。
「あぅううううううう! あああぁぁぁ!!」
空気を震わせるような高く大きな泣き声に、思わず耳を塞ぐ。
泣き声に影響されてか、灯されていた蝋燭の炎が次々と消え……黄昏の光がステンドグラスを通して教会に降り注いだ。
違和感が大きく膨れ上がり、体を強張らせる。
何故、蝋燭が消えて室内が明るくなる?
いや、最初の段階で、なぜ俺は気が付かなかったんだ!
あの小さな出窓しかないアパートメントですら、室内は明るかったというのに、このようにステンドグラスがある教会の中が暗いわけがないのに。
「ユークさん、あれを!」
シルクが弓を構えつつ、俺の視線を誘導する。
その先では、新たな怪異が起きていた。
ステンドグラスから差し込む、どこか神々しさすら感じる黄昏の光の下、ずるりと立ち上がる者たちがいる。
暗がりで気が付かなかったのか、それともロゥゲのように地面からしみ出したのか。
いずれにせよ、あの巨大な赤子の前に十数体の奇怪な女性たちが現れていた。
ねじくれ、節くれだった頭部を持つ修道服の女たち。
趣味の悪いマネキン人形のようにも見えるそれらが、俺達に明確な敵意を向けて迫ってきていた。
「また訳の分からないのが……ッ!」
悪態をつきつつ、強化魔法を振りまく。
とにかく数が多いし、何をしてくるかわかったもんじゃない。
「迎撃をかけます!」
「ボク、も!」
シルクとレインが矢と魔法を放つ。
その隙間をぬって、ネネが修道服の女に小太刀を振るう。
「あああぁ! ああーうあああー!」
その間も気味の悪い巨大赤子は泣き続け……その周囲に修道服の女を呼び寄せる。
どうにも、あれが元凶か。
「〈魔法の矢〉!」
久方ぶりに使う攻撃魔法で、赤子に仕掛ける……が、その射線上に修道服の女が飛び出してきてそれを防ぐ。
「〈魔法の矢〉、〈魔法の矢〉」
二連射するも結果は同じ。
攻撃手段であると同時に、身を守る盾でもあるわけか。
だが、これで推測はできる。この状況を打開するには、あの巨大な赤子を仕留めねばなるまい。
「マリナ、いけるか?」
「うん。大丈夫、気にしないで」
黒刀を抜き放ったマリナが、正眼に構える。
「強化をフルで入れる。サポートもする」
「……あの赤ん坊の首を落とせばいいんだね?」
「ああ、仕留めてくれ」
「わかった」
小さく息を吐きだしながら、マリナが殺気を高める。
化物とはいえ、女の子に赤ん坊の姿をしているモノを仕留めろ、だなんて自分のクズさ加減に嫌気がさすが、あれを仕留めようと思えば一番突破力の高いマリナに任せるのが最適解だ。
高位の強化魔法をマリナに付与していく。
俺としても些か消耗の大きなものがあるが、つぎつぎ湧き出る修道服の魔物を相手にしてじり貧になるよりはいいだろう。
「……行くッ!」
〈韋駄天足〉で強化されたマリナが、放たれた矢のような速度で飛び出していく。
狙いを知ってか、マリナに群がる修道服の女達に弱体魔法を浴びせて足止めしつつ、俺も後を追って走る。
「援護するっす」
その俺を追い越したネネが小太刀を振るってマリナの露払いに加わる。
「殺るよ、ユーク!」
「おう! ──〈必殺剣〉!」
『魔剣化』で禍々しいオーラを放つマリナの黒刀に、一撃必殺の強化魔法を付与する。
突進の勢いままに、大きく一太刀を振るうマリナ。
「とああああッ!」
その一閃が、巨大な赤子を捉えた。
いかがでしたでしょうか('ω')
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