第2話 ドゥナ到着と冒険者ギルド
本日も更新('ω')
フィニスを発って二週間。
悪天候も、魔物との遭遇もない順調な道行きは、俺達を国境近くの交易都市、『ドゥナ』へと到着させていた。
初めて訪れる南の交易都市は、もう冬だというのにかなりの賑わいで、さすが商人の街だなという感想を俺に抱かせた。
「にぎやかだね! あれは何だろう?」
はしゃいだ様子のマリナが周囲をきょろきょろと見回して、珍しいものを見つけては落ち着きなく指さしている。
「あれはサルムタリア風カフェじゃないかな。……宿も飯屋も多そうだ。交易の中心っていうくらいだし、珍しい料理が食べられるかもしれないぞ」
俺の言葉に、隣のシルクが吹き出す。
「ユークさんって、意外に食道楽ですものね」
「そうかな? 食事が美味いに越したことはないだろう?」
「それもそうですね。わたくし達の苦手な食べ物が多くないといいんですけれど……」
冒険者というのは基本的に体が資本だ。
食事と水があわなければ、十全なポテンシャルを発揮できず、リスクにつながる。
幸い、俺の料理はみんなに受け入れられているが。
「冒険者、多い。ね?」
馬車から大通りを見ていたレインがポツリと漏らす。
「新しい迷宮の情報が広がっているんだろう。格好からして隣国の冒険者も来てるみたいだな」
「わかるの?」
「ああ、少し恰好が違うのがいるだろう。ほら、例えば彼らはサルムタリアの冒険者だと思う」
大通りを数人で歩く男たち。
腰に大振りな曲刀を提げ、革鎧の上から色鮮やかなキルト生地の短いフード付き外套を羽織っている。
「あのマントはサルムタリア人の装いなんだ。俺にはわからないけど、柄や色に意味があって、出身地や家柄を表わしているらしい」
「そう、なんだ……」
レインが興味深げにサルムタリアの冒険者一行を見やる。
あまり人を凝視するのは良くないことなのだが、興味を惹かれるとそこにフォーカスしてしまうのがレインの特徴だ。
ま、馬車の中からならそうそう気付かれることもあるまい。
「サルムタリアは封建的な風潮がかなり強い国でね、上下関係や家柄をかなり重んじるそうだ。そもそも彼らにしても『冒険者』とは少し性質が違っているって聞いたことがある」
「冒険者じゃないの? 冒険者にしか見えないけど」
マリナが首をかしげて、眉根を寄せる。
「俺達のように自由になれるものではないらしい。一応、こっちで仕事をするために冒険者ギルドに登録はするらしいけど、サルムタリアでは社会階級によって就ける仕事が決まっていて、それは一族単位で管理されているって話だ。だから彼らは家業として冒険者をしていることになる」
「じゃあ、さっきの人たちは家族ってこと?」
「同じキルトを纏っていたし、そうじゃないかな」
俺の返答にマリナが目を輝かせる。
「ユークってやっぱり物知り! それにすごくわかりやすい!」
「そうか? ま、サポーターとしてうまくやるためには、そういう知識も多少なりとも必要だしな」
対人折衝の場合、依頼主や依頼地域の風土に合わせる必要があることが多い。
そういう事もあって、王国と周辺各国のある程度の知識は勉強して頭に入れてある。
「ね、あたし達は、ああいうの作らないの?」
「ああいうの?」
「お揃いのマントとか。冒険者でもたまにいるじゃない? えーっと『グリフォーン旅団』とか」
ああ、なるほど。
確かに、『グリフォーン旅団』は全員でお揃いの腕章を巻いていたな。
他にもいくつかのパーティが色を合せたり、お揃いのデカールを鎧にいれたりしているのを見たことがある。
「ふむ……」
確かに、そういうのがあってもいいかもしれない。
特に俺達は配信でそこそこ有名になってきているし、そういう一体感を出す遊びがあっても悪くない。
「何か考えておくよ」
「やった! 楽しみ!」
せっかくだから、錬金術で何か魔法の効果を付与して魔法道具装備にしよう。
ただのお揃いってだけじゃなくて、もっと実用的な効力を持ったものにしたい。
きっとみんな、驚くぞ。
「ユークが、またなにか、良からぬことを……考えてる」
「なッ……そんなわけないだろ?」
創作意欲がわいてきたところで、レインに看破されてしまった。
最近ますます鋭くなってきたな。
それで、救われることもあるんだが。
和やかな空気のまま、ドゥナの街を馬車で進む。
国選依頼で来たのだからもう少ししゃんとした方がいいのかもしれないが、この街はサルムタリアの文化も入っていて、ちょっとした観光気分になってしまう。
それに、しばしはここが俺達のホームタウンとなるのだ。
街の雰囲気は早めに掴んでおきたい。
「あ、冒険者ギルドが見えてきたっすよ」
手綱を握るネネがこちらを振り向く。
その声に前方を見やると、いかにも冒険者ギルドといった雰囲気の建物が目に入った。
ドゥナは迷宮都市ではないが、交易都市としてそれなりに歴史の旧い都市だ。
冒険者は主に周辺の安全維持や道中の護衛として重宝されており、冒険者ギルドも整備されたのが早かったように思う。
「フィニスよりも少し大きいですね」
「同じくらいじゃない?」
「見てくれはこっちの方がいかついっすね」
マリナ達が、興味深げに初めて見るドゥナ冒険者ギルドの感想を口にする。
その中で、レインだけが首をひねっている。
「どうした? レイン」
「ここ、大暴走にあった事があるの?」
「……資料にはなかったが。ああ、でも確かに」
レインの言わんとすることが判った。
確かに、少しおかしい。
目の前の冒険者ギルドはあまりにも堅牢すぎる気がする。
一階部分は石造りになっており、開かれている扉も鋼鉄製……迷宮都市でもあるまいに、まるで籠城戦を想定したような作りだ。
「さて、何でだろうな?」
レインと一緒に首をひねっている間に、俺達は冒険者ギルドへと到着した。
いかがでしたでしょうか('ω')
第二部も頑張って進めてまいります。
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