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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第一部

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第48話 呪いと推測

今日も更新頑張るぞい('ω')

楽しんでいただければ幸いです。

 予想通り下りへと転じていた階段を駆け下りて、後方を振り返る。

 追ってきていた“夜の魔物”たちの姿は、見えなくなっていた。


「全員、無事か?」

「アタシはなんとか」

「私も大丈夫っす」

「疲れた、けど、大丈夫」


 死の国の夜というものが、ここまで心と体を蝕むとは思わなかった。

 一歩ごとに生気が削られていく実感があり、もはや強化魔法で無理やりに体を動かしているような状況で、なんとか滑り込んだ印象だ。


「すまない……もう〈魔力継続回復(リフレッシュ・マナ)〉を使うだけの魔力もない……」

「わたくし達よりも、ユークさんですよ……!」


 シルクが俺を見て、苦い顔をする。

 確かに、かなり疲労があるがそんな深刻そうな顔をするほどではない。


「ユークさん、それ、なんすか……」

「?」


 首をかしげると、ネネが冒険道具の手鏡を差し出してくる。

 受け取って、覗き込むと……俺の左頬から首筋にかけて得体のしれない紋様の様な何かが刻まれ、うっすらと血が滴っていた。


「なんだ、これ……?」


 確認するように手で触れて、思い出した。

 〝青白き不死者王〟レディ・ペルセポネに触れられた場所だ。

 呪いか何かの類だろうか?


「うん。これ……なにかの呪いだと思う。ごめん、ボクの力じゃ……解除できそうに、ない」


 俺の頬にふれて、レインが目を伏せる。


「とりあえず、これは後回しだ。帰ったら神殿に行ってみるよ。それより……休憩にしよう。かなり疲れた。配信は……ああ、そうだった」


 手に握ったままの『ゴプロ君』を見る。

 撤退中、魔力の雷を放つ“夜の魔物”に襲われて、『ゴプロ君』を含むいくつかの繊細な魔法道具(アーティファクト)が破損してしまった。

 定着が安定したマリナの魔法剣などは大丈夫だろうけど、稼働中だった『ゴプロ君』はもろに影響を受けたようだ。


「ネネのはどうだ?」

「こっちの配信魔法道具(アーティファクト)も破損したみたいっす」

「メンテナンス道具は持ってきている。とりあえずは、体勢を整えようか」


全員に付与を施し“夜の魔物”を足止めしながら全力で走った。

 かなり疲労しているのが自覚できる。


「あの第二階層、一体何だったんでしょう?」

「推測でよければ披露させてもらうが?」

「お願いします」


 シルク含め、全員が興味津々といった様子で俺を見る。


「おそらくモチーフは『レマズルカ叙事詩』の一節に出てくる『灰色の野』だと思う」


 『灰色の野』はその物語の中盤に登場する、生と死の狭間にあるとされる場所だ。

 平穏なる生の昼と荒廃たる死の夜が繰り返される〝青白き不死者王〟レディ・ペルセポネが支配するこの世ならざる領域である。


「どうしてそんな場所が……?」

「『無色の闇』の特性なんだろうな」


 そう、『無色の闇』が取り繕えなくなった迷宮としての本質。

 世界の端たる『深淵の扉(アビスゲート)』を有するこの迷宮のあるべき姿。


「……やっぱり『深淵の扉(アビスゲート)』ってのは別世界への出入り口なんだと思う」

「それが、『無色の闇』と、どう関係、するの?」

「おそらくだけど、隣接する世界の再現をしてるんじゃないかな?」


 レインが俺の言葉を継ぐように、呟く。


「『無色の闇』自体が、異世界……?」

「……を、模した迷宮ってことだよ」


 迷宮というのは発生した場所に則した形態をとるもので、元鉱山の迷宮ならば内部は入り組んだ坑道が、廃城の迷宮ならば多数の部屋や謁見の間を備えた迷宮となる。

 つまり、元あった存在がその迷宮の特性(カラー)として色濃く出現するのだ。


 そして、この『無色の闇』はその名の通り、まるでその特性(カラー)が見えない。

 混ざり合って塗りつぶされて、まさに闇鍋の様に何が出てくるかわからない場所だ。


 だが、こう考えれば辻褄は合う。

 いくつもの世界の端が重なり合った場所が『深淵の扉(アビスゲート)』であり、その重なり合う世界の一端が俺たちの世界なんではないだろうか。


 であれば、この迷宮そのものが『深淵の扉(アビスゲート)』の特性(カラー)を有しているとして……その根幹に近い深層に至れば、別世界の──そう、『灰色の野』の限定的再現くらいやってのけるかもしれない。


「……ってことだ。半分以上は、俺の叔父さんの推測も入ってるけどな」

「でも、ここってまだ二層だったよね」


 マリナの言葉に、ギクリとした。

 状況が歪すぎてすっかり頭から抜けていたが、そうだった。


「……まずいな」

「なにがっすか?」

「俺たちが居るのは、()()()()()()()()?」


 そもそもにして、二十年前に攻略を成した先遣隊が残した地下三十階層というのは、正しいのか?

 それしかデータがないだけで、迷宮の構成と同じく深度すら変動しているのではないか?


「ボクたち……階層スキップ、してる?」

「可能性はある。俺達にとっての地下三階層は、記録上の地下三階層ではないかもしれない」


 すでに記録(ログ)と配信からかけ離れた状態にある。

 不安定な状態になっている、不確定な迷宮……階段そのものが階層スキップのトリガーになっていてもおかしくはない。


「あ、そうか!」


 マリナがポンと手を打つ。


「きっと色んな階層にスキップしてるんじゃないかな?」

「ん?」

「だって、迷宮が姿を変えてるところって誰も見たことがないんでしょ?」

「……ッ!」


 思わず、レインと顔を見合わせて頷き合う。

 短絡的とも思えるが、柔軟な発想だ。

 入るたびに内部を変化させるという事にとらわれ過ぎていた。


 まさか、いや……そうか。

 階段をトリガーにして、何通りもの別階層にスキップされていると考えれば行きと帰りでまるで構造が違うという状況にも納得できる。


 その上で、迷宮として『五階層にフロアボスがいる』、『宝箱(チェスト)は五階層以降』などのルールを守っていたのだろう。

 そして、今はそれが乱れるほどの異常事態が起きているという事だ。


 ……どうする?

 【退出の巻物スクロールオブイグジット】を使うか?

 次が三階層の難易度なら、まだ対応できるだけの余力はある。


 だが、この先が深層に繋がっていたら?


 階段の先を見つめて、喉を鳴らす。

 恐怖と興味がせめぎ合って考えがまとまらない。

 死の女神に触れられた頬が、妙に寒くて倦怠感がとても強い……眩暈もある。


 ただ消耗したのではない……死者の世界に生気を削り取られたのだ。

 おそらく、魔法的な手段で回復するのは困難だろう。


「ユークさん、根を詰めすぎです。まずは休みましょう。顔色が良くないですよ」

「みんなもそうだろ。『灰色の野』の夜を生きたまま走り抜けたんだ」


 俺はこの呪いのせいもあるだろうが、みんなの顔にも疲労は濃い。

 傷などはないとはいえ、半壊に等しい状況だ。


「うん。時間的にも体力的にも、ここで長休憩(ロングステイ)するべき」

「回復してから考えよう。どんな判断でも、ユークについていくよ」

「っす。だから今は休みましょう」


 床に敷く毛皮と毛布を持ったマリナとネネがせっせと寝床のセットをしてくれる。

 二人も辛いだろうに正直ありがたい。座り込んでしまってから、もう立てない感じだ。


「すまない、みんな」

「お気になさらず。ゆっくりと休んでくださいね」


 シルクの滑らかで冷えた手が額に触れる。

 その心地よい感触に負けて、俺はするすると眠りの闇に落ちていった。


いかがでしたでしょうか('ω')

「なるほどね!」「続きが楽しみ」って方は、是非、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて、応援していただけると幸いです。

よろしくお願いいたします!


【補足】

『灰色の野』についてですが、夜になると反転して動くだけで生気が削られます。


ゲーム的な表現の方が理解しやすい方は、『時間経過以外では回復不能なダメージがHPとMPを常にスリップさせるうえ、上限もごりごり削れて、ジンオウガ亜種が4~5体追いかけてきてる」って思ってください('ω')b

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