第4話 小細工とダンジョン飯
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「ユーク、<魔力継続回復>が使えるの?」
「赤魔道士だからな」
<魔力継続回復>は赤魔道士だけが使える強化魔法の一つだ。いや、補助魔法といったほうがいいか。
この魔法は、周囲の環境魔力を取り込んで徐々に魔力を回復させるという効果がある。
即効性はないが、魔法を使う者の継戦能力を飛躍的に向上させる便利な魔法だ。
「なになに? すごい魔法なの?」
マリナのはしゃいだ声にレインが小さく頷く。
「すごく、珍しい魔法。使えるだけで、Aランクパーティに入れるくらい」
「それは言い過ぎだろう」
レインの言葉に軽く笑う。
これが使えるからと言って、パーティに入れるほどAランクは甘くない。
「赤魔道士は不遇職だからな。いろいろと小細工を身に着けてるのさ」
<魔力継続回復>の習得はなかなか難しかったが、俺には才能があったらしい。魔導書の入手もなかなか困難で、手に入れるのに苦労した。
まあ、『サンダーパイク』の面々は俺がどんな強化補助をしようと、鈍感というか無関心だったが。
「さて。俺の事は置いといて、先に行こうぜ」
「はーい!」
一階層よりも警戒しながら二階層を進む。
あの規模の群れに何度も出くわしていては、レインの負担が大きすぎるからな。
「何をしているんですか?」
ときどき立ち止まって足元に聖水をまく俺に、シルクが興味深げな視線を寄越す。
「アンデッドの足止めに聖水をまいてるんだ。追撃や挟み撃ちをこれで簡単に防げるからな」
「そんな方法が……」
「ま、普通にやると金がかかるからあんまりおすすめしない。これは俺の自作だから気にしないでいい」
「自作!? 聖職者でもないのに……?」
「あんまり褒められたことじゃないけどな」
シルクは驚いているが、聖水というのは錬金術で作成するれっきとした魔法薬の一種だ。
教会では『光の水晶』という素材を使って作成しているようだが、実はアンデッドを<死者浄化>した後に残る『浄化の灰』でも作ることができる。
裏レシピってやつだ。
さっきの死鉱夫の灰もちゃんと回収してあるので、聖水をまきながら進んでも、赤字にはならない。
「……やっぱり、ハイランクの冒険者は経験が違いますね」
「そりゃ、五年もやってるといろいろな。なに、俺から学べるところは学んでくれたらいい」
「ユーク、その言い方は何かやだ」
後ろを歩くマリナが、むっとした様子で口をとがらせる。
「ん?」
「今の言い方だと、いなくなっちゃうみたいじゃない。ダメだよ!」
「む? そう、か? そう聞こえたならすまなかったな……」
どうやら俺も『先生』気分が抜けていないようだ。
「わかればよし!」
「でも、いろいろと教えてくださいね、先生」
冗談めかしたシルクのフォローに苦笑しつつ、ダンジョンを着々と進んでいく。
三階層でも魔物と遭遇したものの、難なく切り抜けて、俺達は第四階層へと足を進めた。
「休憩がてら飯にしようか」
予定では、この先は魔鉄鉱の採掘ポイントを探して動くことになる。
ここらで腹ごしらえをしておく必要があるだろう。
「ダンジョンでのご飯って、なんだか気が滅入るよねぇ……」
「しかた、ない」
鞄から干し肉と乾パンを取り出したマリナとレインが小さくため息をついている。
まあ、一般的な冒険者の食事事情というのはおよそこういうものだが、薄暗い場所で熱のない食事をすればそうもなるだろう。
だが、今回は俺がいるのを忘れているな?
「まあ、待て。今回は俺が用意する」
腰の魔法の鞄から、フライパン、それに小型コンロを取り出して、同じく鞄から引っ張り出した簡易の机の上に並べていく。
「わ、わっ……魔法の鞄だ……!」
「ん? 見るのは初めてか?」
目を輝かせるレインが何度も頷いて俺と鞄を交互に見る。
「まあ、安い物じゃないからな」
「いつか、ほしい」
「冒険を続けていれば手に入る機会もあるさ」
魔法の鞄は魔法道具の中ではそれなりにポピュラーなものだ。
駆け出しには手を出しにくい値段ではあるが、魔法道具ショップに行けば普通に置いてあるし、ダンジョンで見つかることもある。
俺のような道具類に頼ったサポートをする人間にとっては必須の逸品でもある。
「さてと。メシの準備だ」
魔石で稼働する魔法道具のコンロに火をつけて、フライパンを熱しながら、バケット、卵、ソーセージ、チーズ……それともう一つ鍋を取り出す。
こっちの鍋は、少しばかり特別だ。
小さめの寸胴……といった形状のその鍋を床に置き、お玉でコンコンと二回ほど叩くと、見る見るうちに鍋に湯気立つスープが満たされた。
ふむ、今回は魚介のスープか。
「なにこれ? なにこれ!? すごいすごい!」
様子を見ていたレインが手を叩いて喜ぶ。
相変わらずの魔法道具フリークスだ。
自分で魔法が使えるというのに、こうも魔法道具に惹かれるというのは、ドワーフの血でも入ってるんじゃないだろうか。
「これは『オーリアス王城跡』ダンジョンで拾った【常備鍋】って魔法の鍋だ。修復には随分金がかかったが、なかなか面白いだろ?」
「とても、興味深い……」
【常備鍋】に魅入るレインを傍目に、温まったフライパンにソーセージと卵を投入する。
じゅわじゅわと脂の爆ぜる音と、空腹を誘う匂いがあたりに立ち込めた。
「……」
「どうした? マリナ?」
「信じられない。ダンジョンの中でまともなご飯が食べられるなんて……夢かな?」
「そんな大層なもんじゃないだろ。ほら、食え食え」
そう言って皿を手渡すと、マリナは本当に幸せそうにそれを食べ始めた。
大した料理ではないが、喜んでもらえるとこっちも作った甲斐があるってもんだ。
「……?」
渡された皿を、シルクが興味深げにみている。
「ねぇ、ユークさん。ごはんが……魔力を纏ってる、気がするんですけど」
「まあな」
そうか、シルクにはダークエルフの血が入っているから、魔力に敏感なんだな。
「どうして、目玉焼きとソーセージに魔力が?」
「料理だって、広義で言うところの錬金術みたいなもんだろ?」
「違いますよ?」
「前に試してみたら、ちょっとした訓練で魔力が乗せられるようになったんだ」
「だから、何故魔力を……?」
「そりゃ、ここからは採掘もあるからな。疲れないように身体能力がアップするように愛情を込めておいたぞ」
「料理は、愛情……? 愛情は魔力だった……?」
頭を抱えるシルク。
そこまで難しい話はしていないはずなんだが。
考え込むシルクの背中を、レインがさする。
「シルク、考えちゃダメ。フィーリングで、いこ?」
魔法使いがそれを言うのはどうなんだ……と思いながらも、俺は焼き立てのソーセージにかじりついた。
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