第31話 ユークの苦悩と引っ越し作業
夜の更新です('ω')!
楽しんでいただければ幸いです。
……どうしてこうなったんだ?
いいのか? いや、ダメだろう。どう考えてもまずい気がする。
いくらパーティでも四人で同居なんて……。
だが……だが、だ。
あんまり固辞したら、逆に俺が何かそういうことを考えてるみたいに思われるんじゃないか?
だからと言って、この状況は……どうなんだ。
うーむ……。
「く……どうすれば……ッ!」
──数時間前。
マンデー不動産へと戻った俺達は、滞りなく売買契約を済ませて、無事にパーティ拠点を手に入れた。
マリナは大層喜んで、さっそく部屋をどうしたいかなどをウキウキと語ってくれ、微笑ましく思っていたのだが、シルクの一言で俺は凍り付く羽目になった。
「それで、先生はどの部屋になさいますか?」
「……?」
首をかしげていると、シルクも首をかしげてみせる。
「部屋?」
「はい。一番奥が良いとか、手前が良いとか……ご要望があればと思いまして」
「待て、シルク。何の話だ?」
「先生のお部屋の話ですが……?」
話がかみ合っていない気がする。
「念のために確認するが、俺も一緒に住むって話じゃないよな?」
「パーティ拠点ですから、先生も住みますよ?」
「一緒に?」
「一緒に」
……というやり取りがあり、どうやらそのつもりで拠点探しをしていたようだ。
しかも、三人とも最初からそのつもりだったらしく、俺は今こうして加速する思考に悶えるハメになっている。
無邪気ともいえる危機感の無さに、俺は自分の家具が並べられた部屋を眺めながらため息をついた。
「見て、まだ……悩んでる。女々しい」
開きっぱなしにした戸から、頭だけひょこッと出して、レインが俺を覗き込む。
それにつられてか、マリナとシルクも同じく頭だけをのぞかせて俺を見る。
「ホントだ」
「意外と引きずりますね」
滅茶苦茶な言われようだが、原因は君たちなんだぞ。まったく。
「いまさらでしょ、ユーク。野営だったら普通に隣で雑魚寝してるじゃない」
「それとこれとは、違うんじゃないだろうか」
「一緒だよ。あたしたちはユークのこと、信用してるし……それに毎日ユークのご飯が食べられるなんて、最高だよ!」
「マリナ、家事は持ち回りですよ」
シルクに釘を刺されて、「えへへ」と苦笑するマリナ。
「まあ、いまさらと言えばいまさらか……」
「ん。あきらめる、べき。ふふふ」
ご機嫌な様子で部屋に入ってきたレインが笑う。
「それに、ユークが居てくれたら、安心。女所帯は、危ないって、言ってたでしょ?」
「ぐ……」
確かに、言ったが。
ああ、もう……。仕方がない、俺も腹をくくろう。
なんだかんだと言いつつも、引っ越しまで済ませてしまったわけだし。
「……各自、自分の部屋の鍵はきちんとかけるように。俺も男だという事は頭の片隅に入れて、しっかり危機管理をするんだぞ」
「はーい」
「わかりました」
「りょ」
わかってるのか、わかっていないのか。
「さて、それじゃあ……気を取り直して、引っ越しの仕上げをしてしまおうか。俺の手がいるところは呼んでくれ」
◇
「お疲れさまー!」
「お疲れさまです」
「お疲れ」
「おめでとう、みんな」
果実酒の入ったジョッキを打ち合わせて、一気に流し込む。
程よい酸味と焼けるようなアルコールが喉を潤して、俺は大きく息を吐きだした。
「ユークだけまだちょっと他人行儀! やり直しを要求する!」
「そう言うなよ、マリナ。他人行儀のついでに、みんなに引っ越し祝いがあるんだ」
魔法の鞄に手を突っ込んで、目当てのアイテムを引っ張り出す。
些か大きいが、重さはそれほどでもない。
「これを、ここにっと……」
壁にそれをセットして、テーブルの三人を振り返る。
「わ、『タブレット』だ……!」
「こんなに大きいもの……高かったんじゃないですか?」
「すっごい! 大きい!」
「これからは拠点で記録や攻略配信を見て方針を決めることもあると思ってな、奮発させてもらった」
早速、起動してみる。
『──……王立配信局です。昨今頻発している魔物生息域の拡大について、王立学術院は次のように声明を発表しています……──』
「おお、映った! 画面大きいね! すごく見やすい!」
「今まで小型のものを三人で見てましたもんね。これは、いいですね」
「気に入ってもらえて何より」
そう振り返って笑って見せると、三人が空になった俺のジョッキに同時に酒を注ぎ入れていた。
「ありがとう、ユーク!」
「先生、ありがとうございます」
「ありがと。も一回、乾杯……しよ?」
「お、おう。そうだな。そうしよう」
席に戻って、ジョッキを手にすると、全員がジョッキを上げる。
「では、改めて……リーダーに乾杯の音頭をとってもらいましょうか」
「む。こういうのは不得意なんだが」
「ユークに不得意なことがあるなんて不思議! なんでもいいよ!」
「じゃあ……新しい生活と、これからの俺達に。乾杯」
「「「かんぱーい」」」
ジョッキを打ち合わせる俺達をよそに、『タブレット』が次の情報を映し出す。
そこに映るのは、見慣れた面々の顔。
『──……本日、王国は複数のパーティの申請により、封鎖中だった“無色の闇”ダンジョンへの調査進入を許可しました。これは、Aランクパーティ“サンダーパイク”が中心となり呼びかけを行い、複数のスポンサーによって実現したもので、“深淵の扉”を目指す大型の調査依頼となる予定です。また──……』
流れる配信に全く気が付かず、すすめられるままに酒に飲み込まれた俺は、結局……翌日になってからその事を知るのだった。
いかがでしたでしょうか('ω')
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それでは、また明日の12時にお会いしましょう。





