表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第五部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

245/248

第34話 教祖と野望と

 そこは『無色の闇』最下層に似ていた。

 この〝塔〟の中でも、『透明な闇』に近い場所なのだろう。

 異界の気配が充満する中、祭壇のようになった小高い構造物の上で『パパ』が俺達を見下ろす。


「まさか裏切るとはね、マリナ」

「裏切ったわけじゃないよ。あたしは、最初から『クローバー』だったもの。それに、約束……破ったでしょ」

「約束?」

「あたしが我慢すればフィニスとみんなには手出ししないって、約束だったじゃない!」


 ため息まじりに、首を振る『パパ』。


「そんな約束、私はしていない。この場所で『祝祭』が始まるのは、百年以上前から決まっていたことだよ。……ここは、もっとも高き〝塔〟だからね」

「どっちにしても、もう『祝祭』は終わり。早く〝塔〟を元に戻して」


 マリナの言葉に、『パパ』があからさまにげんなりした顔をする。

 心底呆れた、といった風に。


「やはり失敗作は愚かだな。もう『祝祭』は止められない。この〝塔〟は世界の中心にして、私の玉座となるんだ」

「アンケリアスはここに来ないよ」

「引っ張り出せばいい。あの〝異貌存在(イモータル)〟がなんであれ、傍観者でいられなくなれば、御することもできる。お前たち同様、傲慢で愚かな存在なんだよ、アンケリアスは」


 この『パパ』なる男は、色々とモノを知っているようだ。

 ずいぶんと異界に詳しい。この口ぶりだと、マリナが会ったという『アンケリアス神』ともすでに接触したのではないだろうか。


「やれやれ……戻っておいで、マリナ。私はこれからこの世界の神になる。君は、そんな私の所有物だという自覚が少し足りないんじゃないかな」

「あたしは、モノじゃない!」

「モノだよ。私のために作りだされた存在なのだから。『存在証痕(スティグマタ)』を持つ【人造人間(ホムンクルス)】である君なら『神の卵』を孕むこともできる」


 そこまで口にして「待てよ?」と口にしながら、視線をこちらに向ける『パパ』。

 こちらに向ける視線に、邪な気配が滲む。


「いやはや……どうやら私は少しうっかりしていたようだ」


 目を細めて口を弧に歪めながら『パパ』が続ける。


「何も【人造人間(ホムンクルス)】である必要もないのか。『存在証痕(スティグマタ)』を持つ母体は多ければ多いほどいい。これはいい拾いものだったようだ。喜べ、君達は王の寵愛を受けて『神の卵』を宿す資格がある」


 吐気すら覚えるような邪悪で傲慢な思考に、仲間達を背後に庇う。

 そんな視線を、俺の恋人たちに向けるな。


「ユーク・フェルディオ……まだ君は物語の主人公でいるつもりか? まあ、いい。どうあれ、君の物語はここで終わる。英雄譚は廃れ、王の物語が始まる。私が描き、私が紡ぐ、私に依るこの世界の真なる物語だ」

「何を言っている……!」


 睨みつける俺に、『パパ』がうっすらと嗤う。


「わからないのかね? わからないんだろうね。君のように、選ばれた者には」

「ああ、わからないな。お前が俺の敵だってこと以外は」

「それでいい。いつだってそうだ。最後に勝利を収めたものだけが、物語の主人公たりえるのだ。ハッピーエンドに終わるよ、この物語は――私の勝利によって!」


 背中をぞくりとした感触が這いずっていく。

 殺気とも違う、おぞましい気配が周囲を満たしていくのがわかった。

 異界の気配に似た、もっとおぞましい何かがここには満たされている。


「……来るぞ! 戦闘準備!」


 俺の声に仲間たちが得物を抜き、『ゴプロ君』が飛び上がる。

 それと同時に、『パパ』がゆらりと浮かび上がって祭壇の下へと着地した。


「アンケリアスは来ない! これ以上戦う意味なんてないんだよ?」

「『|過ぎ去りしいつかのあのアナザーリグレッティア』はお前が見つけてくれた。あとは、【深淵の扉(アビスゲート)】を繋いで、こちらから〝淘汰〟でも流し込んでやればいい」

「そんなこと、させない!」


 マリナが大太刀を抜いて、高速で飛び出す。

 こちらの指示を待たずに動くなんて、相変わらずちょっと困ったものだが……戦端を開くにはいい合図だったかもしれない。


「〈身体強化フィジカルエンチャント〉、〈武器強化(エンチャントウェポン)〉、〈防壁(プロテクション)〉、〈小祝福(リトルブレス)〉!」


 駆けゆくマリナの背中に強化魔法を放つ。


「ありがと、ユーク!」


 いつもの調子で返事をするマリナに思わず口元が緩んでしまう。

 決戦は始まっているというのに。


「にやけちゃって。ちょっと妬けちゃうわ」

「やっぱりマリナだなって思ってさ」

「そうね。やっぱり、『クローバー(うち)』にはマリナが必要ね」


 そう微笑んで、ジェミーが杖を構える。


「あいつの気配、なんか嫌な感じがする。頼んだわよ、ユーク。あたしも頑張るから」

「ああ。ヤツを止めよう」


 ジェミーに頷いて、すでに駆け出しているネネにも強化魔法を施す。

 ネネは無茶しがちなので、防御を厚めに。

 少し離れた場所で弓を構えるシルクには、敏捷性の強化と、〈矢避けの加護ミサイルプロテクション〉、それから〈魔力継続回復(リフレッシュ・マナ)〉。

 伝承の精霊(ビブリオン)の顕現維持には、それなりの魔力(マナ)を使うはずだから。


「ユーク、あの祭壇は、どう、する?」

「どうかな、おそらく魔法道具(アーティファクト)だとは思うが」

「壊していいなら、あのおっさんごと、大型の、魔法で、()


 レインの言葉に、少しばかりの嫌悪感と剣呑さが混じっている。

 ああ、そういえばあいつの目つき……レインに情欲を向けていたベシオ・サラスって男にそっくりだった。

 それを思い出すと、殺気の吐気じみた嫌悪感を俺も思い出す。

 この戦い、別な意味でも負けるわけにはいかなくなった。


「きゃう……ッ」


 先頭を駆けていたマリナが、何かに弾き飛ばされて床を転がる。

 無詠唱で治癒の魔法を施しながら、フォローのためにマリナの前に立った。


「〝起動(チェック)〟!」


 腰から【光盾の巻物スクロールオブライトシールド】を引き抜いて、発動する。

 直後、魔法の障壁に半透明の何かが連続で叩きつけられた。

 生理的な嫌悪感を抱く、気味の悪い気配を感じる


「ごめ、ユーク! なんか変なのがいるみたい!」

「わかってる! なんだ、これは……?」

「ヘンな、魔力……!」

「狂った精霊の気配も感じます!」


 レインとシルクの言葉を聞きつつ、俺はもう一つそれに付け加える。


「まさか、〝淘汰〟の力なのか……!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ