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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第五部

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第26話 遭遇戦と支援

「敵、増援です!」


 崩壊したフィニスの中を進むことしばし。

 俺達は何度目かの遭遇戦に苦戦していた。


「そっちは俺が対処する! ここを任せた!」

「はい、先生!」


 シルクに指示を任せて、新たに現れた『単眼牛鬼(タウロプス)』に向き直る。

 こいつに相対するのは、今日だけでもう三回目だ。

 思ったよりも鋭敏な耳をしているらしく、進行中に遭遇戦となればコイツがすぐにやってくる。


 指を振って、一息に弱体魔法を放つ。

麻痺(パラライズ)〉に〈綻び(コラプス)〉。

鈍遅(スロウ)〉、〈猛毒(ベノム)〉、〈目眩まし(ブラインドネス)〉。

 ダメ押しに〈重圧(グラビティ)〉も。


 少しばかり特別製の体になったおかげで、得意の弱体魔法がよく()()ようになった。

 異質となった自分の体を喜ぶべきかどうかは迷うところだが、今は助かる。


「ブモ……ブモォォォ!」


 重力に圧し潰されて身動きが取れなくなった単眼牛鬼(タウロプス)が、悲鳴じみた咆哮を上げる。

 これはしくじったぞ。


「大通方面から増援っす! 多数!」

「くそ、やられた!」


 ネネの言葉に視線を向けると、瓦礫となった店舗を壊しながら単眼牛鬼(タウロプス)やザルナグ、見たことのない巨大な爬虫類型魔物(モンスター)がこちらに向かってきていた。

 このままじゃ、消耗を抑えるどころではない――そう身構えた瞬間、俺達を取り囲みつつあった魔物(モンスター)が数体、土煙を巻き上げながら派手に宙を舞った。


「おいおい、やっと見つけたぜェ? ユーク・フェルディオ」


 どこからかそんな声が聞こえて、誰かが俺の隣に現れる。

 そこに立っていたのは、配信でしか見たことがないAランクパーティのメンアーの一人。


「あなたは、『グランツブロウ』の……」

「どーも、ジャバ君でぇーす」


 白髪の男が眼鏡を直しながら、ニタリと笑う。

 まるで悪人にしか見えないが、これでウェルメリアが誇るAランクパーティの一角だ。


「ま、仲良くしようぜ? 兄弟(ブラザー)。いや、義兄弟(ブラザー)か? まぁいいや。ここはオレらが抑えっから、先に進みなよ」

「どうしてここに?」

「おいおい、細かいこと気にすんなよ。まあ、今回はオレの我儘? みたいな。ベンウッドのおっさんにもちょっとだけ借りがあるしよ、母さん(ババア)が助けに行けってうるせぇのなんの。ま、そういうこった()()


 よくわからないが、助かったのは事実だ。

 周囲に集まってきた魔物(モンスター)も含めて、すごい勢いで殲滅していく。

 これが、ウェルメリア王国において『スコルディア』と双璧を成す『グランツブロウ』の実力か。


「ほら、行けよ!」

「ありがとう、ございます!」

「ああ、一つだけ」

「なんです?」


 俺の指さして、ジャバがにやりと口角を上げる。


「オレが兄だかんな? テメーは弟。そこんとこは理解しとけ? ……おおい、ギットの旦那! 獲物は残しといてくださいよ?」


 謎の言葉を残して、駆けていくジャバ。

 結局、『兄弟』についてはなんだかわからなかったが……助けてくれたのは確かだ。

 最悪の事態は免れ、道は拓けた。


「な、何が起こったんすか?」

「先輩方がフォローに来てくれたらしい! ここを任せて、俺達は先行するぞ!」

「了解っす!」


 背後に戦闘音を聞きつつ、駆けだす。

 あの様子なら心配する必要はなさそうだし、俺達が残って彼等の気遣いを無駄にするわけにはいかない。

 『グランツブロウ』と直接に関わったことはないし、あのジャバという人とも面識はないが、彼等とてフィニスのために戦ってくれている仲間には違いないのだ。

 ならば、俺達は何としても前に進まねばならない。


「シルク! ビブリオンを呼んでくれ。不意打ちを回避したい」

「承知しました」


 シルクがその銀髪にさらりと触れると、うなじのあたりから小さな白蛇の姿をした精霊がふわりと現れた。


「お願いね、ビブリオン」

「シィ……!」


 返事をしたビブリオンが、ぴくりと反応する。

 それの呼応したシルクが、進行方向へ鋭く視線を走らせた。


「この先で遭遇戦になります」

「早速か。全員、気を引き締めていくぞ! 『グランツブロウ』の助力を無駄にしないためにも!」

「――ええ心構えやわぁ」


 玉のようにころころとした声が、背後から聞こえる。

 同時に、複数の足音も。


「ここはお姉さんが引き受けるさかい、なーんも心配せんでええよ」

「マローナさん!?」

「んもう……ユークはんたら、水臭いわぁ。あてらがおるのに、独断専行やなんて」


 そう言いながら、にこりと笑う『カーマイン』のリーダー、マローナ。


「〝塔〟に行かはるんやろ? ほんにあん時と一緒やねぇ。露払い、させてもらいますえ」


 いよいよ魔物(モンスター)の一群と接敵、というところで『カーマイン』が一斉に得物を抜く。

 しかし、数が多い。さきほどよりも、ずっと。

 おそらく、中央街区に近づいたためだが……これを任せてしまってよいものか。


「わたし達も、います!」


 『カーマイン』の後方から、聞き覚えのある声が響く。

 軽やかに、さりとて力強く俺達に並んだのは、かつて『グラッド=シィ・イム』で攻略レースに参加した『ミスティ』の面々だった。

 〝斜陽〟の影響に晒されて、活動停止を余儀なくされたと聞いていたが、こうして元気な姿を見ることができて、少しばかりほっとする。


「ここで借りを返します!」

「借りなんて……」

「皆さんがあの迷宮(ダンジョン)を攻略してくださったおかげで、こうして復帰できているんです。十分借りですよ!」


 ミスティのリーダーであるアリスが、どこかマリナにも似た快活な笑顔でにこりと笑う。


「話、聞きました。〝塔〟にお仲間が囚われているとか。早く行ってあげてください」


 ベンウッドめ、口の軽いことだ。

 だが、そのおかげで『カーマイン』と『ミスティ』が来てくれたというのなら、目をつぶって感謝すべき所か。


「すみません、任せます!」

「はい。ここはわたし達にお任せください! 『ミスティ』、進行! お姉さまたちに続くよ!」


 頷き合った少女たちが、鋭い動きで俺達から先行する。

 こじ開けるようにして魔物(モンスター)の群れを裂いて、道を示す。


「『クローバー』、進行! 〝塔〟へ向かうぞ!」

「ん! 行こう」

「すみません、皆さん! この借りはきっと!」


 レインとシルクが駆けだし、俺もその後に続く。

 この数の相手をするのだ、そう長くはもつまい。

 きっと、この後は乱戦になる。


「ようようお気張りやす。ここからが、本番え」


 すれ違いざま、マローナさんの囁くような激励の言葉が聞こえたような気がした。


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