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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第五部

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第18話 迷宮と信徒たち

「そろそろだな」


 〝塔〟に入ってから、どれほど時間がたっただろうか。

 くすんだ白磁のような景色が続く迷宮(ダンジョン)を、ひたすら上に向かって上ってきた。

 魔物(モンスター)、信徒、罠。

 『無色の闇』に勝るとも劣らない危険な迷宮(ダンジョン)ではあるが、景色がや魔物(モンスター)が次々と変化するような理不尽さを感じない。

 妙な安定感が、この迷宮(ダンジョン)にはあった。


「気配、あった?」

「ああ、感じるよ。異界の気配をさ」


 レインの言葉に、小さく頷く。

 【深淵の扉(アビスゲート)】のような強い気配ではないが、それに確実に近づいているという確信が、頬の痛みからわかった。

 おそらく、後もう少しだ。


「階段までのルート取り、オーケーっす!」

「ありがとう、ネネ。よし、進もう」


 ネネの後に続いて、再び〝塔〟の中を進む。

 それほど広くはないが、上層に足を進めるたび信徒の数も増えてきた。

 かなり激しい抵抗に遭うこともあり、俺達もやや消耗が激しい。


 彼等は普通の人間ではない。

 影の人(シャドウストーカー)と似た気配を持つ、魔物(モンスター)のような人々だ。

 だが、肉体も意識も変異はしていない。

 そこが、恐ろしい。いったい何者なのかがわからない。


 濃い異界の気配に触れれば、反転する。

 この世界の人間であるという枠を失って、異界に適応した者に変異してしまうのが、この世界の『ルール』だったはずだ。


 そうならないために俺や仲間たちは『存在証痕(スティグマタ)』と呼ばれる特別な力を宿している。

 かつて影の人(シャドウストーカー)に適応してしまった俺が持つ特性を共有することで、異界の中であっても自らを失わないようにしているのだ。


「階段です。ですが……!」

「さっきはいなかったんすけどね!」


 階段の前に数人の『第七教団』信徒が、待ち構えている。

 当初、『知名度のない小規模なカルト集団』という触れ込みだったはずだが、とんでもない。

 〝塔〟に入ってから、ここに至るまでにもうかなりの数を相手している。

 もしかすると、とんでもない規模の組織なのではないか……という疑いが捨てきれなくなってきた。

 人数、所持している武器の質、使用している魔法道具(アーティファクト)

 どれをとっても十二分な資金と組織力が窺い知れるレベルだ。


「去れ。異端の者達よ」

「去れ。ここは聖域だ」

「去れ。最後通告である」


 武器を構えた信徒たちが、こちらへと踏み込んでくる。

 訓練された人間の動き。そして、連携。

 小剣(ショートソード)を逆手に構えつつ、俺も前に出る。


「くッ……! 通してくれ! 俺達はマリナと話がしたいだけなんだ!」

「不敬。神の子の名を軽々しく呼ぶな」

「問答無用。異端死すべし」


 両手に大型ナイフを構えた信徒が、素早く真っすぐに突っ込んでくる。

 そして、そのサイドからショートスピアを手にした信徒が時間差で得物を突き出してきた。

 回避できない……と身構えたが、どこからともなく伸びてきた太い蔓が短槍の信徒を跳ね飛ばして事なきを得る。


木の精霊(ドライアド)に呼びかけました! 行ってください、先生!」


 シルクの呼びかけに小さく頷いて、なおも迫る信徒に向かって小剣を振るう。

 肉を刺し貫く感触がして、どさりと信徒が倒れた。

 死んではいないが、深手ではある。助かりはしないだろう。


 俺にあんまり人を殺させないでほしい。

 こうも多いと、さすがに堪える。

 しかし、俺が弱音を吐いてもいられない。

 仲間たちはもっと負担に感じていたっておかしくはないのだ。


「戦闘、終了っす。大丈夫っすか、ユークさん」

「あ、ああ。大丈夫だ」

「その……あんまり無理、しないでいいっすよ? ウチが仕留めるんで」

「そういう訳にもいかないだろ?」


 俺の言葉に、ネネが小さく首を振って苦笑する。


「ウチは人の命を軽く見るのに慣れてるっす。敵と思えば、魔物(モンスター)と変わらんすよ」

「だったら、それを一緒に背負ってこそだろ」

「それはアタシたちも一緒よ」


 反論する俺の肩をジェミーが叩く。


「どうせアタシらの事を考えて無茶してるんでしょうけど、アタシ達だって必要なことはわかってるわ」

「命のやり取りは、お互いに起きていることです。武器を手に向き合った以上、容赦はしません」

「ボクも、同じ。みんな一緒、です」


 仲間達の言葉に、小さく頷いて目を伏せる。

 決してみんなを侮っているわけではなかったが、大きな世話を焼いてしまったらしい。

 もうみんな、一人前の冒険者なのだ。こういうことにだって、慣れる。


「ほら、行くわよ。マリナが待ってる」

「ん。あと少し、でしょ?」


 少し背中を押されたような気持ちになって、大きくうなずく。


「ああ。きっともうすぐだ。何があるかわからない。注意深くいこう」

「はい。マリナを待たせてもいけませんしね」

「違いない」


 不安げな顔をしたマリナの顔を思い出して、気合を入れ直す。

 どんな理由にせよ、あんな顔をさせるようなところにマリナを任せられないしな。


「階段上の先行警戒に行ってくるっす」

「頼んだ、ネネ。慎重にな」

「了解っす」


 【隠形の外套(ヒドゥンマント)】を翻したネネが、階段の先に消える。

 そして、すぐさま戻ってきた。


「……たぶん、この上の階が目的地っす」

「マリナがいたのか?」


 俺の問いにネネが小さく首を振る。


「そうじゃないっすけど、これまでとは全然構造が違うっす。おそらくっすけど……『第七教団』の拠点だと思うっす」

「わかった。みんな、いいか?」


 仲間達を振り返り、確認する。

 黙ってうなずく仲間達に、俺も頷きを返して目の前の階段に視線を向ける。


「よし、踏み込むぞ……!」


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