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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第五部

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第13話 ネネの忠言と城塞都市

 いくつかの都市を経由しながら、エドライト共和国を進む。

 かつてこの国の中心だった『旧王都ジョウ・ココ』を擁するノエド自治区は、エドライト共和国の中央平原に位置している。

 現在の政治の中心は北西部に新しく作られた『万丈都市ニューシード』という都市にあり、『旧王都(ジョウ・ココ)』は歴史観光都市といった風情だと聞いた。


 それ故か、今回の件はあまり大きな事件としてとらえられていないらしい。

 そもそも『旧王都(ジョウ・ココ)』に住んでいる住民は、エドライト共和国が王政時代であった頃に優雅な生活を送っていた旧上流の人々であり、言ってみればノエド自治区周辺は国内であまり心象の良くない土地柄なのだ。


 『旧王都(ジョウ・ココ)』の住民にしても、自分たちを『上方』と称して他を見下しているところがあり、問題は根深い。

 だからなのか、エドライト共和国内では『旧王都(ジョウ・ココ)』で起きた事件のことを大した問題ではないと考えている節がある。

 むしろ、俺たちが旅する中で聞いたのは「ざまあみろ」と言った言葉だった。


「はぁー……なかなか情報が集まらないっす。無関心過ぎないっすかね?」


 『旧王都(ジョウ・ココ)』から三日ほどの距離にある城塞都市『キアサ・ケ』。

 休息も兼ねて情報収集にあたっていたのだが……ネネの言う通り、収穫は少ない。

 隣の都市だというのに、住民たちは何が起きているのかまるで興味がないようなのだ。


 ただ、わかったのは……魔物(モンスター)の活発化と、分布の変化だ。

 これはさっき冒険者ギルドで確認して得た情報で、得体のしれない魔物(モンスター)が出没するようになったこと、そして時折ハイランクな魔物(モンスター)が目撃されるようになった、とのことだった。


 冒険者の俺達からすればかなりの大事だと思うが、『城塞都市(キアサ・ケ)』の住民はそれについてもあまり気にしていないらしい。

 強固な城壁に守られたこの街は旧王国時代から鉄壁で、魔物(モンスター)被害についてぴんと来なのかもしれない。

 しかし、こうまで情報が集まらないとは予想外だった。


「とりあえずここまで強行軍だったし、今日明日はここで少し休もう。得られた情報の整理もしたいしな」


 城塞都市ならではと言った細い階段を並んで下りながら、ネネに提案する。

 それにネネがうんうんと何度も頷いた。


「そうっすね。この先、何があるかわからないっすから、賛成っす」

「ネネは大丈夫か? 都市斥候(シティスカウト)でもないのに、悪いな」

「何でもこなせるようにママルさんに仕込まれてるので大丈夫っす!」


 少し上機嫌な様子で、ネネが微笑む。


「シルクさんとジェミーさんは手伝わなくて大丈夫っすかね?」

魔法の鞄(マジックバッグ)があるから、大丈夫だと思うけど?」


 シルクとジェミーは買い出し、レインは宿で『ゴプロ君』の調整がてら【タブレット】で情報収集を頼んでいる。


「そういう事じゃなくってっすね、なんかこの都市の人ってねちっこいというか、ナメてるというか……ちょっとやな感じなんすよね」

「悪口はよくないぞ。まあ、言わんとするところはわかるけど」


 ノエド自治区の都市はどこもそんな感じだった。

 よそ者を警戒している、というよりも侮られていると感じることが多い。

 ウェルメリア王国から来たと言えば「遠い田舎からよくいらっしゃった」と丁寧なのか侮っているのかよくわからないことを言われたりするし、冒険者だと言えば「大層ご立派なお仕事ですね」と半笑いで返される。


 どこか外面を取り繕った閉鎖的な人々……という印象がどうも強い。

 警戒されてるのかもしれないし、彼らなりのコミュニケーションに俺達が適応できていないのかは不明だが、国境付近と比べてノエド自治区は居心地の悪さを感じることがかなり多かった。


「ウチの経験上、こういうカンジのところは犯罪も多いっす。故郷の上の方もそんな感じだったっす」

「上?」

「ウチの故郷は、上層部と下層部に分かれててっすね、金持ちは上のキラキラした居住区に住んで、ウチらみたいなのは下層のスラムで生活するんすよ」


 ネネの故郷については、報告書でちらりと確認したことがあるが実情までは知らなかった。

 細い路地を歩きながら、ネネが空を見上げる。


「どこもかしこもこんな風に狭くて薄暗くて、そこらじゅうで誰かが倒れてたっす。ここは、誰も倒れてないので臭いもないっすね」


 目を伏せて、ネネが小さく左右に首を振る。

 何かを振り払うかのような仕草に、彼女の過去が滲むような気がした。


「あとは、報告書の通りっす。ウチはいろいろと決断をミスったあげくに犯罪者になって、ギリギリでママルさんに助けられたんす」

「そういえば、ママルさんとネネの関係については聞いてなかったな」


 俺の言葉に、ネネが「にゃはは」と苦笑して誤魔化す。

 あまり突っ込んではいけないところだったのかもしれない。


「ユークさんは〝灰色の隠者(グレイハーミッツ)〟について、どのくらいご存じっすか?」

「ええと、ママルさんの冒険者時代の二つ名とだけ」

「ハーミッツ、なんすよ。白と黒の間を彷徨う、密偵集団。その棟梁がママルさんで、ウチの母親は部下だったっす」


 知らなかった。

 というか、おそらく軽々しく耳にいれてはいけない類いの情報だ。

 もう、聞いてしまったけど。


「経緯はわからんすけど、ウチのママは黙って組織を抜けて、黙ってウチを生んだっす。それが原因で、早くに空に昇ったっす」

「それで、ストリートチルドレンに?」

「っす。生きるためにいろいろとおいたをしてその日暮らしをするうちに、その日すら暮らせなくなったウチは賭けに出て派手に失敗したんす」


 その経緯については、ネネの犯罪者刻印を消すときにいろいろと知った。

 仲間に裏切られた事やはじめから罠だった事などが、調査報告書から判明している。


「全部ダメになった時、ママルさんが来て……ウチを牢屋から出して娘にしてくれたんすよ。〝灰色の隠者(グレイハーミッツ)〟には後継者が必要だからって」

「じゃあ、ネネは次の〝灰色の隠者(グレイハーミッツ)〟になるんだな」

「全然っす。技術も覚悟も足りなくって、情けないばかりっす」


 そう苦笑するネネに、俺は少しばかりママルさんの顔を思い出す。

 きっと、そんなのはただの方便に過ぎないに違いない。

 『無色の闇』の最奥に挑むとき……ママルさんがネネに見せた顔は、母親の顔だった。


「なので、ママルさんはウチの大恩人なんすよ」

「なるほどな。なんだか、プライベートに踏み込んでしまったようですまない」

「いいんすよ、ユークさんなら。ウチの事ならすみずみまで知ってもらっていいくらいっす」


 少し照れた様子で指を遊ばせるネネ。

 耳と尻尾があまりに雄弁で、ちょっと笑ってしまった。


「よし、短い時間だけど……今から『ネネタイム』としゃれこむか」

「にゃや!? そういうつもりじゃなかったんすけど、いいんすか?」

「もちろん。ネネにはいつも負担をかけてるし、君ったらちょっと遠慮することが多いからね」


 俺の言葉に、ネネが控えめに頷いて手を差し出す。

 その手を握って、俺は狭く入り組んだ城塞都市の中をゆっくりと歩き始めた。



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