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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第五部

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第12話 戒厳令とマリナの行方

「戒厳令?」


 国境に詰める兵士が、俺の言葉に頷く。


「はい。現在、我が国は有事特例による戒厳令が大統領によって敷かれています。冒険者の入国に関して制限ありませんが、その点にご注意いただきたく」

「何があったんです? ウェルメリアではそんな話を聞かなかったんですが」

「まだ情報が伝わっていないのかもしれませんね。数日前、『旧王都』で謎の建造物が地下から出現して、周辺の魔物(モンスター)が活性化したようなのです。ノエド自治区では町の中にまで被害が出ていて」


『旧王都』という単語(ワード)に、少しばかり驚く。


「『旧王都(ジョウ・ココ)』に向かわれるのでしたら、十分にお気を付けください」

「わかりました。ところで、『第七教団』については何かご存じですか?」

「聞いたことがあるような、ないような……」

「そうですか。いえ、忘れてください。ありがとうございます」


 軽く頭を下げて、御者席へと戻る。

 そこでは、レインが何やら難しい顔をして【タブレット】を覗き込んでいた。


「どうした? レイン?」

「ん。エドライト共和国の、公用配信が、見れるようになった」

「国境を越えたものな」

「さっきの話の、配信を、探してる」


 なるほど。

 戒厳令が出るくらいの事件になっているなら、何かしらの情報がアーカイブされている可能性は高い。

 それにしたって、この状況。フィニスに似ている気がする。

 魔物(モンスター)の出現が、本当に『第七教団』の手によるものなら……兵士が言っていた建造物の出現も連中に関係があるのだろうか?


「先生、国境を越えましたので御者を交代しましょう。こちらで休んでください」

「わかった。頼むよ」


 軽くうなずいて、馬を止める。

 考え事をしながら御者をするのもあまりよくないし、少しばかり疲れもした。

 ここは、シルクに任せてしまおう。


「じゃ、ウチがシルクさんと一緒に座るっす。いざとなったら、先行警戒にもでれるっすから」

「そうね。お願い、ネネ。気を引き締めていきましょう」


 俺から手綱を受け取ったシルクが、ネネに頷いて返す。

 斥候職二人なら、何かあってもすぐに対処できるだろうし、これはいい組み合わせかもしれない。


「今日は素直ね?」


 馬車に乗り込むと、こちらにクッションを手渡しながらジェミーが笑った。

 さては俺が断ったら一言……いや、二言三言も言ってやろうと身構えていた顔だ。

 危ないところだった。


「ちょっと考え事をしたくなってさ」

「アタシも手伝おうか?」

「いや、少しまとまらない。うまく言葉になってから話すよ」

「そ、わかった」


 ジェミーのこうした気遣いはありがたい。

 『クローバー』に入ってから、さらに俺の扱いになれたという感じだ。


「レインは配信?」

「ん。事件について、見ておきたい」

「さっきの話ね。フィニスでのことに、ちょっと似てるかも」


 ジェミーの言葉に心の中でうなずきながら、情報を整理していく。

 俺達のフィニスで起こった魔物(モンスター)襲撃事件。

 『第七教団』による脅迫じみた配信と、手紙。

 そして、その『第七教団』の本拠があるとされる『旧王都(ジョウ・ココ)』での異変。

 どこか作為めいたものを感じないでもない。


 まだマリナの失踪と関連付けるには浅いが、それは確かめるのも今回の目的だ。

 関係ないならないで、不安材料が一つ消える。


「あった、これ」


 レインが配信映像のうつる【タブレット】を指さす。

 映像は少し粗め。おそらく冒険者仕様ではなく、一般向けに販売されている『ゴプロ君』による緊急生配信の切り抜き映像だろう。


「ねぇ、これ……フィニスで戦った魔物(モンスター)と一緒じゃない?」

「ん。そう、見える」


 ジェミーとレインが、配信の中で暴れる魔物(モンスター)の一体を指さして俺を見る。


「ああ、間違いない。フィニスで見た一つ目巨人(サイクロプス)もどきだ……!」

「見て。地面から、何か、出てくる……!」


 暴れ回る魔物(モンスター)の背後で、地響きを立てながら何かがせり出し始めた。

 花壇の美しい円形の広場を割って、白い建造物が徐々にその姿を現す。

 それは、妙に見覚えがあるフォルムをしていた。


「……〝塔〟だ」

「塔?」

「確かに、塔っぽいけど……」


 あまりピンと来ていない二人に対して、俺はこれが何であるか確信じみたものを感じていた。

 確かに、細部は違う。大きさもこちらの方がやや小さいだろう。

 だが、冒険者になってからずっとフィニスの冒険記録(ログ)で挿絵を見てきたし、実際に目にもした。


「『無色の闇』の入り口部分にある〝塔〟だよ。似ていないか?」

「いわれて、みれば」

「そう言われれば、すごく似てる気がするわね」


 おそらく、間違いないと思う。

 この配信映像に映っているのは、〝塔〟だ。

 俺たちが『無色の闇』と呼ぶ迷宮(ダンジョン)の、本当の呼び名。

 全ての迷宮の根源にして、ことなる次元(せかい)を貫き繋ぐ(きざはし)


「ねぇ、ユーク。これがそうだとして、なんでフィニスじゃなくて『旧王都(ジョウ・ココ)』にこれが生えたワケ?」

「わからない。もしかしたら各国に似たものがあるのかもしれない」

「中で、繋がってる? かも?」


 その可能性もある。

 実際、俺たちはサルムタリアの『死の谷』にある『王墓』を経由して、迷宮の根源である『無色の闇』へ移動したことがある。

 『反転迷宮(テネブレ)』の出現による迷宮(ダンジョン)の不安定さを利用した荒業だったが……何かしらの手段で、逆に呼び出すこともできるのかもしれない。

 この配信映像のように。


 ただ、これはフィニスの地下にあるモノとは意匠も形も大きさも違う。

 〝塔〟だとしも、あれそのものではないだろう。


「ちょっと、待って! レイン、少し戻して」

「ん」


 レインが【タブレット】を操作して、配信映像を前のシーンへと戻す。

 塔が現れて少し、さらに増加した魔物(モンスター)が周囲の人々に襲い掛かるあたりだ。


「ねぇ、これ……!」


 ジェミーがタブレットの一点を指さして眉根を寄せる。

 魔物(モンスター)に『ゴプロ君』のフォーカスが寄っていて見えづらいが、そこには塔に向かって歩いていく数人の人影が見えた。

 見覚えのある白いローブの者達。かすれているが、特徴的な例のマークも見て取れる。


 そして、その集団の中に……特徴的な赤髪をした少女らしき姿があった。


「マリナ……?」

「これじゃ、わかんない、ね」


 『ゴプロ君』の仕様上、焦点(フォーカス)があったっているところ以外は、映像がぼやけがちだ。

 しかも、この映像はおそらく一般向けモデルで配信したもので、最後には『ゴプロ君』自体が破壊されてしまっていた。

 断片的で粗いこの映像だけで、あの人物をマリナと断定することはできない。


 しかし、だ。

 マリナではないと言い切ることだって、できやしない。

 少なくとも、マリナかもしれない誰かが『第七教団』と共に行動し、『旧王都(ジョウ・ココ)』の〝塔〟に向かった可能性がある。

 それだけで、今は十分に思えた。


「確かめに、いこ」

「ああ……!」


 レインの言葉に、俺は大きくなずいた。


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