第22話 無自覚な弱体魔法と魔法の鞄
今日も更新です('ω')!
楽しんでいただければ幸いです。
※各話タイトルが欲しい、というご要望があったのでつけてみました。
【看破のカンテラ】を手に『アイオーン遺跡迷宮』へと踏み込んでいく。
この『アイオーン遺跡迷宮』は長方形に近い楕円形で、どの階層もほとんど同じ形をしている。
中央部分は大きな吹き抜けになっていて、まるで歪なドーナツのようだ。
通路の外縁部に沿って大小さまざまな部屋が並んでおり、かつてここが巨大な商業施設だった名残を思わせる。
ただ、迷宮となった今、その部屋から俺たちを出迎えるのは笑顔の店員ではなく、魔物なのだが。
「思ったより、明るいんですね」
「ああ、天井が崩落して日が入ってるからな」
その為か、迷宮内は植物がかなり生い茂っている。
魔物の不意打ちには気をつけねばなるまい。
「使用可能な階段は東西の端に一つずつある」
「ってことは、端っこまで行かないとなんだね。そこの吹き抜け、ロープで降りた方が早いんじゃない?」
「そう考えた奴は他にもいたが……見とけよ」
足元の手頃な石を拾い上げて、吹き抜けに放り投げる。
下に落ちていくはずの石は途中で捻じれて、やがて消えた。
「うわ……なんかヘンになった?」
「古代では本当に吹き抜けだったんだろうが……迷宮化してるせいだろうな、位相が歪んでるんだ。絶対に落ちないように注意してくれ」
マリナがこくこくとうなずく。
素直でよろしい。
「小部屋が多い上に、逃げ場もない。魔物との遭遇は避けにくいからよく注意してくれ」
「はーい」
「わかりました」
「……」
レインはまだへそを曲げているようだ。
一体何が原因だろう?
俺ってやつは一体何をやらかした……?
「レイン。俺が何かしたならちゃんと謝りたいからさ、何に怒ってるのか教えてくれないか」
「む……」
俺の困り顔に、マリナとシルクが軽く噴き出す。
「違うよ、ユーク。何もしなかったから怒ってるんだと思うよ」
「先生は、女心ってものをわかってませんね」
「んんっ?」
どういうことだ。
困惑する俺の前に歩いてきたレインが、新しい装束を見せるように腕を広げる。
「どう?」
「よく似合ってるが? 衣装に合わせてリボンの色も変えたんだろ? それもなかなか可愛くていいな」
「……ッ!」
みるみる顔を赤くしたレインが、そのまま俺にハグを敢行する。
「お、おい……どうした?」
「ユーク、やりすぎ。レインを弱体魔法にかけないでよ」
「そうですよ、先生」
俺が一体何をしたっていうんだ……。
◇
気を取り直した俺達は、地下一階層、地下二階層と順調に足を進めていく。
道中、魔物にも遭遇したが、およそ問題なくこれを殲滅することができたし、途中の小部屋で見つけた宝箱からの発掘品は、レインの機嫌をさらに良くすることになった。
「えへへ……」
ご機嫌に腰に提げたポーチを撫でるレイン。
そう、運が良い事に魔法の鞄を手に入れることができたのだ。
容量はそう多くなさそうだが、迷宮産出の魔法道具であるが故に性能は高く、品質保持機能がちゃんとついていた。
「よかったね、レイン!」
「うん。でも、本当に、ボクがもらって、いいの?」
「もちろんだよ! それにこういうのは、後衛が持ってた方がいいんでしょ?」
マリナの奴、考えていないようで意外とよく理解しているんだな。
確かに、マリナのような前衛が魔法の鞄を持っていても戦闘中に使いづらいし、何より魔物の攻撃で破損する可能性もある。
となれば、シルクかレインが持つのが順当な判断だ。
今回はレインに譲ったが、いずれはシルク用に矢弾収納用の魔法の鞄を準備したい。
「おっと、全員止まってくれ。罠だ」
【看破のカンテラ】の青い光に照らされた床の一部からゆらりと燐光が立ち上る。
踏むと何かしらの現象を起こすタイプだろう。
さて、避けて通るか?
「……いや、抜いておこう」
残しておいて帰りに引っかかったりしたら馬鹿らしいしな。
魔法の鞄から10フィート棒を取り出して、振り返る。
「少し下がってくれ。種類はわからんが、発動させて排除する」
「大丈夫なの?」
「一応、何かあったらすぐに動けるようにはしておいてくれよ」
三人が距離をとったのを確認してから、問題の床を棒でつつく。
「カチッ」と音がして、すぐに何の罠だったかが判明した。
突如として床から大量の槍が乱杭に飛び出したのだ。
比較的よくある罠だが、引っかかればただでは済まない。
潰しておいて正解だ。
「よし、大丈夫だな……」
【看破のカンテラ】で再度照らしたところ、罠の発動部分は消え失せていた。
幸い、槍と槍の間の隙間は通るには問題なさそうだし、このまま通らせてもらおう。
念の為、俺が先にくぐる。
「問題ない。通ってくれ」
「了解です」
シルク、レインの順に通り抜け、最後にマリナが槍の隙間を通ってくる。
この新作の防具は比較的体にフィットしたデザインなので、こういう場面にも対応しているのかもしれない。
依頼者的にはいい映像になったかもしれないな。
「階段はすぐそこだ。ついたら軽くメシ休憩にしよう」
「今日の、スープは、なあに?」
「そればっかりは【常備鍋】に聞いてくれ」
苦笑しつつも「レインの好物が出ればいいな」と返すと、ふんわりと笑顔を見せた。
よしよし、調子は戻ったようだな。
「む、レインばっかりずるい! 今日はあたしの好物が出るもん!」
「わたくしはミルクシチューがいいですねぇ」
そんな気の緩んだ、道行きの中……俺達の目指す階段の前に、あまりよくない者たちが、いた。
いかがでしたでしょうか('ω')
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