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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第四部

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第11話 労わりと切り札

「……と、いうことなんだが、どう思う?」


 宿に戻った俺は、心配をかけたことの謝罪もそこそこにしてそう話を切り出す。

 それがいけなかったのか、ジェミーが特大のため息をついてから眉をぐっと吊り上げた。


「そうじゃないでしょ? ユーク」

「し、心配をかけたことは悪いと思っているんだ」

「そ・う・よ! アタシ達みんな……本っ当に心配したんだから!」


 ジェミーの言葉に、仲間たちがうんうんと頷く。

 どうやら、俺というヤツは色々と置き去りにして、些か話を急ぎ過ぎたようだ。


「すまない。俺が不甲斐ないばかりに……」

「もう、そういうことを言ってるんじゃないの。まずは、ほら」


 両手を広げて、ジェミーが俺を待ち構える。

 一瞬、意図がわからなくて驚いてしまったが……そうか。

 やっぱり、俺ってやつはまだまだ女の子との関わり方を勉強する必要があるらしい。


 ジェミーの背中に手を回して、そっと抱きしめる。

 サンダーパイクの頃は、彼女とこんな風に触れ合うなんて考えたこともなかった。


「あー! ジェミーさんずるいっす!」

「む、出遅れ、た」

「早い者勝ちよ。ほら、ユーク。ちゃんとみんなのフォロー、よろしくね」


 悪戯っぽく笑ったジェミーが抱擁を解いて、俺の背中を押す。

 そこには、待ち構えるように仲間たちが並んでいた。


「ふふーん、二番手はあたし!」


 どうしたものかと逡巡した一瞬の隙を狙って、ダッシュハグを敢行したのはマリナだ。

 重い衝撃と柔らかな感触が同時に訪れて、思わずたたらを踏む……が、何とか倒れずに抱きしめ返した。


「えへへ」

「マリナが助けに来てくれて助かったよ」

「ううん。ユークが困ってたら、いつだって助けるよ!」


 はにかむように笑うマリナの頭を撫でて、「本当に助かった」と心の中でほっとする。

 あのまま閉じ込められていたら、俺はまた暗黒魔法の力に頼らねばならないところだった。


 ……あの力は、この世界の外から持ち込んだ力だ。

 下手をすれば、俺自身が〝淘汰〟の先駆けになりかねない。

 だからこそ、暗黒魔法は習得も使用も、先人によって固く禁じられているのだろう。

 コントロールできるうちはいいが、あれに頼りすぎるのはよくない。


「じゃ、次はレインだね!」


 ぱっと俺への抱擁を解いたマリナが、くるりと身をひるがえす。

 その陰には、少し頬を膨らませたレインがいた。

 そんな彼女の前で片膝をついて、今度は俺から抱きしめる。


「大丈夫、なの?」

「ああ、問題ない」

「そう。なら、いい」


 お互い、言葉少なめに抱擁し合う。

 あまり多くのことを語らなくても、こうしているだけで十二分だ。


「ニーベルンのこと、どう、する?」

「この後に話すよ。言葉が足りないところは助けてくれ」

「ん。わかった」


 そう返事したレインが、頬に軽く口づけして離れる。

 なんだかんだ言って、愛情表現が一番深いのがレインという女の子なのだ。


「……? ネネ?」


 てっきり、今度はネネが来るものだと思っていたが、視線を向けるとなんだか固まっていた。

 耳と尻尾がピンとなっていて、どうも緊張しているようだ。


「どうした?」

「えっと、いざ……順番が回ってくるとっすね、緊張しちゃうというか、なんというか……」

「そ、そうか。まぁ、無理してすることでもないさ」


 軽く笑って、頷く俺。

 そんな俺に、ネネがふるふると首を振る。


「無理とか、嫌とかじゃないんすよ?」


 そんなことを言いながら、警戒した猫のように抜き足差し足でゆっくりと近づいてくるネネ。

 猫人族(フェルシー)というより、まるっきり猫みたいだ。

 そんなネネに、一歩近づいてまずは手を取る。


「ネネが探してくれたんだろ? 本当に助かったよ」

「頑張ってさがしたっす」

「おかげで今ここにいる。ネネのおかげだ」


 手を引いて、そっと抱擁する。

 腕の中でゆっくりと脱力するネネが、額を押し付けながら口を開いた。


「本当に心配したんすからね。故郷だと、そうやっていなくなる人が、いっぱい……いたっすから」

「次からは気を付けるよ」

「また、ウチが探しに行くっす」


 ぐりぐりと額を押し付けるネネの頭をそっと撫でて、しばし待つ。

 ネネがフィニスに──ママルさんの預かりになるまでの経緯は、酒の席で少しだけ聞いたことがある。

 あまり治安のよくない町の、さらに治安の悪い場所で育った彼女は友人と生活のために犯罪組織と関与することとなり、命以外の何もかもを失ってしまった。

 今回の件は、そんな彼女のトラウマを刺激してしまったのかもしれない。


「む、ダメっす。おセンチになってる場合じゃなかったっす!」


 小さく鼻をすすったネネが、俺をゆっくりと引きはがして深くうなずく。

 俺としてはもう少し腕の中にいてほしかったが、また別の機会に『ネネタイム』をセッティングすることにしよう。


「【深淵の扉(アビスゲート)】にまつわる異変なんて、放っておけないっす!」

「ああ、そうだ。それで──」


 話し始めた俺の裾を誰かが引いたので、言葉を止めて振り返る。

 少し申し訳なさそうに俺の裾をつまんでいるのは、シルクだった。


「先生、わたくしのこと……忘れてないですか?」


 ◆


 シルクともしっかりと帰還のハグを交わした俺は、宿の一室に机といすを運び込んで再び経緯を軽く説明する。


「……ということで、エルラン長老から俺達に直契の依頼があった」


 ──直契。

 直接契約。あるいは直接依頼とも呼ばれるもの。

 冒険者ギルドを通さず、依頼主が直接に冒険者に依頼をする場合を指すこれは、基本的には推奨されていない。

 リスク管理などをギルド側でできないし、報酬の支払いに関してトラブルになることもある。

 逆に、弱みに付け込んだ冒険者側が不相応な報酬を吹っ掛けるトラブルなどもあり、冒険者ギルドでは「一度持ち帰って査定を」というのが基本スタンスだ。


 ただ、ギルドを通さないことで依頼料や指名料を払わなくていいため、これを好む人々もいる。

 例えば、一部の貴族などは腕の立つ冒険者を子飼いにして召し抱えることもあるらしい。


 今回の場合は、利害の一致というのが一番近いだろうか。

 加えて俺達は、王から「調査し、問題があれば介入の打診をしてもよい」とお墨付きをもらっている。

 それを考えれば、純粋な直契というよりも勅命依頼(キングスオーダー)の範疇と言えるかもしれない。


「あたしはユークの決定に従うよ!」


 最初に、そして素早くうなずいたのはマリナだ。

 相変わらずのことだが、もう少しよく考えてほしいところではある……ので、軽く確認する。


「ちゃんと考えたのか? マリナ」

「もちろん! だって、ユークはいつだってあたし達のことを一番に考えてくれるもん」


 重すぎる信頼と屈託のない笑顔。

 これぞマリナって感じだな。


「ボクは、調査に参加したい。──ユーク、いいよね?」


 向けられた視線に頷くと、レインは自分の魔法の鞄(マジックバッグ)の中から【探索者の羅針盤(シーカードコンパス)】を取り出して、机の上に置いた。

 ゆっくりと回転していた針が、止まっては回り、止まっては回りを繰り返す。

 昨日に見たそれとも、また違った動きだ。


「レイン、これは何を指しているのです?」

「ルンの、方向」


 レインの答えに、俺以外の全員が息をのんだ。


「異変が、始まってから、ずっとこう。シルク、この方向には、何が、あるの?」

「……おそらく、『世界樹』の方向でしょう。わたくしも直接出向いたことが無いので、断言はできませんが」

「うん。だから、ボクは今回の依頼を受けたいと、思ってる」


 強い意志をみなぎらせて、不規則な動きを見せる【探索者の羅針盤(シーカードコンパス)】を見つめるレイン。

 そんなレインに続くように、ジェミーとネネが椅子から立ち上がった。


「断る理由なんてないわ。そうでしょ? ユーク」

「当然、やるっす!」


 二人に頷いて、俺も椅子から立ち上がる。


「よし、それじゃあ準備だ。俺とシルクはエルラン長老のところに承諾の旨を伝えに行ってくる。ネネはジュール船長にこのことを伝えてきてくれ。ジェミーは各種携行品の洗い出しを」


 ここまで指示してから、俺は腰の魔法の鞄(マジックバッグ)に手を伸して……とある魔法道具(アーティファクト)を取り出す。


「レインとマリナはこれの調整を頼めるか。あとで俺も手伝うからさ」


 机の上に俺が置いたのは、みんながよく知るモノ。

 エルラン長老曰く、今回の異変の対策(カウンター)になりえる切り札の一つ。


 そう──『ゴプロ君』だ。


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