第41話 影の人の謎と憧れの人
先週はうっかりと投稿をミスっておりました……('ω')
今気づきました……申し訳ないです……orz
小休憩をとった俺達は、【探索者の羅針盤】の指す方向へ進んでいく。
モザイクな景色となった『王廟』は『無色の闇』よりもさらに入り組んでいて、時折、ネネでも方向感覚を狂わされるほどに複雑怪奇だった。
魔物についても特記すべき点がある。
奇怪で見たことがない魔物と遭遇するのは『無色の闇』同様だが、影の人とも頻繁に遭遇した。
そして、それらは非常に不可解だった。
サポーターとして魔物知識の研鑽も行ってきた俺にとっても、この影の人という存在は、あまりに謎が深過ぎる。
魔術師で僧侶でもあるレイン曰く、彼等からは魔法生物の気配とアンデッドの気配が同時にするという。
ラフーマが裏返った瞬間を目にしたが、あれは死んだというより変質したように見えた。
で、あるのに……穢れた死者の気配がするというのは不思議である。
もう一点。
影の人の服装についてだ。
ラフーマやその近衛が変じた後でも装束を纏ったままであることを考えると、彼等は生前の姿であると考えられる。
であれば、ここで見られる影の人は『ラ=ジョ』周辺の者の可能性があるわけなのだが……遭遇した彼らは違った。
豪奢な指揮官のサーコートを纏った者、百年以上前の古い木製鎧を纏う者、得体の知れない金属製の布鎧をまとう者など様々で、時代が判然としない。
文化や時代、技術がまちまちでまるでまとまらないのである。
「うーん……これ、なんだろうな?」
「〈魔力感知〉に、引っかからない、から、魔法道具では、ないみたい」
興味なさげな魔法道具フリークに苦笑いしながら、俺は布に触れて確認する。
絹のようなさらりとした触り心地の薄衣だが、目を凝らせばこれがひどく細い金属で編まれたものだと理解できた。
しかも、魔法道具ではないということは、これは技術で作られたものらしい。
「変な斬り応えだったよ。あたしじゃなかったら流されたかも」
「防具としてデザインされた短衣なんだろうか? 鎖帷子みたいなものか? ううん……わからないな。一応、切れ端をもらっていこう」
衣そのものは、マリナが裂いてしまった。
「ネネ、休息可能な場所を見つけたら教えてくれ。少し休憩を取ろう」
「了解っす。では、行ってくるっす」
奇怪な景色と、それを隠れ蓑に襲い来る魔物に少しばかり消耗しているように感じる。
俺にしても、気を張りすぎてやや疲労を自覚しているくらいだ。
前衛で戦うマリナや先行警戒を行うネネは元より、慣れない迷宮探索に同行するニーベルンはそろそろ休息が必要だろう。
大体、広すぎる。
ネネの先行警戒の精密さや範囲から言えば、もう階段が見つかっていてもおかしくないはずなのに。
「ユーク」
軽くため息をついたところで、ジェミーが俺の腰を軽く叩く。
「やることは十二分にやってる。あんたが焦ってどうすんのよ」
「あ、ああ」
まさかこんな風にフォローされるとは思わず、俺はあっけにとられて……ついでに、肩の力も抜けた。
「ありがとう、ジェミー」
「どういたしまして」
「……君のせいでもあるんだけどな」
「あたし!?」
素っ頓狂な声を上げるジェミー。
「久しぶりに嫉妬してしまってさ」
「もしかして、〈魔法の矢〉のこと?」
「ああ。試そうとして、できなくて……落ち込んだのを思い出した」
その当時、たしか『サンダーパイク』はCランクの人気急上昇パーティだったと思う。
俺は、なんとか火力にもっと貢献できないかと悩んだ末、無詠唱による〈魔法の矢〉の連射を試したが、どうしてもうまくいかなかった。
第一階梯とはいえ、得意でもない攻撃魔法を連射するなど、そもそものアプローチが間違っていたのだ。
俺が裏方のプロを目指したきっかけだったともいえる。
それを、こうも目の前でやってみせられれば少しばかり悔しくもある。
「その、ね」
声を小さくして、耳元に顔を寄せるジェミー。
「アタシ、覚醒した『第二の職能』……赤魔道士だったの」
「えぇっ!?」
俺の挙げた驚嘆に、小休憩していた仲間たちが一斉に振り向く。
「あ、ジェミーさんがユークにちゅーしようとしてる!」
「お、おい……!」
マリナが俺達を指さしたせいで、『ゴプロ君』が反応してこちらを向く。
慌てる俺と、うっすら顔を赤くして俯くジェミー。
かつての彼女からは想像できない姿に、俺も少し気恥ずかしくなる。
「違う。ちょっと、な……昔に俺が失敗したことを、ジェミーはやったもんだから」
「ふーん? でも、それなら何もそんな風に言わなくてもよくない?」
マリナの素朴な疑問が、ますます俺達をいたたまれなくする。
「アタシ、『第二の職能』が赤魔道士だったの」
「ユークと、一緒。いい、なぁ」
レインが小さく目を輝かせる。
俺としては、第七階梯魔法すら使うレインの才能こそが羨ましいが。
「きっとユークに憧れてたのよね、アタシ。『クローバー』の〝配信〟で見るユークは、たくさんの魔法をすごく早く使って、一緒にいた頃とは別人みたいだった。その、さ……かっこよかった、のよ」
そう言って俯いてしまうジェミー。
『ゴプロ君』はこちらを向いたまま。これじゃあ、何かのインタビューみたいだ。
だが、ジェミーの気持ちは少しわかる。
俺の憧れた人も、赤魔道士でたくさんの魔法を自由自在に使って見せてくれた。
あれが、俺の職能を誘ったのだろう。
「ありがとう。嬉しいよ、ジェミー」
「あんたのそういう女誑しなトコは、ちょっとヤダ。昔はもっとイモっぽかったのに」
じと目で俺を見るジェミー。
「ユークの昔の話? 聞きたーい!」
「わたくしも是非」
「ボクも」
ネネが戻ってくるまでの間、ジェミーは〝赤魔道士〟がいかに田舎者だったかという失敗談を話し、『ゴプロ君G』はそんな俺の情けない昔話を〝黄金〟の力でもって全国のタブレットに配信しつづけたのであった。
いかがでしたでしょうか('ω')?
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