第16話 ギルド呼出しとユークの見解
今日もはりきって更新していきます('ω')!
楽しんでいただければ幸いです。
オルダン湖畔森林から帰還して、数日後。
俺達は、冒険者ギルドに呼び出しを受けていた。
まあ、十中八九、今回達成した例のCランク依頼の件だろう。
なにせ、あれは……本来はBランク依頼とするべきもので、それをDランクのパーティが達成したという事実は、良くも悪くも話題になってしまっていた。
なにせ、その模様を〝生配信〟してしまったし。
ギルド側としても困ったのだろう。
本来、依頼というのは冒険者の経験を鑑みて、受領の可否を判断する。
それは、失敗による依頼者への不利益を防止すると同時に、俺達冒険者が身の丈に合わない依頼に挑戦して、引退するのを予防する意味があるのだ。
特に『討伐依頼』は必ず戦闘になることから危険要素が高く、派遣する冒険者に関しても冒険者信用度と達成記録を事前に確認される。
今回の場合、あの依頼は書面上ただの採取依頼の体をとっていた。
しかし、オルダン湖畔森林の状況を冒険者ギルドは認知しており、問題となっている魔獣の調査と討伐を想定した依頼だというのは、少しこなれた冒険者ならすぐに気が付くはずだ。
そうなると、「冒険者ギルドがDランクパーティをBランク討伐対象にぶつけた」ようにも見えてしまう可能性がある。
おそらく、冒険者ギルドとしてもザルナグの事は予想外だったのだろうと思う。
俺とて、遭遇するまではそうだったのだから。
だが、あの配信を見て、偶然を装った無茶をする若い冒険者(駆け出しの事だ)が増えないとも限らない。
誰もが輝かしい戦功と討伐による高い冒険者信用度を欲しているのだ。
特に、駆け出しは。
俺達が行なったザルナグの討伐は、評価されてしかるべきだ。
俺はともかく、三人の冒険者信用度と達成記録にザルナグを討伐について反映してもらわねばならない。
しかし、それをどういう理由で落とし込むかは、冒険者ギルドのお偉方にとっては些か難しいところだろう。
「大丈夫かな? 怒られるのかな?」
冒険者ギルドへの道を歩きながら、マリナが不安げに俺を見る。
「いや、そんな事にはならないだろうけど……。面倒なことは言われるかもしれないな」
冒険者ギルドが何を言ってくるか、俺にもわからない。
そもそも、今回の依頼は報酬も未払いになっている状態だ。
落としどころとしては『依頼自体最初からなかった』というあたりだろうか。
依頼掲示板にもまだ貼っていなかったし、依頼は俺達『クローバー』しか見ていない。
つまり、俺達が個人的な用件でオルダン湖畔森林に入り、たまたま遭遇したザルナグを叩いた……という形にすれば、ギルドとしては体面が保てるだろう。
「こちらでお待ちくださいね」
ママルさんに案内されて、普段はあまり立ち入らない冒険者ギルドの三階……その一番奥の部屋に俺達は通された。
ふかふかの柔らかいソファに大きな窓。
応接室に通されたってことは、問題聴取という形ではないのだろう。
それだけでもほっとする。
「ど、どうしましょう……緊張してきました。これはユークさんだけではいけなかったのですか?」
「パーティメンバー全員で、とのお達しだったからな」
「ユークに、任せる」
レインは意外と肝が据わっているというか、落ち着いている。
俺に任せる……という投げやりさはともかく、方針が決まれば揺らがないタイプなのかもしれない。
「待たせた」
筋骨隆々とした初老の男が、扉から姿を現す。
上等なスーツに身を包んでいるが、今にも千切れ飛びそうなほどに張り詰めていて、もう少し大きいサイズにしたらどうかと毎回思う。
「やってくれたな、ユーク」
「俺のせいじゃありませんよ」
この大男……ギルドマスターのベンウッドとは、ちょっとした知り合いだ。
「状況を詳しく教えてくれ」
「報告の通りですが?」
「提出された客観的事実の記録じゃない。お前の考えを聞かせてくれと言っている」
目つきを鋭くして、圧をかけてくるベンウッド。
殺気じみたプレッシャーにマリナ達が縮み上がる。
「やめろ、ベンウッド。うちのパーティメンバーが怖がっている。だいたい、俺に話があるなら、俺だけ呼べばよかっただろ?」
「よし、余計な敬語がとれたな」
にやりと笑うベンウッド。
相変わらず面倒くさい奴。やり方が荒っぽいんだよ。
「あのザルナグについてか? 本当に報告の通りだ。だが、話を聞いていると、二、三か月前にはもうオルダン湖畔森林にいたんじゃないかと思う」
「ほう。何故だ」
「この……マリナが魔物とも動物とも遭遇しなかったと言っていたからな。この時期でそれはおかしいだろ」
「そうだな。それで、どう見る?」
何を言わせたいのかは、わかる。
だが、これは完全な予想だ。軽々しく口にするべきじゃない。
そうわかっていても、俺は口にする。でないと話が終わらないからだ。
「……『溢れ出し』の可能性がある。調査するべきだ」
「そうか」
ベンウッドがママルさんに目配せして退出させる。
緊急調査依頼を発行させるつもりだろう。
『溢れ出し』は、何らかの原因でダンジョンから魔物が溢れ出す現象だ。普通、ダンジョンの魔物は外に這い出てこない。迷宮の魔力によって、命を縛られているからだ。
だが、その束縛が時に外れてダンジョンの外へと出てしまうことがある。
それは、ダンジョンに異変があったという証左であると同時に、大暴走の兆候でもある。
もし、ザルナグほどの魔物が迷宮から這い出ているのだとしたら、かなり危険な状態だ。
「さて、ここからは、君たち全員の話だ。今回の件……君たちを危険にさらしたこと、大変に申し訳なかった」
立ち上がったベンウッドが深々と頭を下げる。
それに驚いたのはマリナ達三人だ。
「あ、あの、あたし達は大丈夫だったので……。ユークがいたし」
「はい、そうです。ユークさんがおられましたから、問題なく!」
「ユークの魔法で、倒したようなもの、です」
三者三様で俺に丸投げしようとするなよ……!
俺一人じゃ足止めがせいぜいだっただろうに。
「ユークはともかく……あの配信を見る限り、君たちには充分な実力があると儂は考える。今回の実績を以って、Cランク昇格としようと思うが、いいかね?」
「いいのか?」
思わず聞き返す。
意外な結果だった。もみ消しにかかるとばかり思っていたが。
「他方のギルドとも協議した結果だ。ユークというAランク冒険者の手助けあっての事……という表明を出して、駆け出しどもを抑えるさ」
「俺はBランクだぞ?」
ついに耄碌したか。
だが、ベンウッドは指を左右に振ってにやりと笑う。
「馬鹿言え。配信のあれ……未発見の新魔法だろ。それでザルナグ討伐をしたことにしてあんだよ。おめでとう、これでお前も今日からAランカーだ」
ギルドマスターのしたり顔に、俺は乾いた笑いを浮かべることとなった。
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