第4話 高所恐怖症のエルフと約束
ちょっぴり遅れましたが、更新です('ω')
来週はちゃんと12時に間に合うようにします……
「『無色の闇』をほっぽり出していいのか?」
未だ湖上に浮かぶ【魔導飛空帆船フォルネイア】の甲板で、俺はギルドマスターに尋ねる。
「なに、ママルさんがいるからな。それに現在は安定している。それよりも、古代に封印された迷宮が活性化している方が問題ってことだ」
「どっちかというと、こういうのはママルさん向きじゃないか?」
「もし大暴走になりもすれば、儂の方が長く保つ。お前たちが逃げる時間を稼がねばならんからな」
ベンウッドの言葉に、俺は少なからず納得する。
封印されているからには、封印されるべき理由があるのだ。
能動的に解いたわけでなく、何かの拍子に封印が解除されたのであれば……なにか、大きな災厄の前触れになる可能性がある。
──それこそ、〝淘汰〟のような。
サルムタリアに冒険者は多くない。
少なくとも、マストマ王子が国外に冒険者の人材を求める程度には、人材が不足している。
かと言って、ウェルメリア所属の冒険者を国選依頼などで派遣するわけにもいかない。
サルムタリアにはそれを受け入れる風習的地盤がないし、表面上は迷宮などないことになっているからだ。
そうなると、まずは少数精鋭を送り込んでの地盤固めをする必要がある。
迷宮の存在をさも新発見かのように装って、なまじ配信事故のように見せかけて喧伝し、なし崩し的に冒険者の目をサルムタリアに向けさせるのだ。
『グラッド・シィ=イム』があのようなことになり、フラストレーションがたまっている冒険者には丁度いいだろう。
きっと、新迷宮に惹かれた冒険者たちが大挙して押し寄せるはずだ。
そうなれば、我が王とマストマ王子の目論見通りの展開になる。
マストマ王子は、迷宮探索によって功績をたてる心づもりだったようだが、『封印迷宮の発見』と『冒険者活動立ち上げ』という新事業によって評価を得られるはずだ。
もちろん、俺達としてはマストマ王子の目的通りに迷宮を探索するつもりだが。
笑うベンウッドの脇を、見知った顔がつつく。
「マスター、アタシは聞いてなかったんですケド?」
「いいじゃないか、ジェミー。国の外でワシの手伝いなら人目は少ない。好きなだけユークと一緒に居られるぞ」
「な……っ」
少し顔を赤くしたジェミーが目を白黒させながら、俺とベンウッドを交互に見る。
何か問題でもあったのだろうか。
見知った顔がいるというのは、俺にとってはありがたい限りなのだが。
「コイツ、お前が『グラッド・シィ=イム』で姿を消したとき大変だったんだからな。“アタシもドゥナにいく!”って大騒ぎしやがって。ユークなら大丈夫だって言ってんのによ」
「そりゃあ、悪い。心配をかけたな、ジェミー」
「心配なんてしてないわよ!」
おっと、それは傷つく。
これで、それなりに長い付き合いなんだ、少しくらい心配してくれてもいいだろうに。
「それで、ニーベルンはどうしてなんだ? お前とママルさんで預かってくれるんじゃなかったのか?」
「本人がそう希望したからな。もし『グラッド・シィ=イム』が原因なら自分にも責任があるって気に病んでたし、どうせなら一緒のがいいだろ? おんなじ『クローバー』なんだからよ」
「……それもそうか」
ニーベルンは、結局『クローバー』の一員として迎えることになった。
本人が冒険者としての自立を望んだし、俺としてもそばで見守ることができるからだ。
しかし、今回は国外ということもあってお留守番を頼んだのだが……おてんば娘め。ベンウッドを抱きこむとはなかなか強かじゃないか。
冒険者としての素養はしっかりとあるようだ。
「それによ、ジェミーも再登録可能になれば『クローバー』に入れるんだろ?」
「ジェミーが嫌じゃなかったらな」
「……」
ちらりとジェミーを見るが、すっと目をそらされてしまった。
何も無視しなくてもいいじゃないか。
そりゃあ、多少のわだかまりもあるかもしれないが、俺は恩人だと思ってるし、また一緒に冒険したいと思っているのに。
「お、そろそろ出港の様だぞ」
「じゃあ、仲間のところへ行っておくよ。また後でな」
ベンウッドとジェミーに軽く手を振って、甲板中ほどに集まっている仲間たちの元へと足を向ける。
きっと、船が動き始めたらシルクがパニックになるだろうから、サポート役としてそばに居なくては。
「あ、あのね、ユーク」
「ん?」
振り返ると、ジェミーが心配げな目でこちらを見ている。
「アタシ、期待していいの?」
「もちろん。ジェミーと一緒に冒険できるのを、みんな楽しみにしてる」
「ユークは?」
「俺もだよ」
俺の返答に、小さくうなずいたジェミーが小さく笑う。
あのけたたましい笑いばかりしていた彼女がこんな風に笑うなんて。
「今度は、きっと頑張るから。アンタに、迷惑かけないように」
「俺はリーダーでサポーターだぞ? 迷惑なんて好きにかけてくれればいいさ」
「……お人好しなんだから」
苦笑するジェミーに笑顔を返して、今度こそ俺は仲間たちの元へ向かう。
到着してみれば、すでにシルクが座り込んでパニックになっていた。
「あ、ユーク! どうしよう、シルクが固まっちゃった」
「そうみたいだな」
長い耳をたたむようにして塞いだシルクが、小刻みに震えながら座り込み俯いている。
これは重傷だ。高い木の上に住居を構えるエルフ族なのに、高い場所が怖いなど思いもしなかった。
いや、『アイオーン遺跡迷宮』で下層を覗き込んでいた時はそうでもなかった。
単純にこの空飛ぶ船が怖いだけなのかもしれない。
レインとは逆に、シルクは魔法道具をどこか信用していない所があるしな。
そういうところは、森で自然と共に生きるエルフの気質かもしれない。
「シルク」
「うぇ? ユークさん……?」
涙目で見上げるシルクが、普段の凛々しさとは逆な声を上げる。
「情けないのはわかってるんです。ごめんなさい。すぐに立ち直りますから」
「無理しないでいいよ。えーっと、こうしようか」
強張ったままのシルクを抱き上げて、そのまま甲板に固定された椅子に腰を下ろす。
「万が一、落っこちでもしたら俺が魔法で助ける。信用できるか?」
「……あわわわ」
ダメだ、全然落ち着いていない。
なんと信用のないことだ。
「ほら、出航だ。こんな機会、人生でもそうないぞ」
「ととと、飛ぶんですか? ほほ、ほんとに?」
俺の服をぎゅっとつかんだシルクが目を閉じる。
なんてもったいない。こんな大型の魔法道具が動く瞬間を見逃すなんて。
そう苦笑する俺達の頭上で、真っ白な魔力帆がふわりと広がった。
いかがでしたでしょうか('ω')
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