第3話 魔導飛空帆船とギルド派遣員
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「おおー……ッ」
「レイン、落ち着いて」
普段控えめなレインが、興奮した様子で俺の袖を引く。
それもそうだろう。魔法道具フリークの彼女にとって、目の前にあるこれは夢にまで見る憧れの宝物であろう。
──【魔導飛空帆船フォルネイア】。
ウェルメリア王国の誇る、最も重要な魔法道具の一つであり、世界に三つしかない、有人航行が可能な大型飛空艇だ。
「はぇー……すっごいねぇ」
「き、緊張してきたっす」
マリナとネネも同じく見上げて、思い思いの反応をしている。
そして、シルクは俺の背中に隠れていた。
「いいですか、先生。空にこんなものが飛びあがるなんて、ウソに決まってます」
「みんなで着陸を見たじゃないか。ちゃんと浮かび上がるって」
「いいえ、きっと見間違えに違いありません。このような大きなものが空を飛ぶなんて……あんな高さに飛びあがるなんて……どう説明するんですか?」
「地脈上の高密度魔力を推進力に変える魔力帆を使って浮かび上がって、その上を航行するんだよ?」
この巨大魔法道具については、謎も多いが研究が進んでいる。
まず、どこにでも飛んでいける類のものではない。
世界に張り巡らされた、魔力の経路……地脈の上しか航行することはできず、離着陸地点も限られる。
例えば、いま俺たちが居るオルダン湖のような地脈上の水場にしか降りられない。
そういう特性もあって、少しばかり気軽さには欠ける。
しかし、だ。
これに搭乗する機会など、一生に一度あるかないかだ。
これは、主に王族や国の重鎮が他国に外遊する際や、あるいは国賓を招く際の移動手段兼デモンストレーションとして使用されることが多い。
俺達のような一般冒険者は、これを目にする機会すらそうそうないのだ。
「フェルディオ卿、ご機嫌はいかがかな?」
【魔導飛空帆船フォルネイア】を見上げる俺の背から、聞き覚えのある声がかけられる。
「ボードマン子爵様!」
「おっと、様は不要だよ。君も今は迷宮伯なのだからね」
「慣れやしませんよ……。いきなりこんなことになってしまって」
俺の苦笑に、ボードマン子爵も苦笑を返してくる。
「なに、私と気軽な間柄になったと思えばいい」
「そうですね、それに……必要なことでした」
これから向かう先は、サルムタリアという男系の封建制度が幅を利かせる異郷である。
女性ばかりの仲間たちをトラブルから守るためには、俺の姓である『フェルディオ』に意味を持たせる必要があった。
『サルムタリアに来る冒険者は王国の勇者〝迷宮伯フェルディオ卿〟であり、その家紋を纏う女は全てが彼の者の所有物である』と周囲に示し、彼女たちに危険が及ぶのを予め防止せねばならない。
……というのが、王のはからいだった。
そのため、王から賜った『四葉のシロツメクサの意匠』を仲間たちは思い思いの場所につけている。
図らずも、以前にマリナが提案したパーティシンボルをつける形となったわけだ。
また、そうでなくとも俺は〝勇者〟として一度は認可を受けていた為、結局のところ早いか遅いかだけの話であり、「タイミングがいいから、今でいいんじゃないか」という雑な結論でこうなったらしい。
我が王は、思っていたよりもずっとフランクで適当であるようだ。
「しかし、王は勝負に出ましたな」
「ええ、そうですね」
「勝負? とは?」
レインが隣で小さく首をかしげる。
「マストマ王子の提案に加担するってことはさ、王様にとってもちょっとした賭けなんだと思う」
「そう、なの?」
「王位決定戦の片棒を担ぐわけだからね。もし、他の人間が王となればいい顔はしないだろう?」
だが、彼が次代のサルムタリア王となったとき、ここでの貸しはかなり大きくなる。
そして、マストマ王子というのは優秀で筋の通った人間だ。
必ず、何らかの形で義理を返してくれるだろう。
そしてそれは両国にとって大きな発展のきっかけになるはずだ。
……そう考えると、少し胃が痛くなってきた。
今回の件、万が一にも実働部隊の俺達が失敗するわけにはいかない。
何せ、これは王の主導する国家事業の一環──『勅命依頼』なのだ。
「実はサルムタリアに行くのは、久しぶりでしてね。新たな発見があるんじゃないかと胸が躍っているんだよ」
俺の緊張を察したのか、ボードマン子爵が話題を変えてくれる。
「そうですね。土地が変われば冒険の仕方も変わりますからね」
「そうなんだよ。特に『あれ』が実用化されてから、冒険者界隈は大きく変わった。私の研究もまた、やり直しだよ」
ボードマン子爵の視線の先には、浮遊魔法でゆっくりと【魔導飛空帆船フォルネイア】に搬送されていく配信設備用の魔法道具。
あれを設置するのも、今回の目的の一つだ。
ボードマン子爵はあれの設置調整のためについてきてくれることになっている。
「あれの調整には少し手間暇をかける必要があるんだよね」
「よかったら俺も手伝います。これで、錬金術師の端くれですから」
「そりゃ助かる。フェルディオ卿は現場レベルでの調整もできるから頼りにさせてもらうよ」
呼ばれ方になれなさを感じつつ、笑うボードマン子爵に俺はうなずく。
「ボクも。ボクも触ってみたい」
「おいおい、レイン。それってただの興味だろ……?」
「邪魔しない、から。だめ?」
「いいとも。レインさんにも頼もう。君の前回での慧眼には驚かされたしね」
ボードマン子爵の許可に、レインが満面の笑みを浮かべる。
本当に魔法道具フリークが過ぎる。
そしてシルク。そろそろ搭乗だから背中を掴むのは程々に頼む。
「おおい、ユーク!」
「ん?」
荷物を担ぎ上げたところで、ベンウッドの声がした。
見送りには来ないと聞いていたが。
「どうした、ベンウッド?」
「ん? どうしたとはご挨拶だな」
カラカラと笑うベンウッドの両サイドには、数日前に挨拶を交わしたジェミーと、それから小さなリュックを背負ったニーベルン。
さて、これはどういうことだ?
「なんだ聞いていなかったのか? 冒険者ギルドからの人員は、儂たちだよ!」
「は?」
唖然とする俺の背後で、荷物の積み込みが終わった旨を知らせるラッパが高らかに鳴らされた。
いかがでしたでしょうか('ω')
少し、いろいろありまして不定期連載となっておりますが、週一ペースは崩さないように頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。