第二部 最終話 ただ、冒険者らしく
ちょっと遅れましたが、更新間に合いました。
タイトルの通り、本日は第二部最終話です!
「あー……やっと戻ってきたねぇ」
パーティ拠点に戻ってきたマリナが、大きく息を吐きだして椅子に座る。
ドゥナでの『グラッド・シィ=イム』攻略を終えた俺達は、ようやくフィニスへと戻ってきていた。
最初は一週間ほどで終えるはずだったはずの初見調査依頼に随分かかってしまったが、得るものも多かったように思う。
……トラブルも相応に多かったが。
「みんな、お疲れ様。しばらくは休養日にしよう」
「そんな事を言って、まだ何か動くつもりでしょう? 先生」
シルクがきりりとした目で俺に詰め寄る。
何故、こうも簡単にバレてしまうのか。
「マストマ王子の件で、ちょっと相談をな……」
ここではぐらかしても不信の原因になるだけなので、正直に吐いておくことにする。
ここのところでわかったが、どうも俺は彼女たちに隠し事ができないらしい。
「そういえば、どうされるおつもりなんですか?」
「話を聞いてしまった以上、無関係ではいられないさ。それに、レインの件もあるしな」
発端そのものがマストマ王子とはいえ、今回レインが無事だったのは俺的に借りだと思っている。
そして、俺に事情と情報を開示したのは彼なりの誠意と期待でもあるのだろう。
「はい。それについてはわたくし達も前向きなのですが、どう関わるか、ですよね」
「そこが問題なんだよなぁ……」
俺はこれでもAランクの冒険者信用度を持つ冒険者だ。
つまり、ウェルメリア王国の人的資産であり、広義には王直下の臣となる。
立場上、表立ってサルムタリアの王位継承権争いに加担するわけにはいかない。
ただ、個人的にはマストマ王子の事を好ましく思うし、助けたいとは思っているのだ。
「ベンウッドとママルさんに事情を伏せて相談してみるよ」
「そうですね……。では、わたくし達は出るつもりで準備を整えておきます」
にこりと笑うシルクに、マリナ達が頷く。
「休んでていいんだぞ?」
「ユークさんが休む時に一緒に休みますので」
笑顔なのに妙に圧が強いシルクに、小さくうなずいて荷ほどきを始める。
さすがにもう日が沈み始めているし、冒険者ギルドに行くのは明日だ。
「そう言えば、『スコルディア』の配信って今日じゃなかった?」
「っすね! 【タブレット】つけるっす」
マリナとネネが、壁掛けの【タブレット】を起動して、目当ての配信を探し始める。
少しすると、迷宮で肩を並べて戦った『スコルディア』の面々が水晶板に映し出された。
『相変わらずいい動きですね!』
『崩壊した新迷宮でも活躍したスコルディア、楽々と第五階層を踏破です』
そんなアナウンスが流れてくるのを聞きながら、彼等の事を思い返す。
俺が行方不明の二週間の間に、『グラッド・シィ=イム』の攻略を共にした二つのAランクパーティは、別の国選依頼を指名されたらしく、ドゥナでの再会はできなかった。
学ぶべき点の多い彼らに、いろいろと話を聞きたかったのだが……指名の国選依頼とあれば仕方あるまい。
俺の安否以上に重要な仕事など、いくらでもある。
一応、マニエラ経由で礼状を送ったし、俺が無事だったというニュースは王国公式放送でもちらりと流れた(とても恥ずかしかった)ので、安否については知れていると思う。
機会があれば、話す機会もあるだろう。
そして、マリナ達はすっかり『スコルディア』と『カーマイン』のファンになってしまったようで、彼等の配信をよく見るようになった。
肩を並べた先輩冒険者の配信を見るのが楽しいのは俺にもわかるので、少し微笑ましい。
「マリナ、ネネ? 荷物を片付けてからにしなさいな」
「後でするから!」
「っす」
それに小さくため息をついたシルクが、整理の手を止めて立ち上がる。
「もう……ほら、見るならしっかり椅子に座って。お酒とおつまみも準備しますから、水袋でお酒を飲むのはおやめなさいな」
「やった! シルクありがとう!」
キッチンに消えるシルクと子供のようなマリナに苦笑しながら、俺は旅の荷物を一つずつ整理していく。
また、すぐに出ることになるかもしれないので、足りないものを把握しておかなくては。
サルムタリアは魔法道具作りの盛んな国だ。
おそらく魔法の巻物の類も豊富にあると思うが、よそ者に売ってくれるかはわからないな。やはり準備は必要だな。
サルムタリアに行くこと自体が、ウェルメリアの人間としてはそうあることじゃない。
もう一度、言葉も勉強し直して……後は、やはりもう一度マストマ王子に話を聞いて──……
「ユーク?」
とんとんと肩を叩かれて、ハッとする。
「また、難しい顔、してたよ」
「あ、ああー……すまない。今後の事を考えてた」
「それは、明日みんなで考えよ。マリナもネネも、今は配信に、夢中、だし」
「そうだな」
【タブレット】に魅入る二人の顔は、どこか幼げに映る。
昔は俺もあんな顔をしていたんだろう。
俺が追いかけていたのは、人気Aランクパーティではなく、叔父だったが。
今でも考える。
俺と同じ赤魔道士という身の上で、ベンウッドやママルさんと共に『無色の闇』に挑んだ叔父──サーガ・フェルディオ。
ここ数年は会う機会もなかったが、Aランク冒険者となってパーティを率いるようになった今、叔父に会いたい。
今の俺は、冒険者として立派にやっているのかどうか。
夢の始まりであり、憧れの冒険者である叔父に聞いてみたい。
俺は……みんなのために、リーダーとして、サポーターとして、どう変わっていくべきなのだろう?
「ね、ユーク」
「うん?」
また、顔に出ていたのだろうか?
荷物をすっかり片づけたレインが、俺の手を取る。
「ユークは、すごい」
レインがふわりと笑って、俺を見上げる。
「ボクらは、たくさん助けてもらってる。ユークがいるだけで、何だってできる、気がする」
「そうか?」
むしろ、俺の方がみんなに助けてもらってると思うんだが。
Aランクに認定されているとはいえ、俺一人じゃ、冒険者稼業もままならない。
俺がこうして冒険者としていられるのも、みんなのおかげだ。
「うん。大丈夫。そのままで、いいよ?」
「うーむ……」
果たして、どうなんだろう。
みんなと出会って少し変わったし、今回の依頼でもいろいろと変わった気がする。
俺に向けられる感情も、関係も、距離もであったころに比べれば、みんな少しずつ変化しているのは俺にだってわかる。
「あ、ユークがまた難しい顔してる!」
「またっすか……? ユークさんがその顔してる時は、ロクでもないことを考えてる時っす!」
【タブレット】からこちらに向き直って、マリナが、ネネが、俺に笑う。
そして、トレーを持ったシルクも、俺の顔を見て小さく苦笑した。
「また何か悩み事ですか? ユークさん。こちらへどうぞ。レモン酒も用意しましたよ」
「今日はユークがつぶれるまでのむぞー!」
「林檎酒の時のリベンジっす! 今度はユークさんに語ってもらうっすよ!」
まったく、やっぱりみんなには敵わないな。
「ほら、いこ。だいじょぶ……酔いつぶれたら、また朝まで一緒にいてあげる」
そう言えば、あの日……結局『酔い覚ましの魔法』はかけてもらえなかったんだった。
「よし、それじゃあ飲み比べだ。リーダーの意地を見せてやる」
一つの冒険が終わったところで、酔いつぶれるまで飲むのもまた冒険者らしいかもしれない。
そんな事を考えながら、俺は信頼する愛しき仲間たちとの小さな宴を、心ゆくまで楽しむのだった。
~ 第二部 fin ~
さて、第二部はいかがでしたでしょうか('ω')?
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
いくつかの示唆を含む形で物語を進めてまいりましたが、どれが誰にどれだけ伝わったか……は、作者として特にお聞きしません。
善し悪しを決めるものではないし、何を得るかは皆さんの個々人によるかと思いますので。
ただ、作者としては楽しんで読んでもらえていればいいなと願うばかりです。
ちなみにweb版はアーキタイプとなるもので、もし第二巻が発売されてこの第二部が書籍化の運びとなったら内容が変わる可能性がありますのであしからず。
作者としては異常空間で『ゴプロ君』の出番が減ってしまったのが少しばかり不満なので、改稿する機会があれば、そのあたりも付け加えていきたいなと思います。
さて、第三部についてはこれからまたプロットを練りつつ、書籍の状況を見つつ……といった感じになるかと思いますので、しばしお時間をいただくかと。
その間は別なうなぎ作品を読んでいただければ幸いです!
それでは、また('ω')ノシ





