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Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。  作者: 右薙 光介
第二部

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第50話 再会と邂逅

更新です('ω')!

「せ、先生……!」

「ユーク!」


 『歌う小鹿』亭の扉を開いた瞬間、シルクとマリナが驚いた様子で固まった。


「ただいま。ルンも無事だよ──」


 少し笑ったところで二人に飛びつかれ、ルン諸共に抱擁された。

 軽い衝撃ではあったが、帰ってきたことを実感させる重みを感じた俺は、やんわりと抱擁を返す。


「心配をかけた」

「本当に、本当に無事で……」

「心配したんだからね!」


 二人の頭を両手で撫でやって、見回す。

 なんだか、奇妙だ。ネネもレインも気配がない。

 それに、俺が扉を開けた瞬間の緊張した雰囲気はなんだったのか。


「何かあったのか?」


 胸のざわめきを感じて問うと、落ち着きを取り戻したらしいシルクが一枚の手紙を取り出した。


「二日前からレインが帰らなくて……。それで、今しがたこんなものが」


 手紙を受け取りつつマリナに目配せすると、意を察したマリナがルンを連れて奥へと入っていった。

 それを確認してから、手紙に視線を落とす。


『ユークの手掛かりがつかめるかもしれない。少し行ってきます。心配しないで』


 短い文章は確かにレインの筆跡ではあったが、急いで書いたのか少し乱れている。


「これは誰が?」

「ブラン・クラウダと名乗っていました。レインの血縁かと思います」

「あの男か……!」


 あこぎな真似をしてくれる。

 よりにもよって俺を利用するかよ。

 くそったれ。つくづく俺という人間の不甲斐なさを実感させられる。


 手紙を持ったまま黙る俺を見たシルクが、再び口を開く。


「レインはもう帰らないと。話がしたければ中央街区のマストマ邸まで来いとも言っていました。……どうすれば、いいか、わからなくて……!」


 声を震わせるシルクの髪を、さらりと撫でる。

 俺が戻るまで随分と頑張ってくれたに違いない。

 ここからは、リーダーである俺の仕事だ。


「落ち着け、シルク。俺が迎えに行ってくるよ。だからシルクにはギルドへの言伝を頼みたい」

「言伝ですか?」

「ああ。レインが拐わかされたこと、俺がその対応のためにマストマ王子の邸宅に向かったことを伝えて、対応を協議してもらってくれ」


 冒険者ギルドも『グラッド・シィ=イム』の顛末について、俺への事情聴取をしたいはずだ。

 だが、それよりも先にレインを迎えに行かなくては。

 俺の不在を狙った厄介ごとを放ったままでは、リーダーとして面目が立たない。


「わかりました。ネネさんが様子を確認するために先行しています。現地で落ち合ってください」

「わかった。後を頼むよ」

「はい。お気をつけて」


 冷静さを取り戻したシルクが、小さくうなずく。

 それに小さく笑って返して、扉に向かおうとする俺をマリナの声が止めた。


「待って、ユーク!」


 手に持っているのは、タオルと一本の魔法の巻物(スクロール)だ。


「はい、これ濡れタオル。それと……〝起動(チェック)〟」


 俺にタオルを渡しながら、マリナが魔法の巻物(スクロール)を起動する。

 小さな温風のようなものがふわりと吹いて、気が付くと濡れて泥に汚れていた俺の服はすっかり綺麗になっていた。

 こんな便利な魔法の巻物(スクロール)は俺も知らない。


「『アーシーズ』の広報さんからもらった女の子のための魔法の巻物(スクロール)だよ。とっておきだけど、ユークを汚い恰好のまま行かせるわけにはいかないから」

「ああ、助かるよ」


 濡れタオルで顔と髪を拭い、マリナに返す。


「レインの事、お願い。あの子のことだから、きっと考えがあってのことだと思う。けど、心配だから」

「了解した。連れて戻るよ。そしたら……」

「お祝いのパーティーだね」


 俺の言葉を継いで笑うマリナの目には、信頼が見て取れた。

 さて、これに応えないわけにはいかないな。


「じゃ、行ってくるよ」


 二人に軽く手を振って、俺は帰ってきたばかりの『歌う小鹿』亭を後にした。



 ◆



 大通りを大股で歩いて、マストマ王子の邸宅を目指す。

 交易都市の大通りは人で溢れており、すれ違う何人かが俺を振り返って視線を向けた。

 これについては、仕方あるまい。


 この赤い冒険装束(ウォーロックタバード)が目立つのはもう諦めた。

 それに今は急いでいる。いちいちそれに構っている暇はない。


「ここか……」


 大通りから一つ辻を入った場所に、俺の目指す場所が見えた。

 ドゥナではそこらかしこにサルムタリア建築が散見されるのだが、さすが王族の別邸ともなると規模や様式が違う。

 高い壁に囲まれて、門は一つ。当然、そこには警備の兵が立っている。


「ハルカ=ンマリ」


 独特の形の槍を持った、浅黒い肌のサルムタリア人らしき警備兵にそう声をかける。

 以前、レインに言葉の間違いを指摘されたが……ちゃんと通じているだろうか?


「……ユーク・フェルディオ?」


 俺の頭の先からつま先まで確認した警備兵が、ややイントネーションの違う発音で俺の名を呼ぶ。


「通セ、命令、アル。コッチダ」

「へ?」


 片言のウェルメリア語で俺についてくるよう促す警備兵をみて、少しばかりあっけにとられる。

 いざとなれば、強行突破じみたことも想定していたのだが。

 しかし、命令があるということは俺が来るということが判っていたのか?

 一体、どういうことだろう?


 贅をつくしたサルムタリア様式の屋敷の中を、警備兵の背について歩いていく。

 これが罠の可能性もないではないが……もとより踏み込むつもりの虎の穴だ。


 いくつかの中庭と廊下を抜け、最奥にある両開きの扉に辿り着いたところで警備兵が止まる。


「ワザーン・ウケエ。ナイ=マルチ、キャス」


 扉の前でそれだけ告げて警備兵は去っていく。

 残された俺がどうするかと思案を始める前に、目の前の扉が音もなくゆっくりと開いた。


「どうぞ、こちらへ」


 流暢なウェルメリア語で俺を中に促したのは、些か目のやり場に困る薄着の女性。

 彼女に促されて、俺はおそるおそる部屋の中へと歩み入った。

 部屋はサルムタリア様式の真骨頂ともいえる円形で、天井部分は大きな天窓になっており、床には起毛した絨毯が敷き詰められている。

 そして、その中央──ベッドともソファともつかない巨大なクッションのようなものに、この邸宅の主が複数の女性を侍らせたまま座していた。


 ……この男が、マストマ・サルムタリアか。


 その場で膝をつき、頭を垂れる。

 突然の訪問というだけでも十二分に不敬にあたるのは間違いない。

 その上、招かれたとはいえずかすかと居室にまで踏み入ったのだから、最低限の礼は見せるべきだろう。


「ワクティ、ワナア=ガサン──……」

「ウェルメリア語でよい。まどろっこしいのもな」


 俺の言葉を遮って、睥睨するような視線を俺に向けるマストマ王子。


「用向きを聞こうか? ユーク・フェルディオ」


 冷えた圧力を伴った言葉が俺にのしかかる。

 ……が、それに怯むような覚悟でここには来ていない。

 だからだろうか、俺は臆することなくその返答を返すことができた。


「レインを返していただきます」


いかがでしたでしょうか('ω')


マストマ王子との対決はどうなるのか、ブランのおっさんは裁かれるのか?

「この先が気になる!」「この流れはもしかして……」という方は、是非、下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただければ幸いです!


【書籍化・コミカライズについて】

すでに告知しておりますが、本作は講談社様から書籍化&コミカライズされます('ω')!

各種情報などはあとがきや活動報告でお知らせいたしますので、よろしければ作者のお気に入り登録もしていただければ幸いです!

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