第43話 迷宮の主と彼女たちの戦い
更新でございます('ω')!
戦闘を開始する先輩パーティの横を注意深く、しかして素早く駆け抜ける。
足止めを任せた以上、俺達は俺達の仕事を疾く完遂せねばならない。
もっとも素早く移動し、先行するのはネネだ。
彼女は〈空蝉の術〉という『忍者』特有の魔法を自らに施している。
効果的には俺のような赤魔道士が使う〈空蝉幻影〉と同じで、自身の安全を担保するための魔法だ。
「このまま駆け抜けさせては……もらえないみたいっす!」
「だろうな!」
『フルバウンド』とやり合っている間はただただ嗤っていただけのヴォーダン王だったが、今やその悪意と害意は明確なものとなっており、三日月に歪んだ口元はそのままに放たれるそれが、俺達を警戒させ緊張させるに十分な圧力となって放たれていた。
その気配を敏感に察知したマリナが、殺意も十分に黒刀を正眼に構える。
「どいてよ、王様」
「…… ……」
囁くような言葉は聞き取れないが、どうやらこちらの言葉は通じているらしい。
そして、言葉こそわからなかったがその返事が「NO」であることは、雰囲気でわかった。
ぬるりとした滑らかな動きで立ち上がったヴォーダン王が、穂先の鋭い槍を構える。
ただものでない、ということを肌で理解した俺は心の中で小さく舌打ちした。
しくじった、と。
俺達はルーセント達に『フルバウンド』を足止めしてもらったつもりになっていたが、状況的には逆だ。
『フルバウンド』を使ってAランクパーティを二つも足止めさせられた、という事実。
……迷宮の最奥、玉座に在るこの『王』は、おそらく迷宮主なのだ。
高難易度迷宮の大ボスともなれば、その力は未知数ではあっても低く見積もることはできない。
それなりの修羅場をくぐってきたとはいえ、俺達『クローバー』はまだまだ経験の浅いCランクパーティなのだ。
これを相手をするには、些か力不足が否めない。
「ユークさん、大丈夫です」
「うん。ボクも、みんなも、ちゃんと……わかってる」
シルクとレインが、顔をヴォーダン王に向けたまま、焦る俺への言葉を口にする。
「アタシ達が未熟で、ユークの足を引っ張るかも……なんて、わかってる! でも、ごめん。ここは退けないッ!」
『魔剣士』特有の殺意がこもった魔力を纏わせながら、マリナが吼える。
ああ、まったく! 俺ってやつはまた彼女たちを見誤っていた。
そんな事を口にさせてしまうなんて、相変わらずリーダー向きではない。
腰から蒼い細剣と真銀の小剣を抜きながら、小さく息を吐きだす。
「無茶さえしなきゃ、いいさ。サポートは任せろ」
「ありがと、ユーク! 愛してる! じゃ、いくよ……ッ!」
マリナがその場から掻き消えるようにして王に踏み込む。
なんて速さだ、などと驚いている暇はない。
その切っ先がさらに鋭くなるように〈必殺剣〉の魔法を付与する。
耳に響く金属音が響き、マリナが一歩下がる。
「くッ……!」
俺の付与を乗せたマリナが、正面から力負けするなんて。
信じられないという気持ちを瞬きの間に切り替えて、次なる手を打つ。
すなわち、俺のもう一つの得意分野……弱体魔法だ。
「〈麻痺〉、〈鈍遅〉、〈目眩まし〉、〈猛毒〉、〈綻び〉、〈重力〉!」
無詠唱の為に発動待機をかけておいた弱体魔法を連続で放つ。
奇妙な手応えと抵抗感を感じるが、完全に抵抗されたわけではない。
なにせ、小物の俺らしく小細工を施したからな。
「ユーク、それ……!」
「大丈夫だ。そう長くは効果が持たないぞ、畳みかけろ!」
俺の頬の痣から滴る血。
それを見たレインが心配げな声をあげるが、こうなるのは予測済みだ。
〝青白き不死者王〟の力を借りるのは少しばかり気が重いが……俺に下賜された暗黒の呪いと祝福は、俺の力によく馴染む。
ただ、負担は大きいようだが。
「マリナ! 右へ飛んで!」
「うん!」
シルクに従ってマリナが颯爽とステップを踏む。
通った射線に連続して矢を打ち込みながら、ビブリオンの予測を風の精霊で共有するシルク。
「むッ……」
ヴォーダン王の鋭い槍の一撃がマリナをかすめるように空ぶる。
弱体魔法が効いている証左か、先ほどよりも精彩を欠くものだが、マリナが攻勢に出るにはまだ少しばかり隙が足りない。
「マリナさん、私が隙を作るっす!」
弱体魔法の効いている現状を好機と見たネネが、牽制とは思えない鋭い一撃……いや、手裏剣も併せて三撃をヴォーダン王へ連続で浴びせる。
「まだっす!」
飛び退りながら、〈火遁の術〉を発動するネネ。
突然の魔法攻撃にさすがのヴォーダン王も一瞬の隙を見せる。
「……殺るッ」
その隙を見逃すマリナではなかった。
すっかり意識を逸らされ、がら空きとなったヴォーダン王の右側に鋭く踏み込んだマリナが黒を纏った一陣の風となる。
「…… ……! ……ッ」
大きく胴部を裂かれたヴォーダン王が、身をよじりながら悲鳴じみた囁きを漏らす。
その傷跡からは俺達と同じ赤い血が吹き出して床を染めゆくが、もはやそれに動じるマリナ達ではなかった。
「とどめ、行く、よ?」
ヴォーダン王の左右に在ったマリナとネネが、レインの声に反応して飛び退る。
ここまでの全てが、レインから目を逸らさせるための牽制だったと、迷宮主は気が付いただろうか?
気付いたところでいまさら遅いが。
小さな声で囁くように行われたレインの詠唱が完成し、複雑多重な魔法式が空中に投影される。
赤魔道士の俺では、いや、多くの魔術師だってたどり着けない境地の一つ、第七階梯魔法。
それが、いまレインのコントロール下にある。
杖を掲げたレインが狂った王を見つめ、その魔法の名を告げる。
「──〈真炎〉」
次の瞬間、ヴォーダン王が小型の太陽に飲み込まれた。
いかがでしたでしょうか('ω')
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