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名無しさん、世界観を逝く  作者: 物ノ名 かり
ケース1.戦闘少年A
1/5

1-1.どうせ生きて死ぬだけの命だろう?

 灰色だ。

 人は燃えると灰になる。

 白でも黒でもない色に。


 そこから白と黒とを取り出して、僕と私と私達は、色にする。


 今日は誰を燃やそうか。

 何色がよく採れるだろう?


 世界を彩るためならば、たとえその・・身燃え尽きようとも構わない。


/*/


ケース1:気にいらないから負けたくない、戦闘少年Aの場合


/*/


 世界だけがある。

 そんな印象だった。


「な──……」


 赤茶けた大地。遮る物のない視界。空。

 俺はそこにいた。

 俺はここ・・にいた。


「ん、じゃ、ここはァ!?」


 キレる。

 言葉が切れる。俺も、切れていた。

 なんじゃここは。


『ようこそ世界へ、歓迎するよ』


 反響エコーの掛かった声が、反響の掛かりようがない場所で聞こえてくる。

 キンキンとしたデジタルくささが鼻につく、女性型の合成音声だ。

 わざとらしい。

 微妙に音域を不自然な高低で揺らしていて、特定個人を感じさせてこない。

 頭の中の声、って奴か。


『だったらどうだって言うんだ、お偉いさんよ』

『おっと直接通話を使いこなすね、それも高度にニュアンスを込めてくると来た!』


 怒り、苛立ちを、声色を出す時以上に色濃く乗せたら反応が良い。

 口調の軽さから読み取れる称賛と侮り、それよりも諦めが遥かに大きく、関心の無さが更に大きい。

 適当に選ばれた、ってところか……。


 落胆と同時に自然体を取る。

 両腕をだらりと下げ、全身で脱力。重力に抗うための、最低限の体幹の筋肉を意識しつつも、全関節は強張りを抜いて。

 警戒しながらに、警戒を解いた。


『すごいね』


 今度は単純な称賛。裏表がない。


『何がだ』


 反駁しながら、気づく。


 俺は何故・・・・この構えを取った・・・・・・・・


 赤茶けた大地。遮る物のない視界。空。

 世界だけがある。

 同じだ。俺もまた、俺だけがある・・・・・・


 脂質の薄い筋肉質。五体満足、髪は立つほどに短い。

 裸足で立って、裸で立って。

 俺しかない。


 見渡す限り、俺しかない。


『……記憶をどうにかしやがったな?!』

『ご明察。使わせてもらいました』


 頭は冷静に、だが込める感情は強く。

 少しでも相手を揺さぶれれば御の字だ。だが期待はしちゃいない。

 人様の頭の中身をどうこうしようって倫理観の輩が、怒鳴られて動揺する程度のメンタルの持ち主であるはずがない。


 怒りを装った自分自身の思考に引きずられないよう、次からは無駄な試みはするまいと反省しつつ、気づきの内容を整理する。

 気づいた内容も、ついでにその理由も明白だった。

 行き当たらなかったのだ。

 見渡す限り、今の俺しかない。

 過去がない。

 それで何故他人との会話が成り立つのか、行動を選べるのか、俺にも不思議でならないが、そういうものなのだろう。

 何も出来ない廃人を量産して投げ出す意味は、何をするにつけても薄そうだからな。


『ガイダンス。先に行こう』


 その声と同時に、緩く、チリリとうなじに寒気が走る。

 声に冷たい殺気が混じっていたからでも、非人間的な響きをそこに見出したからでもなく。

 微細な空気の揺れ、意識して拾えないほど小さな音、匂い、そういった無意識下の情報を、意識化した結果だ。

 咄嗟に取った自然体が、そのためのトリガーを引くルーティンを形作っていたらしい。


 遮蔽物はない。だから身を隠せない。長距離を走ろうにも、素足で小石小枝の転がる荒野を踏破は出来ない。

 手が反射的に空を撫で、言葉が口を走り、思考は空間を叩いた。


「ウィンドウオープン!」

『あー、そういうの、うち、やってないんだよね』


 試した全てが空振りする。

 カウンターに頬杖でも突いていそうな、無責任な物言いの合いの手が気に障った。

 人差し指と中指を鋭く揃え、毛髪の根付近を後頭部からなぞりあげる。


「グッ、ダメか……!」

『今のは能力の確認かい? すごいね、人の話を聞かないのもすごいけど、自分の髪を剃り落として靴か靴下を作ろうとしたのか。

 いやいや流石だよ。何が、とは言わないけど、流石だ』

『俺の知らない俺の記憶でほざいてんじゃねえ!!』


 肉眼でも地平線ににじみ・・・が見え始めた。木々のない岩地のくせに、湿度だけは一丁前にあるらしい。空気の透明度がそこまで高くない。

 にじみは徐々に大きくなっている。


 頭を巡らし、にじみとは正反対の方角を確かめた。


 よし、ない。

 にじみがない。


『御託は歩きながら聞かせてもらう』

『君、偉そうだよね、ほんと。頭を巡らすより前に、垂れて僕に助けを乞おうとか、思わないのかな』

『そうしない理由こそ、あんたが俺より良く知っているんだろうさ』

『はいはい、分かりましたよ』


 踵を返すと、ペタペタと裸足で俺は歩き始めた。

 低く、足底を滑らせるように地面にこすらせ、障害物がないのを肌で確かめながら、目視でも緩く視線の角度を下に落としてチェック。

 今は早歩きしか出来ていないが、これで十分だろう。


 歩く相対速度が間に合わなければ死ぬだけで。

 踏み出す先をしくじったところで、死ぬだけだ。

数回分は書き溜めてあるので、その分だけは毎日更新いたします。

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