同好会メンバー、全員集合!
◇
週開けいよいよ文化部の活動が始まりました。
放課後、私と夏香ちゃんは旧校舎棟へと向かっています。
教室のある新校舎から渡り廊下を通り抜ければ、そこは昭和レトロな空間です。
授業で使われることのない旧校舎は普段は静かですが、放課後は一転。廊下は大勢の生徒たちで溢れ、文化部や様々な同好会の活動の場へと変わります。
放課後、一階から三階までの各教室では大小さまざまな文化部や同好会の活動が始まります。
先日は閑散としていた新聞部や文芸部にも、沢山の生徒たちの姿が見えました。歓迎会をやっているらしく、廊下まで賑やかな声が聞こえてきます。
『クラフト研究会 ~いっしょに可愛い小物を作りませんか?』
『エアギター同好会 ~心のギターを弾け!~』
『短歌倶楽部 ~目指そう短歌甲子園~』
「おや? こんな同好会もあったんだね」
「先日は無かったのに、日替わり?」
夏香ちゃんが私の両肩に手を乗せて立ち止まります。
「そういえば聞いたことがあるわ。週に一日だけ開く部活もあるって」
「なんですってー!?」
「レアな部活?」
「幻の部活……」
綺麗に装飾された入り口や看板は、まだ勧誘が続いている部活です。
同好会は「掛け持ち」が許可されているので、まだまだ入部希望者を受け入れます、という事ですね。
エアギターやっている教室ではスマートフォンから音楽を流し、ギュィンギュィンと見えないギターを操っている先輩たちが見えました。
なんだかすごい世界です。
「おぉ、楽しそう……!」
「夏香ちゃんにピッタリかも?」
「おぅよ!」
廊下の外で、夏香ちゃんもちょっとノリノリで跳ねています。揺れ動くツインテールが可愛いなぁ。
私も髪を伸ばしてみようかしら……いえ、なんでもないです。どうせ地味な顔には似合わないので。
「それにしても旧校舎はずいぶん賑やかだね」
「文化部の巣窟だものね!」
「巣窟って……悪の組織がいる場所のことだよね」
「えっと、魔窟?」
「もっと悪くなった!?」
「ごめんハルちゃん、楽園の間違い」
「間違いすぎだよぅ」
二人でけらけらと笑いながら、一階にある出入り口から中庭へ。
外履きに履き替え外へ出ます。
そこは確かに楽園のような光景が広がっていました。
中庭は満開のリンゴの木をはじめとした「ミニ果樹園」を中心に、花畑のようになっていました。
水仙やたんぽぽがあちこちで花開き、午後の明るい日差しの中で輝いています。
リンゴの花は白く、一見すると桜と梅の中間のような咲き方をします。
花が十輪ぐらいの塊になって、枝ごとにポツポツと控えめな感じに咲くのです。
甘い香りに囲まれた中央には、テーブルが置いてありました。まわりに椅子がぐるりと置かれ、白いクロスが掛けられたテーブルの上には色鮮やかなビンが置かれています。きっと果樹のシロップ漬けでしょう。
椅子に座っている女の子が一人、その横では先輩が二人。わたしたちを見て手招きしています。
「まってたよ、こっちこっちー!」
「稲穂先輩……!」
黒髪ロングヘアで遠目にもわかります。
「いこうハルちゃん」
「うんっ」
稲穂先輩のもとへと小走りで近づきます。背が高くてきりりとした顔の美人さんです。
「遥さんに夏香さん、今日はお花見……! 歓迎会だよ」
「ありがとうございます!」
「よろしくおねがいします!」
ぺこりと頭を下げます。となりにいる方が部長さんでしょうか。
「で、こっちが部長の……」
「部長の麗といいます。よろしくね」
稲穂先輩が紹介してくれたのは、メガネをかけたお姉さんでした。ややウェーブした長い髪、まなじりの下がった目元。
包み込むような優しい笑顔は大人の雰囲気で、包容感があります。たとえるならば保母さんのような柔らかさ。ふわっ……とした優しい印象の先輩です。
「「は、はいっ……!」」
制服の上にエプロンをつけています。コップを運んでいたようで机にコップを置きました。
部長さんは確か三年生だったはず。けれど背丈は私たちとあまり変わらない感じです。
と、その時です。
ぷーんと、小さな羽虫が私たちのほうへと向かって飛んできました。
「――ふッ!」
「っ!?」
「えっ!」
それは、目にも留まらぬ早業でした。
麗先輩が瞬時に「裏拳」で払い除け、羽虫は何処かへと飛んでいってしまいました。
「まだ刺すような虫はいないと思うけれど、嫌よね……虫」
にっこりとメガネを光らせて微笑みます。
――早い……!
――この人、出来る……!
私と夏香ちゃんは笑顔のまま、一瞬だけ視線を交わらせて会話します。うらら先輩は、おっとりしているようで実は最強、というタイプと見ました。
「わ、わたし田舎育ちなので虫は平気ですっ!」
「わわ……、わたしも平気なほうです」
夏花ちゃんに倣って私もなぜか平気宣言。平気でもないですけど。
次に紹介してくれたのはもうひとりの二年生の先輩でした。
「あの子が、ムギね。私の同級生」
「おーっす! きみたちっスねー? 可愛いっ!」
プレハブの部室から出てきたのは、ショートカットの先輩でした。ボーイッシュな感じの全身からエネルギーが溢れているような感じです。
手に持ったペットボトルをひょいっ……と一回転。
「「よろしくおねがいします」」
「固くならなくていいってー。気楽にいこ、気楽にー」
陸上部やラクロス部にいそうな感じの先輩ですが、何故にフルーツ同好会なのでしょう。きっと何か深い事情が……。っと詮索はやめましょう。
「そんでもって、同じ一年の」
最後に稲穂先輩は、椅子に座っていた女子生徒の背後にまわり、優しく肩に手をかけました。
「……晶です。」
テーブルにちょこんと座っていた子が立ち上がりました。
そばかすがちょっと残る、大人しい感じの子です。短めの髪を後ろでぴっと一つに結わえています。短いのでバードテールという髪型ですね。
「アキラさんって、B組だよね? わたし夏香」
「こんにちは、わたしは遥」
「……よろしくです」
手元には何かの本があります。ちらっと見えたのは果樹育成について、という本でした。静かにやる気を見せている感じですね、負けられません。
でもこれで『フルーツ同好会』の全員が揃ったわけです。
部長は三年生の麗さん。
おっとりした優しい感じ。
副部長の二年生、私たちをこの同好会に誘った稲穂さん。
クールビューティなのにちょっとお茶目な先輩です。
同じく二年生の、麦先輩は元気。
その場にいるだけで元気をもらえちゃう感じです。
そして、一年生の、晶さん。
おとなしい感じだけれど、どこかミステリアス(?)
これから仲良くなれるといいな。
「みんな揃ったわね。じゃぁ歓迎会という名のお花見を……はじめましょう!」
うららかな午後の日差しの中、満開に花開くリンゴの樹の下で、歓迎会が始まりました。
<つづく>