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恋と愛

作者: 秋葉 達

 『恋』と『愛』の違いはなにか。そんなことをふと考えていた。

 昔なにかのテレビ番組で出演者が同じテーマで話していて、当時中学生だった私たちのクラスでも話題に上がったのを覚えている。

 恋は貰うもので、愛は与えるもの。恋は儚く、愛は尊い。

 今にして思えば、恋だの愛だのと騒ぎたかっただけなんだけど、それでもその時なりに真剣に考えていた。


 私はたぶん、この人を愛しているのだろう。


 同じソファーに座り、同じテレビを見て笑っている。食後のデザートにと作ってみた南瓜のアイスの味はいまいちで、だけどそれすらも明日には幸せな思い出に変わっていくんだと思う。

 バラエティ番組がコマーシャルに変わり、洗剤をモチーフにしたゆるキャラが、テレビの画面に映し出される。

「ねぇ、恋と愛の違いってなんだと思う?」

 テレビから視線を外さないまま、隣に座る旦那に話しかける。

「なにそれ、なんかの心理テスト?」

「違うよ、さっきSNSで見たの」

「うーん。なんだろうねー」

 アイスを口に含みながら唸る旦那を横目に、自分もアイスを口に運ぶ。やっぱりいまいちだ。

「恋は一時的な感情で、愛は永遠を約束するもの……とか?」

 旦那の声に釣られて顔を向けると、真っすぐと私を見つめていた。見慣れた優しい目をしているその顔は、赤らんでいるようにも見える。左手の薬指には、私のとお揃いの指輪が光る。

「ふふ、そういえばそうだね。結婚式の時によく言うもんねー。あなたは愛することを誓いますかって」

「ヤメルトキモー、スコヤカナルトキモー」

 カタコトの言葉でそう言った旦那に「誰の真似なの」と笑いながら答える。

「あ、じゃあ、私のどこを愛してる?」

「いきなりどうしたの」と旦那は笑う。

「永遠を誓ったんだから、それぐらいポンと言えるでしょ」

「永遠を誓ったんだから、言わなくてもわかるでしょ」

 そう言って私の頭を撫でて、アイスが入ってたお皿を片付けに行く。肝心なことは、いつも言葉にしてくれない。いつも誤魔化して、はぐらかして、けれども今はその態度で、私を愛していてくれてるんだと伝わってくる。

「お風呂、先に入るねー」

 頭の後ろから聞こえる声に、左手だけで答える。

 恋は一時的な感情で、愛は永遠を約束するもの。さっきの言葉が頭を反芻した。

 結婚式の誓いの言葉、正確にはなんて言うんだっけ。

 テーブルに置いてあったスマートフォンを手に取り、誓いの言葉について調べてみる。

『病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?』

 心の中でゆっくりと文章を読む。これは契約だ。どんな時でも、この言葉で鎖のように縛られて、死ぬまで離れてはいけないという契約。

 愛は契約によって成立する。私はいつから、あの人を愛していたのだろう。

 手に持ったスマートフォンが震え、そこにメッセージが届いたことを知らせてくれる。

『昨日はありがとうございました! 次はいつ会えますか?』

 可愛いスタンプと共に送られてきたメッセージに思わず顔がほころび、体を丸めてソファーに横たわる。

 『週末空いてる? 映画でも観に行こうか』

 鎖のついていない右手でメッセージを送信する。

 恋と愛の違いはわからないけれど、確かに私は、彼を恋しく想う。

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