第二巻 〜戦う者〜
〜序章〜
今日は誰かが死ぬ予感がした。
目の前にいるのは5匹のスローター
全員爪を光らせ、喉を震わせ、血に飢えた表情をさらに極悪なものとしている。
次の瞬間、スローター達が一斉に僕らに襲い掛かった
皆が応戦している中、僕は1歩出遅れてスローターの下敷きになった。
スローターが勝ち誇ったように吠え、高々と鋭い爪の生えた手を上げた。
するとその手を一気に振り下ろそうとする
今日は誰かが死ぬ予感がした。
第1章〜これから〜
僕らはいま正門が見える窓に近くにいる。
なぜなら屋上に向かおうとしたときに斉木が
「これに生き残っても生き残らなくても、俺らに得なんかねぇじゃねぇか。
なんでわざわざ従わないといけないんだよ。それに学校から逃げ出せばこんなもん、どうにでもなるだろ?」
と言った
その話を聞いたときみんな
「それもそうだよな・・・」
と思って正門に向かって足を進めたからだ。
しかしいくまでもなかった。
正門はスローター達によって完全に包囲されていたのだ。
(このスローターとはおかしくなってしまった奴らの名称で田辺が考えた。どうやらスローターとは「虐殺者」と言う意味らしく、奴らにはちょうどいいだろうと僕らはそう呼ぶことにした)
「お・・・おい、どうするんだよ・・・」
田辺が言った
「全然だめじゃねぇか。誰だよこんな事考えたやつ」
名屋も言う。
すると斉木が名屋に怒声を浴びせた
「うるせぇ!!俺はあくまで可能性を言ったんだ!!何にも考えてねぇてめぇにそんなこと言われる筋合いはねぇ!!」
するとまたしても名屋が
「なんだとぉ!!」
と言いかえした。
僕と加賀と田辺があたふたしているなか、
「喧嘩したって何も変わらないだろ。そんなことしてる暇があったら、これからどうするか考えたほうがいいと思うがな」
久杉がたしなめるように言った
(なんて頼りになるやつなんだ!!)
すると名屋と斉木もこれ以上は無駄だと分かったのか、いい争いをやめた。
そしてさらに久杉が言った。
「さて、これからどうするか。外に出て、奴らと戦って外に出るか?でもその場合、もしも奴らに勝てても外に出れると言う保証が無いことが厄介だ。かといってこのまま屋上にいっても同じことになるだろうし・・・でも屋上に行って太った男たちから話が聞ければ確実に帰れる」
皆が考えている中
「ちょちょちょ・・・ちょっといいかな?」
と田辺が言った
「あのさ、このテストに合格できたとしても奴ら、雑用とか殺しとか色々な仕事をさせるんだろ?そのこと皆忘れてない?」
「あっ」
と、みんながポカーンとする。
「・・・」
何秒か皆黙った。
と、久杉が口を開いた
「で・・・でも、とりあえずこの状況を打開しないと意味が無い。その後どうなるかは分からないけどさ・・・。でもまず・・・まず奴らに話を聞いてみないか?」
皆難しい顔で考え込んだ。
この問題にはかなり時間が掛かったが、みんなそれしかないと考えが一致した
「じゃぁとりあえずは屋上に向かおう」
久杉がいった
第2章〜武器〜
屋上に向かうと決めた僕らはまず、武器になるようなものを集めた。
(幸いスローター達はまだ校内には入っておらず自由に動けた)
みんな家庭科室にあった包丁と投げられそうなフォークは持っていたが、それだけじゃ心細い。
なので、僕らはスローター達が入ってくるまでは別行動とし、各自武器になるようなものを集めることになった。
僕はとりあえず一階を探し回った。
一階には1年生の教室と武道館、体育館、保健室など使えそうなものがありそうなところが沢山あるからだ。
まず武道館で剣道部の竹刀を頂戴し、体育館では盾になりそうな板、保健室では治療に役立ちそうな薬を持っていった。
そのとき「ガシャーン」と後ろで窓ガラスの割れる音がした。
後ろを振り返ってみると
スローターが2,3匹、校内に入ってきているのが分かった。
僕は見つからないうちにそそくさと集合場所にしていた家庭科室に向かった。
家庭科室に行くと、もうすでに名屋と斉木と田辺がいた。
それぞれありとあらゆるものを持ってきていて、全員一致して持ってきてるものと言えば保健室の薬くらいで、ほかは全部バラバラだった。
と、田辺が
「久杉と加賀は遅いな」
といった
斉木と僕も
「どうしたんだろう?」
と首をかしげた。
そんな中、たった一人、名屋は何も言わず、ただただ皆が持ってきた武器を見つめるのであった。
第3章〜自分の能力〜
久杉と加賀を僕らはひたすら待った
なぜか時計が止まっているため正確な時間は分からないが
10分〜15分は待った気がする
そんなときだった
「ガラガラバシーン」
突然、家庭科室のドアが開いた。
見るとそこには久杉がたっていた。
相当焦って走ってきたらしく息をゼェーゼェーと切らしながら、苦しそうな声で言った
「みんな!!早く!!早く来てくれ!!加賀が!!加賀が!!」
皆何事かと思い、急いで持ってきた武器を手に取り久杉についていった。
久杉について行っている途中、僕の頭ではいろんな思いがまざっていた
(加賀にいったいなにがあったんだ?久杉の様子からして相当なことだ!!まさか・・・まさか!!)
最悪の状況はなるべく考えずにいたが、それでなかったらいったい何が起きたと言うのだろう!!
心の奥底ではなんとなく予想はついたが、そうでないように必死に祈り続けた。
しかし・・・その祈りは通じなかった。
久杉に連れて行かれた先は一階の廊下だった
そこでは加賀が5匹のスローター達に襲われていてたくさん怪我をしていた。
どの傷も命にかかわるような傷ではないが痛々しく真っ赤な血を流していた
それを見るや否や、久杉と名屋と斉木と田辺は
「加賀!!」
と叫びながら何の躊躇も無く加賀の元へ走っていった。
皆がスローターと戦う中、僕一人は恐怖に打ちのめされ動けずにいた
心の奥では動いて戦わないといけないと分かっているのに、体が動いてくれない
きっと頭が恐怖のあまり麻痺しているのだ。
そんな時、目の前に斉木が飛んできた。
胸に爪で切り裂かれた大きな傷があった。
かなり深く切れている、このままでは大量出血で死んでしまうだろう。
他の皆はスローターと戦うので必死だった。
今ココで僕が斉木を治療しなければ間違いなく斉木は死んでしまう。
でもまだ僕は動けなかった
(怖い怖い怖い・・・)
そんな思いだけが頭の中を渦巻いた
そのとき
「津式!!」
と田辺がぼくの名前を叫んだ
と、次は優しい声で
「斉木を・・・頼んだぞ」
その一言で僕は吹っ切れた
目の前にいる斉木の胸に手を当て、保健室から持ってきた薬や包帯で治療していく。
自分でもナゼそんなに手儀は良く治療できたのか分からなかったが
とりあえず心の声に従い治療を続けた。
すると斉木は
「お・・・おぉ!!すごい!!痛みが・・・痛みがひいてくる!!津式・・・お前はいったい何者なんだ?」
といった
僕は斉木にニッコリ微笑んで自分でも分からない力に身をまかせ、着々と治療を続けた。
第4章〜戦況〜
斉木の治療も終わり、
すでに吹っ切れていた僕は皆と同じようにスローターとの戦闘に向かった
『ここからが本番だ!』」
と、覚悟を決めて戦況を確かめた
名屋は小柄なスローターと互角に戦っていて、爪の攻撃は持っているタイルで防ぎ、
隙を見つけたら包丁で切りかかると言った形で戦っていた。
久杉は人並みの大きさのスローターと戦っていた。彼も盾のタイルと何処から持ってきたのか日本刀のような刀をたくみに操り、応戦していた。戦況は久杉に有利と見える。
この2人はなぜか戦いなれしているような戦い方をしていた。
次は加賀と田辺だ。
彼らはコンビで戦っていて
加賀は大柄な体を武器とし、スローター3匹の注意を引き寄せていた。
その隙に田辺が家庭科室にあったフォークやナイフを投げつけスローター達にダメージを負わせていた。しかし流石に3匹は荷が重すぎた。
ナイフを投げつける田辺の隙をみていっきに1匹のスローターが加賀に襲い掛かった!!。
僕は咄嗟に
『加賀と田辺たちの援護をしよう』
とおもい彼らの元へと走っていった
僕は加賀と襲い掛かったスローターとの間に入った。
そして
「2匹なら何とかなるか?」
と田辺と加賀に聞いた。
加賀と田辺は
「勿論さ!!」
と答えた。
とりあえず僕はスローターを加賀と田辺から離れた場所に誘導し戦うことにした。
(ここでは加賀の邪魔になってしまう!!)
まず右手に握っていた竹刀で思いっきりスローターを叩き注意を引く
そして3歩くらい右に避け、数歩バックした
『ココなら田辺と加賀の邪魔にならないだろう』
と思った場所で足をとめ
スローターに向き直った。
第5章〜初めての戦闘〜
スローターは僕のほうを向きながら低くうなった。
と、同時に勢いよく僕に飛び掛ってきた
僕はそれを何とか避け持っていたナイフをスローターに思いっきり突き出した!!
それは運よくスローターの足にあたり、深い傷を負わせた。
ところがあろうことかスローターは嬉しそうにけたたましく吠えた
どうやら僕を出来る相手と分かり喜んでいるようだ。
そしてさらにスローターは走って僕のほうへやってきた。
僕はさっき命中して、傷を負っているほうの足に狙いを定めた。
スローターが鋭い爪の生えた手を思いっきり振り下ろす。
僕は避けようとしたが完全には避けきれず腰の辺りにかすった。
かすっただけと言えど、あのとても鋭い爪が僕の肉を切り裂いたのだ、
痛く無いわけがなかった。ぼくは思わずうっとなった。
でも動きを止めてはスローターの思う壺だ。僕は痛みをぐっとこらえ次の攻撃に備えた。
スローターはさらに僕に飛び掛ろうとする。ぼくは竹刀を構えた。スローターが一瞬動きを止めた。かと思うと突然スピードを上げた。
僕はそのスピードについていけず完全に隙だらけだった。その隙をスローター見逃すわけもなく僕に向けて思いっきり攻撃を仕掛けた
そしてなんと僕の背中を思いっきり爪で切り裂いたのだ。
あまりの痛さに僕はもがいた。
それに気づいた田辺が
「津式!!」
と叫んだが僕は
「大丈夫だ!!お前はそっちの戦いに集中しろ!!」
と言い返した
本当は助けに来て欲しかったがそんなことをしては、ろくに武器を集められなかった加賀がやられてしまう
ぼくは背中の傷の痛みに何とか耐え、立ち上がった。
それを見たスローターはまた僕に向かってきた。
僕は目を閉じ心を落ち着かせた。
そして一気にナイフを振り下ろした!!
運悪くナイフは宙を切ったが思わぬ反撃に動揺したスローターに隙が出来た。
すかさず僕はナイフを力強く怪我をしている足に突き刺した!!
スローターはかん高い声を上げた。
なんと僕のナイフがスローターの足を、ももから完全に切断したのだ!!
スローターのももからすさまじい量の血が飛び出る!!
僕はそれを見て心底ビビッたがそんなこと言ってる暇はない
早く止めを刺さなければまたいつ襲ってくるか分からない
でもぼくはとどめを刺すのをためらった。
いくらスローターが極悪な殺人鬼とはいえひとつの命を奪うことに変わりは無い。
そんなこと僕には出来るわけもなかった。
第一僕がとどめを刺さなくとも大量出血で死ぬかもしれないではないか!!
だがそれを見ていた田辺が戦いながら言った
「津式!!早くそいつにとどめを刺してやれ!!確かにその傷じゃもうそいつは死んでしまうだろう!!でもそれはこの上ない苦痛を伴うんだぞ!!苦しいのは分かる!!怖いのも分かる!!だが・・・早く楽にしてやったらどうだ!!」
ぼくはどうしていいかわからなかったが、結局とどめを刺すことにした。
命を奪うのは気が引けたがこのスローターのことを考えたらその方がいいかもしれない。
僕は心を決めいっきにナイフをスローターの胸へと押しこんだ!!
そして一気に引き抜く!!
スローターの胸からそれはもう大量の血がふきだした!!
そしてかっと目を見開き最後の息を吐き・・・
スローターは動かなくなった。
第6章〜仲間の死〜
僕が1匹のスローターを倒したのを見て
久杉が戦っていたスローターが他のスローターに向けて大きく吠えた
するとスローター達は一斉に後ろへとジャンプし僕らの数メートル後ろでかたまった
どうやら一斉攻撃を仕掛けるらしい!!
すると久杉が
「さ〜て!!どうしたものかな!!一斉攻撃となると、とりあえずはこっちの方が数が多いから優勢だが、一人一人の戦闘能力で比べると相手のが有利だな!!」
と言った
本当に、戦いなれした口ぶりだ!!
そしてまたしても久杉が
「皆よ〜く聞け!!こうなったらこの一斉攻撃は受けてたつしかない。とりあえず武器の少ない加賀と戦闘能力の低い田辺は下がらせるとして、後の4人は単純に計算して1人1匹になるわけだが・・・おまえら大丈夫か?」
名屋は
「もちろん!!」
と答え
斉木は
「いうまでもないだろ」
といった
なので僕も
「もちろんさ」
と答えた
久杉は皆にニッコリ笑いかけるとスローター達のほうを向いた。
いよいよ決着のときだ!!
しばらく沈黙が続いた
1秒1秒がいように長く感じる
と、次の瞬間スローター達が一気に吠え一斉に飛び掛ってきた
僕は攻撃に備えるために左足を一歩引いた
すると足が何かに当たった
さっき倒したスローターの足だ!!
その足にすっかり気をとられていた僕は
襲い掛かってくるスローターにあっという間に下敷きにされた!!
そしてスローターが勝ち誇ったこえでほえた。
そして僕に止めを刺すべく手を振りかざす
そしてものすごいスピードで振り下ろす。
このとき僕は自分の最後を悟った。
僕はきつく目を閉じ
早すぎる死を受け入れるべく静かに心を落ち着かせた
「グシャ」
耳を覆いたくなるようなものすごい音がした
「・・・僕は死んだんだ」
自分に言い聞かせた
しかしココで僕はおかしなことに気がついた
なんと痛みが全く無いのだ!!
そのとき僕の顔に小さなしずくのようなものが垂れてきた
僕は目を開けた
するとソコには信じられない・・・いいや、信じたくない光景が広がっていた
なんと僕を襲ったスローターの爪が田辺の胸に突き刺さっていたのだ!!
僕は慌てて
「田辺!!」
と叫んだ
その声に気づいた皆が駆け寄ってきた
(どうやら皆はそれぞれのスローターを倒したらしい)
田辺の胸にはスローターの手が丸々突き刺さっている
時間が止まって思えた
と、そのときだった
スローターが田辺の胸に突き刺さった手を一気に引き抜いた!!
田辺がドサッと倒れる
田辺を殺したスローターは周りの仲間の死骸を見て勝ち目が無いと悟ったのか
その場から立ち去っていった。
僕はまた、田辺の手を握り締めながら声をかけた
「た・・・田辺?」
返事は無い
「お・・・オイ返事位したらどうなんだ?」
すると田辺が口を開いた!!
「う・・・うるせぇ・・・なぁ・・・」
消え入りそうな声で言った
「なんで・・・なんで僕なんか助けたんだ!!」
僕が訳も分からず聞いた
「友達を・・・助けるのに・・・理由が・・・いるのか・・・」
田辺が血を吐きながら言った
僕の目から涙がこぼれる
「ば・・・バカじゃないのかお前!!そんな・・・そんなことのために命捨てるなんて・・・ホントバカだよ!!」
涙が止まらない
「ほんと・・・バカだよな・・・たぶん・・・俺は・・・お前のこと・・・相当・・・大事に思ってたんだろうな・・・」
田辺の一言一言が胸に刺さる
もう僕は声も出なかった
すると田辺が力を振り絞り最後の言葉を静に言った
「み・・・みんな・・・いままで・・・たのし・・・かっ・・・た・・・ぞ・・・」
田辺の口から、胸から、大量の血が出た
握ってた田辺の手がガクッと倒れる
みんなむせび泣いた
もう泣くしかなかった
あまりの悲しさに皆震えている
「田辺〜!!」
隣にいた斉木が絶叫する
田辺は死んだ
僕の腕の中で・・・静かに息を引き取った。
第7章〜覚悟〜
田辺が死んでから
僕らは何時間か口を聞けなかった
仲間が死んだあまりの悲しさと、ショックのあまり口を聞けるものなど1人としていなかった
『田辺は僕を守るために死んだ』
そう僕は自分で自分を攻め続けた
そして数分がたったあと名屋が口を開いた
「田辺は・・・堂々と死んだ。仲間を守るために・・・。今ココで俺らが立ち止まってちゃアイツが悲しむ・・・、ちゃんと前を見て・・・行こう・・・。」
皆力なくうなずく
と突然久杉が手をパンッとならしいった
「はいはい悲しむのはそこまで!!これが戦うって言うことだ!!戦いにおいて犠牲はつきものだ。田辺はその犠牲になっただけ!!その犠牲の上に生き残る覚悟があるもののみ生き残れる。ただそれだけだ!!」
『その犠牲になっただけ』
あまりに軽い口調に僕は久杉を怒鳴った
「ふざけんな!!そんな軽く収まるかよ!!田辺はもうここにいないんだぞ!!僕を守るために死んだんだ!!それを・・・それを・・・そんな軽く言うなんて・・・お前は悲しくないのかよ!!」
とその瞬間、僕は久杉に思いっきりはたかれた
僕はあまりの怒りに久杉を殺してやろうとナイフを構えた!!
でも久杉の顔を見たとたんそんな気はどっかへ吹っ飛んだ
泣き後の残る顔に、さらに涙を浮かべて久杉はこういった
「悲しくないわけ無いだろ・・・お前一人が・・・つらい思いしてるように言うんじゃねぇ・・・」
久杉の言葉を聞いて僕は前に進もうと思った
多分皆も同じ気持ちだ。
田辺の分まで、僕らは生きて、前に行かなければならない・・・
第2巻〜戦う者〜END
〜編集者後書き〜
今回の話で、あっけなく田辺が死んでしまいましたね(笑
もともと田辺は実際にこんな心優しいキャラではないので、そのへんはご承知を。
次回から田辺に代わって新しい人物が登場します!