第十一巻 〜同士討ち(後編)〜
序章
もう耐えられない・・・
もう友を失うのは耐えられない!!!
加賀,加賀・・・
もうやめてくれよ!!!
やめてくれ!!!!!!!!!!!!!
第1章〜スコルの怒り〜
名屋の泣き声は空が裂けるかと思うくらい悲痛な叫びだった
聞いているこっちも泣きたくなるくらい名屋の悲しみがひしひしと伝わってくる
そんな時、さっき引っ込んだスコルが屋上の奥の暗闇から出てきた
「まったくうるせ〜なぁ・・・おいカオス!!話は終わったのか?」
荒口は静かにコクッと頷いた
その言葉を聴いたスコルはさもうれしそうに笑みを浮かべながら僕等に声をかけた
「では・・・,さぁ!!そろそろ戦闘開始といこうじゃないか!!!いつまでも泣いてるんじゃねぇぞ,ギリ・・・・」
その時
「その名で俺を呼ぶんじゃねぇ!!!!!」
と,名屋がスコルに突っ込んでいった
しかし,そんな無茶苦茶な攻撃が当たるわけもなくあっさりかわされてしまった
名屋はスコルの後方5メートルくらいのところでドサッと倒れこんだ
僕は『惜しい』と思いながら舌打ちをし,スコルの顔を覗いた
僕は思わずカッと目を見開いた!!!!
なんとそこには必死の形相で名屋をにらみつけるスコルの顔があったのだ!!!!
このスコルの顔はただ事じゃない!!!
なぜだ,なぜこんなにも怒った顔をしている!!!
荒口の顔も見てみると・・・
そこには怒りというよりは驚きのまなざしがスコルに向かってのびていた
その視線をたどり,僕はスコルの足に目をやった
するとなんと!!!!
そこにあるはずのスコルの片足が消滅していた!!!
肉も皮も骨の残骸も一滴の血ですらそこには無かった
僕はまさか!!!
と,思い今度は名屋に目をやった
名屋は床に手をつき,足にゆっくりと力を入れて立ち上がった
そしてスコルのほうを振り返る
僕はその名屋の顔を見て驚いた
そこに,いつものような幼げな顔は無く、代わりに凛とした大人の表情の名屋が立っていた
そして冷ややかにスコルを見つめる
名屋はゆっくりとスコルのほうへ向き直り手を上げて『物質変形』の力を使った
すると何も無いところからスコルの失われた足が出てきた
僕は思わずうっとなり,思わず口をふさいだ
生身の足をこんな形で見るのは初めてだ
僕だけではない,加賀と草羅も同じように口を押さえていた
片足のスコルは依然,名屋を頑としてにらみつけている
そんな空気の中,名屋が口を開いた
「荒口・・・いや,カオス・・・先に礼を言っとくよ。ありがとう。おかげで・・・俺の力はここに戻った!!!!」
荒口は
「お前の力が戻っただと?そんなことした覚えは無いがな・・・」
と,すこしあせった表情を交えながらも落ち着いて答えた
「いや,お前が俺の過去を明かしてくれたおかげだ。俺は今までの記憶がすべて戻った,突然な。俺もどうしてだかわからないがお前の話を聞き終えた後,ふっと記憶が俺の頭を駆け巡った。お前が何かしたんじゃねぇか?」
「いや,俺は何もしてな・・・」
そう荒口が言いかけたとき,それをスコルのとんでもなく怒りの混じった声が遮った
「コノヤロー!!!くそギリア!!!てめぇ!!!なにしやがんだ!!!!!!!」
「なにって・・・敵の大将の足をもぎ取ったまでた」
名屋はいたって冷静に答えた。その際にもスコルに冷たく,冷徹なまでの視線を向けている
スコルはそんな名屋を見てさらに言葉をぶつけた
「おまえ・・・こんなことして,どうなるのか分かっているのか!!!」
名屋は
「さぁな,どうにかできるもんならやってみろよ」
と,答えた
するとスコルは
「お前は・・・俺を・・・なめすぎている・・・」
と,何の感情もこもらない声で言った
すると,僕がまばたきをした瞬間に音もなくスコルは名屋に詰め寄り名屋の頭部に人差し指を押し当てていた
(片足なのに・・・なんて速さだ)
僕は心の中でそうつぶやいた。
名屋は少し驚いた様子だったが
「何をする気か知らないが,指一本じゃ俺は倒せないぞ」
と,スコルに挑発をかけた
それを聞いたスコルはさっきとは変わり,冷静に
「殺す気はない,お前少しは頭を使え。今シャイターンたちはあんたらのおかげで何名か減っている。そこに強大な力思ったものが現れたらすることは一つだろう?」
と,冷ややかに言葉を放った
僕らはその言葉の意味が分からなかった
が,名屋は何かを感じ取ったらしい
瞬時にスコルの指の先から自分の頭部を引き離そうとする
「もう遅い・・・」
スコルがただ一言言った
するとその時!!!
名屋の頭部に押し当てていたスコルの指がとてつもない光を放った!!!!
今まで静かな暗闇だった屋上が光に包まれていき風が吹き荒れる
風と光で目を開けることができない!!!
僕は思わず目を閉じてしまった
第2章〜強大な力〜
数秒間,僕は目を開けられずにいた
それでもすこし,光と風がおさまったところで僕はやっとのことで目を開けることができた
名屋はスコルの足元で倒れていた
「名屋!!!!!」
草羅が叫んだ
そこに加賀が
「落ち着いて,草羅。息をしているよまだ死んでない。気を失ってるだけみたい」
と,優しく声をかけた
草羅は名屋の胸が上下するのを目で確認し冷静さを取り戻した
そして
「ありがとな」
と,加賀にいった
加賀はにこっと笑って向き直った
名屋は依然、スコルの足元で気を失ったままだった
それを見たスコルは
「おい!!!きさま!!!おきねぇか!!!」
と,名屋の腹を思いっきり蹴り飛ばした
一瞬草羅がピクッと反応したがそれ以外は何もしなかった
名屋は
「う・・・」
と,声を漏らした
そしてスコルの前にムクッと立ち上がる
僕らはホッとため息をついた
でもその安心もつかの間だった
僕らは名屋がスコルめがけて力を使うのを見たらすぐにスコルに対して戦闘を開始するつもりだった
が、しかしなんと名屋の攻撃の矛先は僕らに向かったのだ!!!!!
名屋がすばやくこちらに駆け出してくる
僕らはあっけにとられていたがすぐに身の危険を察知して四方に回避した
僕と草羅と加賀は三角形の形になりその中心に名屋がいる
「なにやってるんだよ名屋!!お前の敵は俺らじゃないだろ!!」
草羅が焦りの声で言った
しかし名屋は答えずに一目散に草羅に攻撃を仕掛けた
草羅はそれを何とか交わして力を使おうとした
しかし心の優しい草羅が友に対して力を仕えるわけもなくチャンスを逃してしまった
それは逆に名屋のチャンスとなり名屋は持っていたナイフで草羅の胸を切り裂こうとした
しかし,スコルの吹いた口笛の音を聞きすんでのところでナイフを止めた
スコルはニヤニヤと笑いもう一度今度は短く口笛を鳴らした
「どうなってるんだ?」
僕は思わず言葉を口に出した
するとスコルが大声で笑い始めた
「ハハハハハハ!!!どうだ!!これが俺の力さ!!!」
「お前の・・・ちからだと?」
草羅がスコルに問う
「あぁ・・・ククク」
スコルがまだ笑いの余韻を残しながら言った
草羅はまたスコルに聞いた
「どういうことだ!!!」
「ハハハ,俺は今,このギリアに『お前は俺の仲間だ。俺の命令に従ってやつらを倒せ』と頭の中で思い込ませたのさ」
スコルがまた笑った今度はあざ笑うかのように
ぼくは
「思い込みの力でそこまでのことができるもんか!!!!」
と,大声でスコルに言い張った
スコルは
「じゃぁこの今のギリアの行動をどう説明するんだ?」
と,言い返してきた
「それは・・・」
僕は思わず言葉に詰まった
だが反論せずに入られなかった
頭では分かっている
しかし,心が名屋がスコルの見方になったことを受け付けないのだ
そんな僕を見かねたスコルが
「じゃぁ証拠を見せてやろう」
と,いってスッと草羅の頭を指差した
僕はまさか!!!
と,思い
「やめろ!!!!!!!!」
と叫んだ
スコルは
「だから遅いと言ってるだろうが」
と,言い放った
それと同時にまたスコルの指が光りだした
第3章〜友の死〜
光が収まった後、僕は瞬時に草羅を見た
草羅は驚いたような顔のまま硬直していた
加賀が
「草羅?」
と,声をかけた
と,次の瞬間!!!!!
草羅の口からどっと血が吹き出てきた
草羅が血まじりのせきを何度も何度も繰り返した
僕と加賀は慌てて草羅のもとに歩み寄り声をかけつづけた
しかし草羅はひどいせきで声を出す余裕がない
せきだけならまだ助かったかもしれない
しかしその後,もっと悲惨のことが起きた
なんと草羅の血管という血管がすべて浮き出てきたのだ!!!!
「ぐ・・・がっ・・・」
草羅が苦しそうに何度も何度もあえぎ声を発する
僕はスコルに
「何をしたんだこのやろう!!!!」
と,怒声をはなった
しかしスコルはニヤニヤと笑みを浮かべるだけで答えなかった
そんなことをしているうちにも草羅の血管がどんどん浮き出してくる
このままでは皮膚が裂けて血管が破裂してしまう!!!!
僕と加賀は慌てて草羅をそっと寝かせた
そして僕が『治癒能力』で処置を施していく
しかし草羅は依然もだえ苦しむばかりだ
僕はさらに急いで治療した
その間,ずっと加賀は
「草羅,草羅!!」
と,声をかけ続けていた
しかし,その時は訪れてしまった
草羅が
「ぐあぁぁぁぁぁぁ」
と,最後の大きな声を上げた
と,その瞬間!!
一気に浮き出ていた血管が破裂した!!
目の血管も首の血管も頭の血管も足のも手のも・・・
ものすごい量の血液が体全身から噴出する!!
噴出した血液が僕の体のいたるところに付着する
涙までもが血で染まるほどに・・・
僕が大声で泣き叫ぶなか、加賀は一滴の涙のしずくさえ流さずにうつろな目で硬直していた
おそらくあまりにもむごい死に方をした友を前にして何をしていいか分からないのだろう
そんな加賀の後方からスコルの笑い声が聞こえた
「ハハハハハハハハハ!!!!!!!!これぞ思い込みの力!!これぞこの力の真骨頂だ!!みたか,クズ共!!」
それを聞いた加賀は硬直状態から一気に開放されスコルに食って掛かった
それこそ,静かだった波がいきなり大津波となって押し寄せてくるかのように・・・
「スコルー!!!!貴様!!!!何をしやがったんだ!!」
それを聞いたスコルは
熱くなっている加賀とは裏腹に落ち着いた声で
「隣の兄ちゃんなら,それに気づいているんじゃねぇか?」
と,言った
それを聞いて加賀がうつむいている僕のほうを向き
何かに気づいていると感じ,僕に歩み寄って来て肩をガシッとつかみこう言った
「気づいてるのか?津式・・・何が起きたんだ!!!」
と,僕までをもにらみつけながら言った
僕はそれに答えた
「スコルの力は思い込みの力・・・。それは仲間ではないものをも仲間だと認識させることができる強力なものだった・・・。ってことは,対象となるものに死の概念を思い込ませたら・・・」
僕は最後まで言わなかった。言えなかった
しかし,加賀は僕の言いたいことを悟ってくれて代わりに言った
「その対象者は・・・『死ぬ』,最もむごい死に方で・・・」
僕は思わず顔をそらした
加賀と真正面から向き合ったのでは涙が流せない
加賀も加賀でこれでもかと言うくらい悔しい表情をしていた
スコルは口をゆがませながら
面白いものでも見るような目つきでニヤニヤしていた
そんなスコルを見た加賀は
「スコル・・・僕はお前を許さない」
と,凄みのある声で言った
こんな表情をしている加賀は僕でも見たことがない
それを見たスコルは急にまじめになって
「ずいぶんとでかい口をたたくな」
と,脅すように言った
加賀はそれには答えずとスコルをにらみ続けた
スコルは加賀から少し目をそらしながら
「おまえ,さっきのを見てなかったのか?お前を殺すことなどたやすいことなんだぞ」
と,言った
加賀は
「お前の目的が僕らの力を吸収することなら,お前はもう僕らを殺せない」
と,スコルに迫った
しかしまたもスコルは笑みを浮かべながら
「今までどおりならな」
と,そっけなく答えた
どういう意味だ?と,加賀がスコルに視線を投げた
それを見て
「お前らはカオスの修行で少しなりとも成長したようだ。さらにギリアの力も覚醒した。今残ってるお前と津式の力なら1人だけでも足りる。」
と,スコルが言った
「ってことは,僕らどっちかを殺すのか?」
と,僕が聞いた
もちろん「YES」という言葉が返ってくると思っていたが
スコルの返事は意外なものだった
「いや,今はこのまま生かすつもりでいる。もちろんどちらか一人は吸収させてもらうがな。しかし俺は最初に言った『この中の一人を殺しから雑用までの仕事をこなしてもらう』と,そのことを忘れてもらっては困る」
確かにこの学校にくるときにそんなことを言っていた
しかしそれが大真面目に言ったものとは思ってなかったので意外だった
しかし僕はほっとした
このまま行けば2人ともとりあえずは生きていけそうだ
しかしその希望は加賀が次にはなった言葉で夢となった
第4章〜最も戦いたくない相手〜
「ふざけるな!!!!!」
加賀の声が屋上いっぱいに響きわたった
スコルはもちろんのことだが僕も意表を突かれて思わず目を丸く見開いた
そんななか加賀がまた,声高らかに言った
「お前の奴隷になるようなら死んだほうがましだ!!!!」
僕は
(なんてこと言うんだお前は!!!!)
と,心の中で加賀を毒づいた
しかしもう時は戻せない
スコルはさらにニヤニヤしながら
「面白いことを言うね,君は。じゃぁお望みどうり殺してやるか」
と,加賀の頭を指差した
僕は慌てて
「やめろ!!!」
と,叫んだ
しかし加賀が
「津式!!!」
と,叫び返して僕をギロッと睨んだので
動かなかった
スコルは
「美しき友情愛だね。」
と,いった
その時,スコルが何かに気づいたように顔を輝かせた
「そうだ!!!このまま殺すより面白い方法がある」
と,言った
スコルはまたもや笑みを浮かべて
「高みの見物と行こう」
と,言って指に力をためていった
指が今度は赤い光を放った
そしてまたもや光がすべてを包み込む
僕は手で目を覆った
そうしたせいなのか,僕は数分間頭が真っ白になった
しかしその宙ぶらりんな状態は長くは続かなかった
隣から,加賀のどす黒い声が耳を突いたのだ!!
僕は加賀を見た
加賀は苦しそうにもがいていた
体に変化はないが本当に苦しそうだったので僕は加賀に近づいていった
しかし,加賀まで後数十センチというところで加賀は両手を大きく動かし
歩み寄る僕を振り払った。
あんなに仲が良かった加賀にこんなことされてはショックを受けざるを得ない
しかし,今はそんな場合ではない!!!!
僕はスコルに
「何をしたんだ!?」
と,言った
するとスコルは
「名屋・・・ギリアにしたことに近いかな」
と,言った
「またお前の仲間になるという思い込みをさせたのか!!!」
今度は大声で言った
「そうだな・・・『思い込み』というより一種の『呪い』かな?」
「呪い・・・」
僕は言葉を復唱した
「そうだ,呪いだ。ギリアの場合は肉体と精神両方に「俺は仲間,お前らは敵」という思い込みをさせた。だからやつの行動には躊躇がない。しかし今回は肉体のほうだけにその思い込みをさせた。つまり,頭では分かっていても体が言うことをきかず,仲間であるお前を攻撃してしまうということさ。もっとも,そのうち精神も支配されるがな。それでも加賀裕一が苦しんでることに変わりはない。唯一こいつを助けられるとすれば殺すことだな。できれば精神は正常なままの状態のときに・・・。さぁ戦え!!!津式光!!!!」
スコルは高らかに言った
僕は悩みに悩んだ
加賀を傷つけるなんてできない
でもあいつが苦しんでいるなら助けてやりたい
でも殺すなんてできるわけがない
そんな時,加賀が
「ウォォォォォ」
と,叫んで僕に攻撃を仕掛けてきた!!!
肉体強化の力で手の筋肉を何倍にも膨らませて殴りかかってくる
僕は吹っ切れずにただただ攻撃をかわし続けていた
僕がかわすたびに床やフェンスが派手な音を立てて崩れ落ちていく
その轟音にまぎれながらも加賀の苦しそうな声が辺りを包む
加賀はたまにためらうような・・・呪われた体に抵抗するようなしぐさを見せる
それは攻撃するのにはまさに絶好のスキだが当然僕がそのスキを突けるわけもない
気付けば僕の頬には一筋の涙が流れ落ちていた
それにつられるかのように何滴も何滴も涙がこぼれ落ちていく
加賀は依然として苦痛な声を上げて,僕に攻撃を仕掛ける
唯一変わっているとすれば声が徐々に徐々に痛みを増してきてるかのような声に変わっているということだ。
この僕でさえも加賀が精神までもをだんだんと食われていくのが伺えた
スコルは
「さぁさぁ津式光!!!早くそいつを殺っちまわないとそいつ自信が朽ちていくぜ!!」
と,高笑いでもするかのような口調で言葉を放った
その言葉は僕の耳にしっかりと届いていた。その事実も頭では分かっていた
しかしなかなか行動に移せない
もしかしたら本当にさっさと殺したほうが加賀にとっても楽なのかもしれない
しかし,たとえ加賀が楽になっても僕は苦しい
自分の苦しみが怖くて・・・何より友達を殺し,殺人者になるのが怖くて動けない
その間にも加賀はこれでもかというくらいの声で叫んで攻撃し続けてきた
そしてだんだんとその攻撃に躊躇がなくなる
「加賀!!加賀!!!やめろよ・・・やめてくれ!!!!」
僕はひたすらに叫んだ
しかしその声は加賀には届かない。
加賀の肉体強化の力はとんでもないほど成長していた
最初は筋力だけが上がっていたものの、精神が食われていくにつれ筋力だけでなく体つきそのもの自体が変化してきた
胸筋は膨れ上がり,鋼より硬くなる
腹筋や背筋や足の筋肉までもが強化され,動きも俊敏になってくる
もしかしたらこの能力は最強なのかもしれない
何せひとつの力で攻撃力,防御力,機動性が強化されるのだ
戦いにおいて,これほど強力な力はないだろう
加賀はさらに力を増幅させて僕に向ってきた
僕は身を守るために力を発動させた
加賀の力がここまで来ると,僕も生身ではかわしきれない
僕は炎を防御のためだけに使った
攻撃には一切力を使わない
しかし,加賀の攻撃を炎で受ければ受けるほど加賀の手や足にやけどを負わせていく
加賀は自分の意思では体を動かせない
だからいくら熱くて痛くても攻撃をやめることができない
加賀は僕の炎が当たるたびに苦しそうな声を上げた
僕はもうこれ以上耐えられなかった
いっそこの炎で自分の首を焼き払うか?
それか炎のビームで自分の五体を切り裂くか?
どちらにせよ『己が死ぬ』という選択肢だった
加賀を殺そうなんて選択肢は無論なかった
しかし,僕は弱かった
自分で死のうにも怖くて死ねない
加賀の攻撃に当たってしまえば楽に死ねるがそれも怖い
もうどうしようもなかった
そんなことをしているうちに,僕は最悪の時を迎えた
第5章〜悲しき戦い〜
加賀が動きを止めた
僕ははっとなり加賀を見た
体には何の異常もない
しかし目がどんどん血走った目になっていた
加賀は自分の目をもぎとるかのように押さえつけた
そして
「津式・・・津式・・・にげ・・・ろぉぉォォォォ!!!!」
と大声で叫んだ
僕の目は涙でいっぱいだった
しかし感傷に浸ってる場合ではない!!!
加賀の目の血管が充血し白目が完全にどす黒い赤に変わった
もう,加賀に感情はなかった・・・
加賀が一気に攻撃を仕掛けてきた
もう何の躊躇もない,精神が完全に墜ちたのだ!!!
スコルのため息が横からわずかに聞こえた
かと思うと僕の腹部に激痛が走った
加賀がものすごいスピードで走ってきて僕の腹を思いっきり殴ったのだ!!!
僕は何メートルか飛ばされフェンスに激突した
ガシャーンという大きな音がした
そしてさらに加賀は僕に攻撃を畳み掛ける
僕の腹に顔に背中に首に・・・
いろいろなところを殴ったり蹴ったりしてくる
加賀の筋力は今は半端のないものになっている
殴られるたび,蹴られるたびに骨がぎしぎしという音を立てる
もう何本かは折れている
このままでは死んでしまう!!
僕は思い切って手に炎を集中させ加賀に向けてはなった!!!
炎はビームとなり,加賀の肩を貫いた
加賀がうっとなる
僕は必死だった
我を忘れ,加賀に次々と攻撃を仕掛ける
加賀の肉が,皮膚が炎によって溶かされていく
その光景はまさに地獄絵図だった
加賀はあまりの痛みに大声で叫んだ
その声で僕はふと我に帰った
僕は自分がしているおぞましい光景を見て立ちすくみ,へたり込んでしまった
加賀にとってはまたとないチャンスだ
加賀が痛みに耐えながら思いっきり蹴飛ばした
またもやフェンスに激突する
今度は当たり所が悪く,足が動かなくなってしまった
僕はその場から動けずに,死の恐怖に打ちのめされただただ呆然としていた
そんな僕の前に加賀が立った
そして僕の頭を粉々に砕くべく,筋肉の膨れ上がったその腕を振りかざす
僕は加賀の顔をひたと見据えた
そこに,昔の心優しい加賀の姿はなかった
しかし,加賀との思い出が走馬灯のように頭をよぎる
加賀が一気に手を振り下ろした!!!
僕は思いっきり目を瞑った
「グシャ」
身の毛のよだつ音がした
時が・・・止まった・・・
数秒後,ポタンとしずくが一滴落ちてきた
そしてさらに今度は放水でもしているかのようにボトボトとそのしずくが僕の顔に落ちて来た
ん?
待てよ・・・
僕の顔!?
砕かれたはずの僕の顔
そこにしずくなんて落ちてくるわけがない!!
僕は恐る恐る目を開いた
と,同時に僕は目をカッと見開いた
加賀はなんと,自分の腕に思いっきり噛み付きその腕を止めていたのだ!!!
加賀のうでは加賀の歯から逃れようと,ぐるんぐるんと回っていた
そのたびに血が噴水のように飛び散る
僕は
「加賀!!!!!」
と叫んだ
加賀は自らの腕を必死で押さえ込んでいた
そして,自分の腕のけんを噛み千切った!!!!!!
加賀の腕が力なく垂れた
そして加賀は血にまみれた口で
「津式!!!!俺を殺せ!!!!!」
と大声で叫んだ
スコルは身を乗り出して見入っている
「そんな・・・」
僕はもちろんためらった
しかし
「俺の左手が右手を補おうとして力を発動させる前に!!!!俺を殺すんだ!!!!頼む!!!!!はやくやってくれ!!!!」
僕は首を縦には振らなかった
加賀は恨みがましい目つきで僕をにらんだ
そしてまた目が血走ってゆく・・・
加賀は飲み込まれる自分を抑えようと自分のあらゆるところに噛み付いた
痛みで逃れる気なのだろうか?
加賀の服が血で染まってゆく・・・
加賀は最後の力を振り絞っていった
「津式!!!!!!!早くしやがれ!!!!!!」
僕の目は涙でいっぱいになった
前が良く見えない・・・
気が突いたら僕は首を縦に振っていた
それを見ると加賀は僕のすべてを包み込むような優しい目で僕を見据えた
加賀の目にも涙が浮かんでいた
僕は
「加賀!!!!!」
と叫んで炎をナイフ状にして加賀の方へと走っていった
「津式!!!!!」
加賀も叫んだ
僕の手に,肉を切り裂く感触が走った
僕はためていた涙を一気に溢れさせた
涙が止まらない・・・
僕の炎は加賀の腹を見事に貫いていた
加賀がとうとう立っていられず僕にもたれかかった
そして耳元でささやく
「あ・・り・・が・・・・と・・・・・・・う・・・・・・・・・」
加賀の全体重が僕にかかった
僕と加賀は床にどさっと倒れた
床に後頭部を打ちつけたが悲しみで痛みなどまったく感じない
加賀の安らかに眠る顔をまじまじと僕は見た
そして
「加賀〜!!!!!!!!!!!!」
と,大声で叫んだ
とうとう,最後の仲間も失ってしまった
友を失うのはもう嫌だとあれほど思っていたのに
結局は自分の手で友を殺めてしまった
僕は自分のふがいなさに嫌気がさした
自分の無力さにあきれた
自分の非力さにあきれた
しかし今は何もできない
僕はただただ涙を流した
第十一巻〜同士討ち(後編)〜 END
本当に長い間更新が出来ずにすみませんでした。
この長い間には色々あったもので・・・
学校行事や作者的都合など色々重なってしまって・・・
さて、ネバービリーブもそろそろクライマックスへと向かっています。
もう津式くんの仲間は0人となってしまいました。
この後の津式くんや名屋、荒口、斉木、久杉、そしてスコルはどうなるのか!!!
次回、ご期待ください。