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第63.5話「喰らう者」

第3章へ続く導入になります!

 音も無く色も無い景色。いや白い霧に覆われた世界だから周りが見えないだけだ。

 白い闇の世界をボクとクトゥルーの2人だけで歩く。

 隣り合って仲良く歩いてるわけじゃなく、彼はボクの数歩後ろを地面に伸びる影のように付き従ってくるだけだ。


「クトゥルー、ここって次元を渡るとき最初に来た場所と同じ?」


 ボクは何気なく周りを見渡しながら軽い調子で質問してみた。

 ずっと無言なので気まずい……なにか話さないと沈黙に耐えられません。


「はい、アキラ様。まったく同じとは言えませぬが、同じ次元回廊でございます」

「……そうか……じゃ、ここのどこかでカザリさんが死んじゃったんだね」

「………」


 クトゥルーはボクの言葉になにも答えなかった。

 いや、答えてもらおうと思って口に出したわけじゃない。

 これはボク自身の心への確認なんだ。

 ボクを(かば)って守ってくれたカザリさんの優しさと愛情を忘れないため。

 あまりに不甲斐ない自分への戒めのため。


「ボクは本当になんなんだろうね……

 皆を救いたいって気持ちがあったのは確かなのに。

 なんで地獄なんてものを作ったんだろう。なぜ天国じゃないんだ?」

「我の足りぬ知恵でよろしければ」


 クトゥルーの返事はなんとも謙虚だ。いかにも武人って感じだよ。


「キミの考えを聞きたい。ぜひ頼むよ」


 少しだけクトゥルーを振り返り、微笑んでみせた。

 尋ねる相手はクトゥルーでなくてもよかった。ただボク以外の誰かに聞きたかった。

 本来の自分が怖い。まるで理解ができないんだ。

 人の考えを簡単に読めるヒュプテさんなら理解できるんだろうか。

 いや……魔神という魔族すら超えた存在の考えなんて、誰であれわかるはずがない。


「我が思うに、アキラ様は誰かを救うために地獄を作ったのではないと思われます」

「……え?」

「もしくは、アキラ様が地獄を作られたのではないという可能性すらあります」

「………」


 なるほど……

 ボクもそれは思っていた。

 神のような存在といえども、いくらなんでも理屈に合わないんだもの。

 はは……神様に人の理屈が通用するはずがないけどさ。


「じゃ、なんで作ったと思う?」

「……それは、アキラ様も同じ考えでは?」

「うん、そうだね……地獄なんてものの目的はひとつだもんね」


 それは……人を苦しめるため。

 地獄の目的なんて、人間なら誰でも知っている。

 悪いことをした人間が落ちる世界。そこで鬼と呼ばれるものが罪人を罰し、苦しめる。


「クトゥルーは地獄へ行ったことは?」

「ありませぬ。あるのは地獄門の管理人の死霊術師イザナミ。それから魔法少女レレナに大天使ミカエル……あとは話にでてき元帥(げんすい)ヤハウェでしょうか」

「ボクが作ったって話なのに、地獄がどんな所なのかぜんぜん覚えてないんだ」


 お母さんも地獄にいるって話だった。

 ボクの母親でさえ死んだ後に地獄に行くなんて…

 もし本当にボクが地獄を作ったのなら、あまりにも……許されない仕打ちだ。


「アキラ様……間違いは正せばよいこと」


 顔に怒りが現れてたんだろうか。ヒュプテさんに言われたように、ボクはどうも思ってることが顔に出るらしい。

 でもクトゥルーの言葉で気づかされた。

 その通りだ。誤りは正せばいい。ボクにできるのはそれだけだ。


 ボクにできることはなんでもする。


 改めて決意したボクの晴れ渡った視界に黒い染みが見えた。ホワイトアウトの世界だけに黒い染みがよく目立っている。

 その染みを見た瞬間、悪寒が背筋を突き抜けた。気づくと手が震えていた。

 な、なんだ……

 さ、先に行った誰かなのか?

 大きさ的には人影くらいなんだが……


「おーい!」


 シーン……

 反応がない……誰かってことはないのか。


 あの黒い染みを見ていると、体の震えが大きくなっていく。

 ふと後ろを見るとクトゥルーも身震いしていた。

 バカな……臆病なボクならわかるけど、クトゥルーまで震えてるなんて。


「我はいままで恐怖を知りませんでしたが、魔神となったアキラ様を見てから怖れに敏感になったようです」


 そ、そうなんだ……それがいいことかわからないけど。


「ど、どうする? ち、近づく? ボクはやめた方がいいかなーなんて思ってるけど」

「非常に気になります……アレに異常なまでの恐怖を感じますゆえ。近づきましょうぞ」


 うはは! 恐怖を感じてるのに行きたいのね。

 知ってるかな? 好奇心は猫を殺すってありがたーいお言葉。

 しかし行かないわけにはいかない。だって進行方向にその黒い染みがあるんだもの。

 先行しているアステリアやカノンたちは大丈夫なんだろうか。


「クトゥルー。アステリアたちは大丈夫だろうか?」

「分かりかねますが……戦いの気配は感じませぬ。それに何か異常を感じたのであれば我等を待っていると思われます……」

「そ、そうだね」


 く、こんな魔神の力を持っててもボクって心が弱い……

 所詮中身は15歳の少年なんですよ。


 くそ、めっちゃ嫌な予感しかしない。

 なんでこんなに恐ろしいんだ。

 でも怖がってても仕方ない。


 よし! 行こう。



 勇気を出して歩き始める。

 それからかなり経ったけど……おかしい。

 いつまで経っても黒い染みに近づかない。

 いや、近づいてはいるんだ。だってどんどん大きくなってるし。でもたどり着けない。


「なんでアレにたどり着かないんだ……」

「それよりアキラ様、我等はすでに次元を超え、元の世界に戻っているはずですが……」

「え? な、なに言ってるの? ここって次元通路じゃないの?」

「いえ、すでに次元通路は超えました。ここは我らが出発した王都エルドランです」

「……えええ!?」


 ウソでしょ……

 思わず周りを見回したけど、やっぱり白い霧に包まれたままで建物も何も見えない。

 地面が遠くまで見えていることから思ったより薄い霧だと思う。

 いや、真っ白な世界の中で依然として黒い染みだけが見えている。

 だけど王都の街並みも行き交う人々も……なにもないじゃないか。

 それに先に帰還したはずのアステリアたちの姿がない!


「アステリアー! カノーン!! ダーツさーん!!!」


 皆の安否(あんぴ)が気になって思わず叫んでしまう。

 どうなってるんだ!?

 ここって本当に王都なの? ついさっきまで皆と一緒だったのに。焦りだけが募っていく。


 そのとき突然大きな地震が起き、立っていられなくなった。


「な、なんだ!?」


 体験したことないほどの巨大地震だ。

 激しい震動で大地に亀裂(きれつ)が入り、身の危険を感じたボクたちは空に飛びあがった。

 この時ばかりは魔神の力があってよかったと思う。


「こんな激しい地震……皆は大丈夫なんだろうか」

「アキラ様、今はとにかくあの黒い染みを目指しましょう」

「え!? そ、そうか……皆もこんな世界に来たとしたら、あそこを目指すかもしれないね」


 落ちつけ……きっと皆は無事だ。あれだけ強い魔族たちだ。

 ちくしょう……カノン……キミの顔が見たいよ。

 アステリア、いつもの美しい声で呼んで欲しい。

 ダーツさん、ボクを抱きしめて……心細いよ……

 こんな魔神の力があったって、皆がいなければボクはダメだ。

 皆、無事でいて!


 ボクたちはなるべく急いで飛んだ。

 目指すは黒い染み。


 空を飛ぶ間も周りを見渡し、アステリアたちの気配を探る。

 しかし気配を掴むことができない。

 ただの人間であるダーツさんやヒュプテさんもいるのに、本当にそんなに遠くまで移動したんだろうか。

 しかも疲労で倒れて動けないネロさんもいるんだ。

 目尻から涙が(にじ)みだし、ちょっとでも気を緩めれば(あふ)れそうになる。

 けど泣いちゃダメだ。泣いたら不吉な予感が現実になる気がする。



 ☆



「アキラ様……これはあまりに異常事態です」

「……わかってる」


 ボクたちはあれから一昼夜飛び続けた。それもかなりの速度で。

 すでに大陸を越え海を渡り、次の地を飛んでいる。

 それなのに……なぜあの黒い染みにたどり着かないんだ。

 ダーツさんたちはどこにいるんだ。いまだ出会えていない。

 まるでずっと蜃気楼(しんきろう)を追いかけてるようだ……


「クトゥルー止まって!!」

「む!?」

「巨大な地割れ……?」

「向こう岸が見えませんな」

「うん……」


 地割れが延々と続き、見渡す限りどこまでも大地が見えなかった。

 とはいっても遥か先は白い霧によって隠されているが。


「上空へ上がって見ましょう。なにかわかるやも」

「うん、行ってみよう」


 ボクたちはそのままぐんぐんと高度を上げる。

 だんだん霧が薄れていき、目の前の視界が広がっていく。


 そして……信じられないものを見てしまった。

 ありえない……そんなこと、ありえないだろ!

 体が恐怖に震え、頭が混乱で痺れる。

 思わず両手で頭を抱えて叫んでしまった。

 クトゥルーがいなかったら、そのまま狂気の沼に沈み込んでいただろう。


「そんなバカなぁ!!」


 そこには、とんでもない光景が広がっていた。

 ……星の半分が……すっかり消えてなくなっていた。


 地割れでは無かったのだ。


 そしてさらに信じられないものがそこにはいた。

 謎の黒い染み……それは――――


「ボクは気が狂ってしまったのか……」

「あれは……おお、あれは……信じられぬ! なんなのだアレは!!」


 それは……巨人の目だったのだ……

 途方もない大きさの瞳がボクを見ている。

 顔の大きさが星の大きさと同じだ。


 巨人は口元をもごもごと動かしていた。

 そしてあろうことか大口を開けて星にかじりついた。

 あの大地震は、巨人がかじりついた時に起ったのかもしれない。


「なんなんだあれは……」

「我も見たことがないです……あれは星を食っているのか」


 ここは本当にボクたちが知っている世界なのか?

 ボクたちはただ呆然と星が食われていくさまを眺めていた。


皆さま、1か月ぶりです! 忘れてないといいなー。

実は体を壊して最近寝たきりです。おかげで思った以上に書きだめができてないのです……くぅぅ。

体調は良くなってきているので、序盤ペース遅いですが更新していきますー。

ここまででとりあえず大丈夫か! と自分が思えるところまできたら毎日に変更します( ^ω^)

皆さま、これからもよろしくお願いいたします。

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