第62話「ボクは魔王じゃない!」
「おのれぇ神代アキラ! 貴様のようなモノがなぜ存在する!」
強大な赤き渦と化した魔王が叫ぶ。真紅の螺旋は大気を揺るがし暴風へと変わっていく。
ただ声を発する。それだけで空気が震え、かろうじて持ちこたえていた建物は崩れる。
天変地異が起こり、ダーツたち人間は立っていることができず、巨大なビルだった名残の瓦礫へ身を隠す。
「悍ましい! 汚らわしい! 貴様は全ての生きるモノの敵よ!
私はお前を倒すためだけに生まれたのだ!」
「キミが……ボクを倒すため?」
「滅びよ神代アキラ!!」
魔王の憤怒に呼応するかのように竜巻の大きさが急激に増し、周囲の建物や魔族が巻き込まれていった。
アキラの黒い霧が赤い竜巻を包み込んで抑え込もうとするが、それでも巨大化は止まることがなかった。
ただならぬ状況に、ミカエルが素早く天使の軍団に叫んだ。
「ここより急ぎ距離を取れ!」
ミカエルだけではなく、各軍団長も配下へ同じ命令を下していた。
西野たちも暴風から距離を取りつつ、アキラを見守る。
「アキラくん……」
赤く発光する竜巻とそれを包み込む黒い霧は天のはるか高みまで達し、空一面へと四方八方へ広がっていく。黒い霧と赤い光に覆い尽くされた空が、焼きただれたような色合いへと変わっていく。
ダーツにはこの世の終わりを予感させる地獄の景色に映った。
ただ空が焼けていくだけではない。
竜巻に飲み込まれた建物の瓦礫が巨大な渦から弾き飛ばされ、空から弾丸のように降り注ぐ。
激しい速さで落下し、大地を深くえぐるそれは、小石の大きさであろうと致命傷になる。
当たり所が悪ければ即死だ。
ダーツたちはさらに後退して石つぶての落下地点から必死に逃げ出した。
「くそ! とばっちりがひでぇ!」
ダーツのグチを聞く者はこの場に誰一人いなかったが、文句のひとつも言わずにいられない。
☆
命夜の無表情な面に若干の焦りが見える。
「魔王、これほどの力、つけていたか」
タトスはエリュシオンの体を抱え、竜巻から逃れるために全力で走っていた。
「竜巻の巨大化が止まらないです。
このままではいずれ巻き込まれそうです」
「タトスくん、命夜もう離れないと」
「え? 離れる? もしやエリュシオンの体からですか」
「うん、エリュシオンちゃん限界近い。だから返す。アキラ伝えて」
「……はい」
「地獄界へ来い」
「じ、地獄っ!?」
「タトスくん、エリュシオンちゃんと仲良く。またね。
アキラのこと、皆にありがとう伝えて」
命夜が最後にそう告げると同時に、エリュシオンの体がビクンと跳ねる。
しばし気を失ったように力が抜けグッタリしていたが、再び目を開けた彼女が浮かべた表情は明るかった。
「エリュシオン……がんばったな」
「ふふん、タトスより全然役立ったぜ?」
「ああ、お前はすごいヤツだよ」
「声が大きいままだ……またメイヤ様に借りができたなぁ」
タトスはエリュシオンを抱きかかえたまま、口づけした。
あまりに突然のことに目を真ん丸にしたエリュシオンだが、すぐにうっとりとした表情に変わり、タトスの首に白く細い腕をまわした。
「なぁエリュシオン、この戦いでアキラ陛下が勝ったら……どうする?」
「勝ったらって、勝つに決まってるだろ。って、どうするってなにがだ?」
「……元の世界へ戻るか?」
「タトス……てめぇバカだろ」
「な、なにがだ」
「魔王がいなくなったら、この世界から魔物がいなくなるんだぞ。
帰る意味がどこかにあるのか?
この世界に怪物たちが現れたのは、あの魔王のせいだったらしいからな」
「それでも残った化け物はいるぞ?」
「ふふん! アヤメに倒してもらう!」
「そ、そうか……じゃ、ここに残って……俺と結婚するか?」
「あたりまえだろ! バーカ」
エリュシオンは快活な笑みを浮かべ、タトスにキスをした。
☆
「カノンさん……だっけ」
「は、はい……」
西野はカノンへぎこちない笑みを浮かべながら走っていた。
タトスたちから離れないよう、彼らの後を追いかける。
「アキラくんのこと……好き?」
「ほへえぇ!?」
唐突な西野の問いに、カノンが素っ頓狂な声を上げてしまった。
「わ、私ごとき、アキラさんのことを好きになるなんて、恐れ多くて許されなくてもったいなくて……あのその……」
「あはははは!
面白い子だなぁ……じゃ私のライバルかぁ」
「ラ、ライバル?」
「そ、恋のライバル」
「あ、あなたも……アキラさんが……」
「も? へぇ……へええええ? も、なんだ?」
「ああ!? いえ、そんな! 私なんて……」
今の状況をまるで無視した明るい笑い声を上げる西野を、不思議な表情で見つめるカノン。
いや、こんな状況だからこそできる会話なのかもしれない。
カノンはたった数語だけのやり取りで、西野に好感を持った。
それは恋のライバルと言われたこともあるだろう。
「アキラさんは……私を何度も助けてくれました」
「そうなんだ……」
「あんなすごい人ですから、私じゃ絶対無理なんですけどね。
それに身分も違うし……」
「カノンさん、あなたも相当すごいと思うけどなぁ」
「え!?」
「それに身分ってなによ。どこの世界の話なんだか。
この世界じゃほとんど意味ないのよ? 王様とだって結婚できちゃうんだから」
「ええええええ!? お、王様と!?」
西野も素直なカノンが好きになった。
とても純朴ないい子だと感じる。
(クスクス。トモちゃんとは真逆の性格っぽいけどね)
西野は初めてカノンを見たときから気づいていた。
彼女も命を生み出す大いなる原初と繋がっているのだと。
だからこそ、カノンが……自分と同じ運命をたどることを知っていた。
アキラとの悲しい別れが待っている。それから逃れることはできない。
だからこそ今は楽しもう。好きな人への想いを。
そう西野は思った。
「はい、ではルールを一つ!
どっちが先にアキラくんに好きって言わせるか。
つまり、私たちから好きって言っちゃダメ」
「え!? わ、私なんか……相手にされてません……」
「ふーん? 気づいてないんだ? アキラくんのあなたを見る目。
あれは……悔しいけど……」
西野が最後まで語ることはなかった。
カノンはそんな彼女を見つめ、そっと西野の手を取った。
「ライバルなんですね、私たち」
「……ええ。ライバルよ」
彼女たちはまるで昔からの友人のように手を取り合い、走っていく。
☆
さっきまでカノンたちの相手をしていた機械騎士レイザノールと死霊使いイザナミは、去っていく彼女らへすでに注意を払っていなかった。
魔王への加勢を邪魔さえしなければ、どうでもよかった。
彼らにとって優先すべきは魔王。
しかし何度か近づこうと試みたが、あまりに無謀すぎて断念していた。
触れれば砕け散るのは自分たちの体だ。
彼ら2人は、なす術もなく赤と黒の戦いをただ見守るしかなかった。
☆
「フフフ、ミカエル……これではアキラくんたちの戦いに我らは手も足も出せませんね。
どうしますか?」
悪魔の紳士ルーシーが楽しそうに尋ねた。
ミカエルは思う。
たとえここでルーシーを倒して魔王へ加勢に向かっても、自分ではなんの力にもなれないことは認識していた。
だが魔王が勝つと信じて疑わないミカエルは、後々の邪魔者を排除することに決めた。
「ふん、どのみち貴様は排除するつもりだ。
その後はクトゥルーも消す」
「やれやれ……すでにあなたは氷結地獄に蝕まれ、本来の力を出せないと言ったはずです。
まったく……愚かですね。私は愚か者は好きではないのです」
「もはや言葉は無用! 滅するがいい悪魔ルーシー!」
天使の軍勢もミカエルに加勢し、ルーシーへ無数の槍を投げつける。
ルーシーの体を数十本の槍が貫くが、全身に槍が突き刺さってもまるで意に介した様子がない。
不死身のルーシーに慄いた天使の軍勢は、思わず下がってしまう。
悪魔軍団は誰も動かず、平然とルーシーを見守っていた。
天使の軍団はそれを見て、さらに様子がおかしいと訝しむ。
「ククク……私の軍団はなんと仲間想いではないのか。悲しいですね。
それに比べ、一糸乱れぬあなたの軍団が羨ましい」
ただの槍では通じないと見たミカエルが静かに目を閉じて力ある言葉をつぶやく。
ミカエルの周囲数キロメートルにも及ぶ魔法陣が浮かび上がり、そこから白く輝く槍が無数に出現した。
すべての槍の切っ先をルーシーへと向けると、ミカエルは厳かに告げた。
「神より振るうことを許されし力、神の天罰!
ジャッジメント・デイ!」
青白く光り輝く槍がルーシーに降り注ぐが、何の表情も浮かべず、ただ漆黒の目で迫りくる槍を見つめているだけだ。
圧倒的な神罰の前で諦めきったようにも見えたが、信じられないことが起きる。
全ての槍がルーシーの瞳に吸い込まれていったのだ。
「なんと!?」
「私の目は地獄へと通じているのです。地獄に攻撃してなんになりますか?
ほら、地獄の亡者どもがあなたたちに復讐しようとしていますよ」
ルーシーの目から無数の光り輝く槍が飛び出す。
「これは、我がジャッジメント・デイの槍!?」
反転した神罰の槍がミカエルたちに向かう。天使の軍勢が次々と槍に貫かれ、消え去っていく。
ミカエル自身も何本もの槍が突き刺さり、地に倒れた。
「フフフ、神の怒りも地獄までは届かなかったようですね」
「……神よ……あなたの力になれぬ我を許したまえ……」
「ああ、そうだ。ミカエル。あなたに聞きたいことがあったのです。
滅び去る前に聞かせてください。
あなたのいう神とは……何者なのですか?」
「神は……黒き闇を纏い、その肌は白き輝きを放ち、この世ならざる美しい姿をしておられる……
我に言われたのだ。この世の全ての罪を洗い流せと」
「ほう……随分と……アキラくんに似ている容姿ですね」
ルーシーの言葉でミカエルの目が大きく見開き、赤く発光する竜巻とそれを覆う黒い霧を力なく見やる。
「神代アキラ……が、神……だと?
断じて違う……我の見た神は、あのような暗黒の瞳をしておらぬ。
確かに似ている……だが違う……
ルーシーよ、気づけ……あれは死、そのものだ……」
声が次第に小さくなり、ミカエルは動かなくなった。
「ミカエル、本当に愚かですね。
私は、あなたに命じていた神を知っているのだから。フフフ……
とても……今のアキラくんにそっくりですよ……」
音もなく灰になるミカエルを見、優しく笑うルーシーだった。
☆
果てしなく広がっていった赤の光と黒の霧は、今や地球全土の空を覆っていた。
黒い霧の隙間から漏れ出した光は血の雨のように地上へと降り注ぎ、触れたものは粉微塵に砕け散る。
かろうじて地上に生き残っていた生物を赤の光が襲い、容赦なく消し去っていく。
木々は裂け、建物は形を保つことをやめた。
それは地表そのものも同じで、アキラが守りきれなかった地域に幾筋もの真紅の太い光が達する。大陸が大きく削られ、地形が変わってしまった。
海の水も瞬時に蒸発し、海面が少し下がってしまったほどだ。
人々は大地に伏せ、救いを求めて神に祈りを捧げた。
「この子だけは……なにとぞ……」
「神よ、我ら人類に慈悲を!」
「怒りをどうかお鎮めください……私はあなたの忠実な下僕です」
圧倒的な破壊の力の前に、神を信じない者さえもがひれ伏し、ただひたすら我が身と愛する者への無事を祈った。
滅びをもたらす赤き光と黒い霧は約束された黙示録の訪れに見えた。
深紅に輝く光が人々を飲み込み、次々と人間を消滅させていく。
世界中のあちこちで大パニックが起こり、大勢の人間が我先にと逃げ出す。
どこが安全かも分からないのに、とにかく赤い光が降るその場から逃れようと先を争い、地を駆けた。
醜い争いが各地で起こるが、血のごとき赤の輝きに包まれ、それもあっという間に静かになっていく。
後には何も残らず、ただ大きくえぐられた大地だけがあった。
恐ろしい怪物たちの出現に続き、ついに神の裁きが始まったと人々は恐れ、悲嘆にくれた。
化け物たちから生き延びた人間すらも滅びようとしたそのとき、漆黒の闇が人を覆い尽くしていった。
悪魔の霧だと叫んで神に助けを求めたが、黒い霧に覆われても何も起きず、無害だと人々が理解するのにそう時間はかからなかった。
いや、それどころか、赤い光を防いでくれていると気づきはじめる。
ダーツや西野、カノン、それに魔族たちすら包む黒の闇。
それに触れていると、心に安堵が宿っていくのを感じた。
☆
「愚かなり、神代アキラ。くだらぬ者のために力を割くか」
天が赤い光に覆いつくされているため、魔王の声は世界中の生きとし生ける者たちの耳へと届く。
「魔王、キミを愛し、従ってきた者たちをくだらないと言うのか」
アキラの声もまた、世界中の人々へと伝わった。
人々の耳には、神と悪魔の対話に聞こえただろう。
「くだらぬさ、貴様を倒すという目的以外、なにもかもがくだらぬ!」
「魔王……キミはなぜボクをそんなに憎むんだ」
「神代アキラぁぁぁ! 憎いとも! 体中の血が沸きたつほど!
貴様ら原初どもの争いが全次元を崩壊させていくのだ!」
「……|原初どもだって? ボクも……そうなのか?」
「滅ぼされし生命は怨念の塊へと変わった。
死の世界へ落とされていく命は、誰ぞ復讐してくれと願った。
恐るべき地獄世界で、私という存在を生み出すに至った。
私は死者の怨嗟より生まれし存在なのだよ。
死の国で生命が生まれる奇跡、それほど激しい悲憤から生まれたのが私だ。
きっとレレナも今頃、私の力となっているはずだ」
微かに残る記憶、自分が死の世界を司っていた記憶。
アキラはようやく納得した。
魔王が自分に似ている理由、それに思い至った。
「そうか……キミがボクに似ているのは、そのためだったのか……」
「この姿、声、すべてが悍ましい!
何度も我が手で我が姿を焼いたよ。だが我が力が勝手に修復するのだ。
私はお前を倒すために全次元に侵攻し、仲間を集めた。
畏怖を込めて、魔王と呼ばれた。
だが、神代アキラ。多くの命を弄ぶ者よ……
お前こそ、真の魔王であろうよ!」
魔王誕生の真実は、アキラにとってあまりに悲しい事実だ。
自分が奪った命に安息は無かった。
そこには、死してなお苦しむ恨みと無念の姿があったのだ。
アキラは死によって苦しみが終わらせられると考えていた自分が、やはり間違っていたのだと理解した。
しかし、なぜ死者の安寧を願う自分が地獄世界を作ったのだろうと疑問に思う。
自分がやるべきこと、それは記憶を取り戻し、そしてふたたび道を間違えないように進むこと。
そのためには、魔神として存在するという自分の運命すら変えねばならない。
自分の真の道は、カザリやタイラーそして皆が愛してくれた神代アキラという人間であること。
神代アキラの想い願う道こそ、真実であると思った。
「……ボクがこの戦い終わらせる。
原初たちの争いを止め、ボクが世界を救う!
もう道を間違えたりしない。皆を生かし、救う道を行く。
ボクは……魔王じゃない! 魔神でもない! 神代アキラだ!!」
「――――は?」
「魔王、キミの力を貸してくれ!」
「ク……ククク……
アッハハハハハ! 神代……アキラ……私を……
地獄の亡者の怨念より生まれし私を……よくぞそこまでコケにしてくれたな」
「許してくれとは言えない……だけど、ボクはキミも救いたい」
「怨念を晴らすことはできても、救うことなぞ不可能。
さあ、神代アキラ、決着をつけようぞ!」
魔王の真紅の輝きかひときわ強くなる。
美しく輝くその赤は、破壊をもたらす怖ろしい光には見えなかった。
憤怒、怨嗟、苦痛……しかしそこには死者たちの悲しみが交じっていた。
太陽の光を遮る月のように、どこまでも深い闇が赤き光輝を覆い、消し去っていく。
「アキラ……」
ダーツは天に顔を向け、もはや人知の及ばぬ戦いの渦中にいるアキラを想う。
黒い霧に触れたとき、アキラの心が染み込んできたようだった。
なんという数奇な運命を辿る少年なのか。
人を救いたいがゆえに人を殺し、いま別の道を見つけようとあがき、そして人を救おうとしている。
アキラの本質は、純粋なまでのまっすぐな心。
それゆえに、道を誤っても気づかず、まっすぐに突き進む。
自分の身すら顧みず、ただ愛する人のために何ができるのかをずっと考えてきた。
ダーツは思い出す。
自分たちを苦しませないために、アキラは自らの命さえ断とうとしたことを。
だからこそ、アキラが間違った道を進み始めたとき、誰かが正してやらねばならない。
アキラの強さは、正しくあろうとする心にある。
「俺が何度でも叩き直してやるさ!」
☆
死霊使いイナザミ、機械騎士レイザノールは黒い霧に包まれ、そして魔王の真実を聞かされ、戸惑っていた。
憎しみから生まれた魔王、彼の行いは数多の命を奪ってきた。
しかしそれは復讐でありながら、世界を救うことでもあった。
神代アキラも同じだった。
黒い闇から伝わるアキラの心が、その言葉に嘘偽りはないと感じさせた。
彼は本気で魔王すらも救おうと考えていた。
ルビーのような鋭い煌きを放つ魔王の光が徐々に輝きを失っていき、黒が世界を支配していく。
レイザノールはそれを見やりながら考えた。
「ワレラ、マオウヘイカニ、エイエンノチュウセイ(プシュー)
ヘイカヲ、スクッテ、イタダキタイ(ギギギ)」
「ええ、レイザノール。私も気持ち、同じ。
もし神代アキラ、陛下すら救えるなら、私、従おう」
☆
ついに天空から赤い輝きが失われ、空が黒一色に染まっていた。
そして黒一面の空が徐々に薄れていき、青空が広がっていく。
太陽のまぶしい光が地上に降り注ぎ、人々は自分たちが救われたと涙した。
神の裁きは終わったのだと。
ダーツたちの前で地上に黒い霧が舞い降り、徐々にアキラの姿へと変わっていく。
白く輝く長い髪が風になびき、光を発しているのではと思われる白い肌は、神の降臨を思わせた。
西野やカノン、アステリア、クトゥルーたちがアキラの元へ駆け寄って来た。
エリュシオンにタトス、ダーツはネロを抱きかかえ、アキラのそばへ向かい歩く。
ヒュプテとヘイラも戦いの終わりを感じ、アキラの元へゆっくりと歩き出した。
魔族の紳士ルーシー、機械騎士レイザノール、死霊使いイザナミも静かにアキラに歩み寄った。
生き残った魔族たちもただ黙ってアキラを見守っている。
アステリアはアキラの無事な姿に安堵する。静寂を破るのを恐れるようにゆっくりと近づき、そっとひざまずいた。
「アキラ様……終わった……のですか?」
「……うん、終わった」
戦いの終わりを告げるアキラの声に西野たちは安堵した。
それぞれが長き戦いを思い起こし、そっと目を伏せ涙を流した。
ダーツはアキラと初めて会ったときを思い出し、そしてカザリとタイラーの最期を想う。
(カザリ……タイラー、お前たちの弟が帰ってきたぜ)
西野は妹であったトモコやクラスメイト、そして怪物が跋扈する世界を必死になって生きた数々の人々を思い起こす。
(トモちゃん……終わったよ……この世界はまた平和になるよ……)
カノンはアキラの無事をただひたすら祝っていた。
また一緒にアキラと居られる喜びをかみしめる。
(アキラさんの無事な姿を見られただけで、とても嬉しい……)
優しく温かい風が吹き、アキラの白い髪を揺らす。
この世界に訪れた災厄は終わりを告げた。
アキラは、日々送ってきた平凡な日常を思い出す。
退屈で刺激の無い毎日だった。
だが、親友たちとたわいのないお喋りをしていた日々が、今はとても愛おしい。
周りを見渡せば、廃墟と化した世界が目に映る。
自分の記憶にある平和な街は、そこになかった。
またしても大きな過ちを犯してしまった自分を許せなく思う。
何度自分は間違えるのかと、心に憤怒の渦が巻き起こる。
大事なものを無くし、初めて気づく。
そんな愚かなことを二度と繰り返したくない。
全ての記憶が戻り、真実がたとえどんなに恐ろしいものであっても、目の前で暖かく微笑んでくれる皆の為に戦うと決意する。
今度は失わないために……