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第51話「魔神誕生」

「カザリさん、今助けるからね!」


なんだろう、頭がすごくスッキリしてる。

今まで頭の中が霧に覆われていたみたい。

でも今なら何もかも分かる。


フフフ、さてどうしよう……当初の予定通り……

いやいや、まずカザリさんでしょ。

あれ、なんでカザリなんてモノを助けないといけないの?

まって、大事だからに決まってるじゃない!

あれぇ? なんで大切なんだっけ……

ボクに大切なものなんてないぞ? だってボクは……

でも、助けたい。うん、決めた。助けよう。


でも、どうやったら……バラバラだし。

ふふふ、ボクってカザリさんより背が小さかったけど、今ならボクの方が大きいね。

だけど、このままじゃおしゃべりできないし……

元のカザリさんがいいな。

どうしよう……ボク、殺すのは得意だけど、生き返らせるのは無理なんだ。

アイツ(・・・)ならできるはずなんだけど、どこにいるんだ?


あ、光が見える。

あの光、知ってる。

なんだっけ……名前わすれちゃったけど……おかしい、なんで忘れてるんだ。

ボクの探していたアイツだ。

アレならカザリさんを助けられるはずだ。



「********!!!」


しかし、さっきから周りがうるさいな。

足元になにか黒いものが沢山うごめいてる。

うん? なんだ、なにか喋ってる?

虫かな、虫って喋るのか? ただの鳴き声なのかな……とにかくうるさい。

鬱陶(うっとう)しいな……ボクはいまそれどころじゃないのに。

邪魔だよ。


ブチブチブチ。


あははは! 思わず足で踏みつぶしちゃった。気持ち悪いな!

でも、なんだか少しだけスッキリしちゃう。もっと踏んじゃおうか。

クククク……はっはっはっは!

なんでちょっとだけ気が晴れるんだ……?

うううううう、そうだ。

こいつらがカザリさんを殺したんだ。

許せない! 許せない! 死ね! 死ね!





「一体……アレはなんなの?」


アステリアの体が大きく震え、両腕で肩を抱くようにして(おび)える。

体からあふれ出す恐怖を抑え込もうとしているようだ。

両肩を強く(つか)んだおかげで、爪が肉に食い込んで血が流れだした。


アステリアとクトゥルーは空より現れた黒い闇。

いや、黒い悪魔から視線が外せなかった。

圧倒的な力を、狂おしいまでの恐怖を与えてくる存在を彼女たちは知らない。

2人の悪魔が知る魔王アキラは確かに恐ろしい存在であり、その称号にふさわしい力を持っている。

しかし、目の前に現れた巨大なる闇の魔神は、もはや彼女たちと力を比較できる存在ではない。

次元が違っている。



漆黒の魔神は怪物を虐殺し、建築物を次々と蹂躙(じゅうりん)する。

無造作に腕を、脚を、翼をわずかに動かすだけで大破壊が起き、形あるモノが(くず)れ去っていく。

1歩踏み出すだけで大地は深く(えぐ)れ、木々はへし折れる。

いつの間にか霧が晴れ、周囲に魔神ほどの高さのある建築物がいくつも並んでいるのが見えたが、障害物にすらならないようだ。

まるで絶妙なバランスで立つトランプでできた塔を(くず)しているように見える。

激しい轟音を上げて瓦礫(がれき)の山を作りながら、漆黒の巨大な悪魔は異形の者たちを、ただの肉塊(にくかい)へと変えていった。


「アレは……なんだ、あんな者の存在を我は知らぬ」


いつもは青白く光るクトゥルーの脳が、今は赤く光っている。

恐怖のため知らずじりじりと後退していることに、自分自身気づいてない。


悪魔たちがここまで(おび)えている姿が、ダーツには信じられなかった。

彼ら人間からすれば、アステリアたちですら人知を超えた存在。

魔導師ファージスの話の通りならば、アステリアは自分たちの世界を絶滅寸前にまで追い込んだ恐るべき魔王だ。

クトゥルーも恐るべき力を秘めているのは、先ほどの戦いで思い知った。

そんな彼らがただただ恐怖する巨大な悪魔。

魔が恐れるのは神だけだと思っていたダーツだが、アレは明らかに神ではない。

巨大な蝙蝠(こうもり)の翼をもち、邪悪な牙が生えそろい、

金色(こんじき)に輝く鋭い角は天を()き、神々への怨念に満ちているようだ。

黒い魔神の目に宿るのは憎悪と憎しみだ。

赤く燃え上がる瞳、怒りの咆哮(ほうこう)を上げ、生あるもの全てに絶望を振りまいていた。

あんなものが神であるはずがなかった。



さきほどまでダーツたちを襲っていた異形の化け物が、今はただ悲鳴を上げて逃げまどっている。

闇の魔は動くものに反応する。

無造作な一挙動(いっきょどう)で怪物たちが蹂躙(じゅうりん)され、動かない(むくろ)へと変わっていく。

あれほどしぶとかったはずの異形が、ただの哀れな犠牲者になり果てていた。

魔神は100メートルほど先で暴れているにも関わらず、その巨大さからダーツたちがいる場所からかなり近くにいるように見えた。



一刻も早く逃げなければいけないと、ダーツはふと気がついた。


(そんな当たり前のことにいまさら気づくなんて……)


いや、あの魔神が逃げることをダーツたちに諦めさせていたのだ。

逃げても無駄だ。どうせ死ぬ。その思いだけが心に湧き上がっていた。

化け物たちが逃げるという行動に移れているのは、ダーツたちよりはるかに精神力が強いからだろう。

だがダーツは、諦めの呪縛から抜け出すことに成功した。

こんな場面であっても、彼はリーダーとして仲間のために冷静であろうと必死で務めた。

だからこそ、いち早く畏怖(いふ)から抜け出せた。

そして、その一言を発することに成功する。


「静かに、速やかに撤退するぞ!」


全員がダーツを驚き見た。

漆黒に染まる魔神に心を奪われ、思考が停止していたせいだ。

周りの景色も見えなくなり、仲間の存在すら忘れてしまっていた。

ただただその場に立ち尽くし、魔神を凝視(ぎょうし)していた。


「ヤツは動くものに反応するようだ。

 だから、ゆっくりだ。ゆっくり動いて行動してくれ。

 みんな、動けるよな。

 まずタイラー、ネロを抱えてくれ。

 ヘイラさんはエリュシオン王女殿下を。

 俺たちはここから少しでも離れるべきだ。

 幸いにも俺の目には、ここにはまだ黒いモヤが……死の気配が見えない。

 撤退するなら今が最後の機会だと思う」


ダーツの一言で、タイラーとヘイラは即座に行動を開始する。

ゆっくりと、しかし迅速(じんそく)に……倒れたままのネロとエリュシオンを抱えた。


アステリアたちは人間たちの冷静さに驚きを隠せなかった。

初めて味わう恐怖という感情が、冷静に思考する力を奪っていたのだ。

思えば、初めての感情にいくつも直面して戸惑う。

ほんの少しだけとはいえ、人間を認める意識が芽生え、仲間というものを意識したのも初めてである。

そして今、恐怖という絶望を知った。


「ええ、その通りだわ。ここから一刻も早く離れなければ」


クトゥルーもそれに同意して、巨大になった体を元の大きさへ戻す。


「幸いヤツは我らを認識してはおらん。

 いや、我らなぞ、周りにいる異形の者と同じように映っているのだろう。

 金髪短小男の言う通り、闇の魔は我らに意識を向けておらぬ。

 撤退するならばいまのうちだ」


ヒュプテはいささか残念そうな表情を浮かべつつも、ダーツに同意する。


「ええ、ダーツの言う通りですね。

 エリュシオン王女が目覚めれば確認が取れるのですが。

 察するに、ここは王女が訪れたという世界ではないでしょうか?」



ダーツたちは辺りを見回し、初めて気づいた。

これまで見たことがない、天を覆うほどの巨大な建造物。

それはエリュシオン王女やアキラから聞いた情景(じょうけい)のイメージに似ていた。

白い霧の世界から、いつの間にか異世界へと渡っていたらしい。

魔神の放つ稲光(いなびかり)のおかげで、周りの景色が一瞬だけ見えたが、今は夜中のようだ。

白い闇の世界から黒い闇の世界に来たというのに、それすら気づかないほど全員の意識が漆黒の魔神に()きつけられていた。


しかし夜目が利かない人間では、撤退するにしても、足元を照らす明かりが無ければ大して動けない。

松明(たいまつ)は持っていないし、魔神が起こす雷光以外には、周りに明かりらしきものはまるでない。

ダーツたちは途方に暮れかけるが、ヒュプテが確信めいた顔で、明かりの魔法が存在しないかとアステリアに静かに問うた。


「あるわ。だけどあの闇の魔が光につられてこちらへ来ないかしら……」


アステリアが、らしくない心配を口にした。

彼女が常に心配するのは、アキラに関してだけのはずだ。


「あの魔神の周りには常に稲光(いなびかり)(またた)いています。

 それに巨大な建物が立ち並んでいて、魔神からの死角も多いようです。

 建物の陰に隠れながら移動すれば、微かな光であれば大丈夫でしょう」

「では、そうしましょう」



アステリアたちは静かに下がり、建物の陰へと移動する。

魔神の視界から死角になる陰に隠れ、ダーツたちはほんの少しだけ安堵(あんど)する。

が、そのときカノンが驚くべきことを言い出した。


「待ってください。アキラさんを置いていけません」


カノンは両の目から大粒の涙を流している。

ダーツたちはカノンの態度に、なにがあったのかと(いぶか)しんだ。


「どうしたカノン? それにアキラって!?」


アキラの名前が出たことでアステリアも食いついた。


「カノン! アキラ様がどこかにいらっしゃるの!?

 どこ!? 教えて!」


カノンに詰め寄り、肩を(つか)んでガクガクと揺さぶる。

顔がブレて見えるほど勢いよく肩を揺さぶられ、カノンが目を回し始めた。


「おち、おち、落ち着いてくださいませ」


ようやく揺さぶるのをやめてくれ、カノンはホっと息をついた。

それからカノンは建物の陰から顔を少しだけ出し、指さす。

指さす先には、いまだ怪物を踏み(つぶ)し、建物を次々に破壊する魔神がいる。


「どこにもいないじゃない」


アステリアは目を()らし、必死に辺りを見回して探すが、魔神の足元で逃げまどう怪物たちの中にも、それらしき姿は見えなかった。

思わずアキラの名を叫んで飛び出しそうになるアステリアに、カノンは信じがたい一言を告げた。



「あの漆黒の魔神、あれがアキラさんです……」



全員が我が耳を疑った。

しばらく誰も言葉を発することができない。

カノンの言葉の意味を噛み締め、考えを整理することに必死になる。

そしてようやく導き出された言葉はこれだ。


「――――は?」


誰がつぶやいたのか、(かす)れ声だったため判別がつかない。

だが、それは皆の疑問を代表した言葉だった。



ダーツはもう一度カノンに聞き直す。


「カノン、あれがアキラだとなぜわかる?」


黒い霧の件もあり、アキラは普通の少年ではないとは思っていたが、あの漆黒の魔神がアキラだと言われても、さすがに納得はできない。

なにより、悪魔であるなら、なぜアステリアたちが知らないのか。


カノンはゆっくりと首を左右に振った。


「わかりません、ただ……なぜかわかるんです。

 アキラさん、すごく悲しんでる……

 だから置いていけない」


ダーツにはワケが分からなかった。

皆の(にが)い顔を見ても、ダーツと同じ感想を持っているのは分かる。


「アステリア様、本当にあの悪魔を知らないのですか?」


ダーツの問いは、本来目上の者に言ってはいけないものであった。

すでにアステリアは魔神を知らないと言っている。

その言に対して、ウソをついているのではないかと、問いただすのと同義だからだ。

だがアステリアは自分への無礼はまったく気にしない。

これがアキラに向けられた質問なら、激怒しただろうが。

そのアステリアは、信じられないカノンの言葉を吟味(ぎんみ)しているようだった。


「ええ、知らないわ。

 あれがアキラ様ですって? ありえないわ……

 数千年の時を共に過ごしてきたのよ。

 何度も真の力を見たことはあるけど、決してアレではない」


クトゥルーもそれに同意する。


「我も同じだ。陛下の力は確かに途方もないものだ。

 しかし、あれは……

 わからぬ、あれこそ陛下の真の力だというのか?

 もし、そうだとするならば……」


クトゥルーの巨大な目が細められる。

その巨体からは想像がつかないような、静かな、とても静かな声で、ダーツたちへ預言(よげん)を授ける神のように(おごそ)かに告げた。



「――――我らは陛下と戦わねばならぬ」



クトゥルーの言葉で、ダーツたちは全身へ電流が流れたような衝撃が走り抜けた。


「た……戦う? な、なぜ?」


あのアキラに心酔しているはずのアステリアでさえ、クトゥルーを(とが)めなかった。

だがアステリアの体が恐怖からか、それとも悲嘆(ひたん)からか、大きく震えている。

クトゥルーでさえ、その巨体を震わせていた。


「貴様ら人間には分からぬか?

 アレは……死そのもの。

 全ての生命の敵といえる存在だ。

 我はこの世に発生したとき、すでに無敵であり、死からもっとも遠き生命であった。

 神と呼ばれ、(あが)められる存在であったのだ。

 長き年月を経て、忘れていた死。

 それをあの魔神は思い出させてくれた。

 我も所詮(しょせん)定命(じょうみょう)の存在なのだと」


アステリアの美しい顔が、まさに悪魔と言える顔に変貌(へんぼう)していた。

赤色に輝く目は吊り上がり、口は大きく裂けていた。

呼吸するたび、口から炎の息が吐き出され、怒りに燃える目はカノンを(にら)みつけている。

だがその形相とは裏腹に、声は静かに(つむ)がれた。


「カノン……もう一度聞くわ。

 あれは本当にアキラ様なの?

 もし、もし違っていれば……

 この世で考えられる最大の苦痛を与え、お前を八つ裂きにする」


カノンはアステリアの言葉に顔色が真っ青になるが、それでも首を縦にうなずかせて肯定する。

震えながらも、しっかりとした声でカノンは答えた。


「あれは、アキラさんです」


アステリアの体から力が抜け落ち、地面に(ひざ)をついた。

そのまま大地に倒れ込みそうになるのを、手をつくことで体を支えた。

感情の制御ができないのか、アステリアの顔が炎に包まれる。

そして美しい顔に戻ったかと思えば、また怒りの形相へと変わる。


「ううぅぅ……」


その大きな瞳から炎の(しずく)が流れ落ちる。

ダーツたちは呆気にとられ、アステリアを見つめた。

人間から見れば、あの魔神だろうと、アステリアたち悪魔だろうと大差なかった。

どちらも人間の敵であり、死をもたらす存在であるのは変わらないからだ。


死を与える者たちが、己を超える更なる死をもたらす存在を恐れ、悲しむ。

アステリアが最も敬愛し、愛する存在であるアキラが、実は自分たちを滅ぼす存在だと知って(なげ)く。


だが、アステリアがカノンの言葉をそのまま信じたのも驚きだ。

冷静に考えれば、ウソをつく意味がないとは分かる。

ダーツはカノンの言葉とはいえ、あまりに途方もない話に信じられないでいた。

だが、魔族たちは違うらしい。彼らはウソをつくというものがないのだ。


ダーツたちは知らないが、唯一例外があるとすれば、悪魔の紳士ルーシー率いる悪魔軍団であろう。

彼らは様々な嘘をつき、それを楽しむ傾向にある。

珍しい魔族だ。

それはルーシーたちが特殊だということにしか過ぎない。


本来、魔族はウソをつかない。

ウソというものは、弱いものが己を護るために使う。

中にはメリットのためにつくウソもあるが。

それも戦略という弱き者が使う知恵だ。

悪魔にはそんなものは必要ない。己の力を信じ、真向に戦う生き物だから。

アステリアにはカノンがウソをついてるとか、(だま)そうとしているとは微塵(みじん)にも思っていなかった。

先程の問いはただの確認でしかない。


「そうだったのね……アキラ様の目からは……

 私なんて、寵愛(ちょうあい)の対象ではなかった。

 ただ、滅ぼすべき下等な生物でしかなかったのね……」


ダーツにはアステリアの気持ちが少しだけわかった。

信じていた者が、実は自分を(だま)して楽しんでいたのではないか?

そう想像するのは、胸を切り裂くほどに苦しい。

それはアキラを悪魔だと思い込んで、突き放した時を思い出させる。

アキラを愛するほどに、その苦しみは大きくなり、耐えがたくなっていった。

今ではアキラが魔族であろうと、もうどうでも良くなっている。

すでに家族のように愛してしまったのだから。

あれがアキラだとカノンが言うのなら、それも受け入れる。

それがダーツの覚悟だった。

カノンも、本当にアキラを愛しているのだろう。

彼女もあのアキラを受け入れている。


「アステリア様、アキラ陛下は……そんなお人でしたか?」


ダーツの言葉を聞き、アステリアが(にら)みつける。

その顔は怒りとも悲しみともつかない表情をしていた。

その表情には覚えがあった。

アキラを殴り飛ばした時、ネロやカザリ、タイラーが同じ顔をしていた。


「陛下はあなたの話をするとき、(ほこ)らしげでしたよ。

 強く美しく、自分をいつも大切に思ってくれる存在だと」


「………」


「あの悪魔が陛下でもいいじゃないですか。

 いつものアキラ陛下を思い出してください……

 俺は思います。いつもの姿こそ、本当の陛下だと」


「知ったような口を……

 キサマ等にはわからんのだ。

 あれがいかに危険なモノなのか。

 死という存在そのものである、あの魔神は……

 すべての次元世界を滅ぼす。

 そう、私がいくら愛そうとも、陛下は私を殺す」


アステリアの炎の涙は止まらない。

だが……



「それでも……

 私は陛下が……」



彼女はまた美しい姿に戻り、微かに笑みを浮かべた。


「そうね。

 アキラ様になら、私は殺されてもいい」



そのとき、エリュシオンがようやく目覚めた。


「うう、こ、ここは……?」

「王女殿下、気がつかれましたか」


ヘイラは抱えていたエリュシオンを静かに下ろした。

ヒュプテが王女に(こと)顛末(てんまつ)を話す。



「そうか……迷惑をかけっぱなしですまぬ。

 ここは、私がタトスと一緒に来た場所だな。

 やはりあの白い霧にまぎれるとここへ送られるということか?」

「それはわかりません。

 封じられた次元を破り出られたのは、突然現れた魔神のせいかと思われます。

 今の状況からの憶測ですが」

「……なるほど」


エリュシオンが(くだん)の魔神を一目見ようとしたが、ヒュプテが止めた。


殿下(でんか)は見ない方がよろしいかと。また気絶どころか、正気を失いかねません」

「よいのだ。私はすでに一度目にしている」

「え?」


ダーツたちは首を(かし)げた。


「夢だ。夢の中であの魔王と話をした

 あの巨大なる恐るべき悪魔は、アキラ陛下だった」


ダーツは体が氷に閉ざされたように冷たくなるのを感じた。

顔色を見れば、全員が同じ心境であるのは理解できた。

エリュシオンの話、それはカノンの言葉を肯定することになる。

彼女の夢がただの夢ではないことを、ここに居る者は知っている。


エリュシオンは皆の視線を一身に受けていることに緊張を覚えながらも、はっきりと答えた。


「勇者メーヤ様を連れて来てほしいと言われた」


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