第4.5話「メイド」
*.5 となっているのは、当初予定してなかったエピソードです。これからもチョイチョイ入る予定。
キャラ補完などのために追加したものです。
ちょっと番外編的なのかなと。是非目を通してくだされば嬉しいです( ^ω^)
メイドの朝は早い。
日が昇る前から一日が始まる。
「はい皆さん、おはようございます。
では、今日も生き残りましょう!」
「「生き残りましょう!」」
セレアムメイド長の本日の目標を唱和した後は、各自の持ち場に移ります。
私はお城の2階の窓ふき。
「あ、カノン」
セレアムさんが声をかけてきました。
「はい」
「朝の給仕を済ませたら、いつものように陛下のお部屋に行ってください」
「わかりました」
ぺこっと頭を下げ、バケツに水を入れてモップと雑巾を用意します。
掃除の支度が整った頃、
「カノン、カノン!」
私の名前を呼んでるのは一番仲の良いミーシャ。
絶望しかないこの世界では、ミーシャが唯一の心のよりどころです。
綺麗な青い髪を三つ編みにした、猫のような釣り目の彼女は、
気の強そうなイメージを抱かせます。
ミーシャも私と同じく幼い頃にこの城に連れて来られた戦災孤児です。
魔族は戦争で生き残った者を、老若男女関係なくこの城に連れてきます。
有能な者は兵士へ、そうでない者はメイドへ。
「ねぇ、あんた、今日も陛下のところでしょ」
「はい」
「がんばってね! カノン」
「ミーシャ…大丈夫です。私、なんとかやってますから」
ミーシャはとても心配そうな表情を浮かべてます。
こんな場所でも生きていたいって思えてるのは、彼女の存在が大きい。
「よし、いつものいくか!」
「ええ」
「私たちの心得三カ条!」
私たちは声を揃えて、いつもの誓いを唱和した。
「「ひとつ! カノンより先に死なない!」」
「「ひとつ! ミーシャより先に死なない!」」
「「ひとつ! 一生友達!」」
私たちメイドは魔族の中でも最底辺のランクに位置します。
人間からは魔族と一括りに言われていますが、実態はさまざまな次元から
集められた異人種の集まりです。
それが魔族という総称になっているだけです。
魔族のヒエラルキーは下から
奴隷クラス、一般兵クラス、百人隊長クラス、千人隊長クラス。
これら兵士を束ねる実力者が軍団長となります。
軍団長の中でもっとも強いお方が、陛下をお守りする近衛騎士団長へ。
いまは何かの任務の為におられませんが、さらにそれを統括する元帥。
そしてすべてを支配し、頂点に君臨する魔族の王、アキラ陛下があらせられます。
メイドは魔族の中では奴隷です。
魔族にとっては強さこそが全てですから、人間より少し強い程度のメイドクラスは
ただの雑用や労役に回されます。
メイドクラスの中でも強い方、人間の一流冒険者に匹敵するメイドもいます。
一流冒険者とは数々の功績を上げた街の英雄レベルといったところでしょうか。
ただ、一般兵士の最低ランクに達するためには、人間でいうところの
達人クラスの強さは必要みたいです。
そうですね、一国で名の通った人物……でしょうか。あいまいでごめんなさい。
その上の方になると、その強さはさっぱりわかりません……
多数の次元から集められた一般兵士ですら、現在の総数は1万程度しかいません。
軍団が選りすぐりのエリート部隊であることを示しています。
ちなみにメイドはその何十倍もいて、私はその中でも上位のランクです。
普通の人間が鍛えたくらいの強さでしょうか。
魔族の王の居城レイスター城はとても大きいので、2階の窓ふき担当だけでも
100人以上おります。私もその一人。
キュッキュッキュ。
しっかり磨かないと。
私は死ぬまで窓ふき。
この先どれだけ生きられるかわからないけど……
それでも死にたくない。
だから今日も一生懸命窓を拭きます。
3時間に及ぶ掃除が終わると、今度は軍団の方々の朝食のお世話があります。
今日はアクリウムの次元に住むエラハム人のステーキと
眼球がたっぷりのサラダスープ。
これがいまだに慣れません…
上の階級の方ほど、人肉を好む傾向があります。
私たちメイドは、人間が主食としている穀物や家畜の肉、乳、
そして野菜などを食べます。
底辺の魔族は、感性や感覚も人間に近いんです。
ですので、食事の給仕はとても気分が悪くなります。
調理を担当するメイドはもっと大変でしょうね……
ガシャン
その時、グラスが倒れる音が聞こえました。
次の瞬間には、パァン! という音。
ミスをしたメイドが軍団の方に殺された音です。多分ミンチ。
これは日常茶飯事。
常に死と隣り合わせの雑用…それがメイドなのです。
それでもお城で掃除や洗濯、料理などを任されたメイドはマシな方です。
兵士の慰み物や農場、鉱山に回された奴隷クラスは、もっと悲惨な運命が
待っていると聞いています。
「今朝死亡した、ニーナ、メラリス、キスティス、シュリ、ポルトフ……に、
――――黙祷」
セレアムメイド長が静かに目を閉じます。
私たちも目を閉じ、同僚の死を悼みます。
まだ朝の仕事が終わったばかり…今日の仕事はまだまだ続きます。
眠るときに初めて気を抜くことが許され、今日も生きていたことに感謝します。
さようなら、ニーナ、メラリス、キスティス、シュリ、ポルトフ。
「ど、どうかなカノン?」
「はい、良いと思います」
いま陛下は、『第21回15年前の自分と比べてどお?』大会を開催中です。
私は陛下のお部屋の椅子に座らされています。
こんなことは許されないことなので、もったいないもったいない…と伝えると、
陛下がいいから座ってと仰るので、座りながら大会を鑑賞中です。
陛下のご帰還の日から私に窓ふき以外の仕事が増えました。
最初は陛下の身の回りには、朝のお召し替え係、謁見のお召し替え係、
お食事のお皿係、食器係、お風呂係、歯磨き係、本のページめくり係といった、
色々な役目のお世話メイドがたくさんいました。
ですが陛下はメイドたちのお世話を嫌がり、私だけでいいとおっしゃられ、
全ての身の回りのお世話を私だけでやることになったんです。
私より優秀なメイドや美人なメイドはおそばにたくさんいたのに、
なぜ私だけが残されて、もったいなくも陛下をお世話することになったのか…
いくら考えてもその理由が分かりません。
最初は胃に穴が空きまくりそうでした。
ご帰還されたばかりの陛下の身の回りを一人ですべてこなすなんて、
とんでもないプレッシャーです。
私の人生はそろそろ終わりかなと思いました。
だけど……
「ねぇ、カノン……さっきから良いと思いますしか言ってないんだけど……」
「はい、良いと思います」
「……」
腰に手をあててどお? 目線はどお? ズボンの脱ぎ方はどお?
陛下は次々と質問してきます。
ズボンのお召し替えはそもそも専用のメイドがやっていたはずですので…
まぁ、毎日色々細かくやってます。
昔の自分になるためにがんばられるって…変わったお方です。
15年前の陛下がどうだったのか? と聞かれても、
私にはほとんどわからないので、こんな返事しかできないのです。
それでもいいので見てほしいと仰られました。とても必死です。
「ボクは久しぶりに帰ってきたわけだから、色々忘れてるんだよ?
ほんとね、ずっと人間界で暮らしてきたからね……
だからきちんと思い出したいんだよ」
「はい、良いと思います」
「ぼ、ボクは真剣にやってるんだよ。
また王としての威厳をだね…
とにかくなんとかしないとバレ……げほん!」
「はい、良いと思います」
「ま、まぁわかってくれればいいんだけどさ……
ところでさ、ボクって15年前と比べてさ……立ち居振る舞いっていうのかな……
違和感とかどおかな? 喋り方とかさ……
だいぶ良くなってきたかな?」
「はい、良いと思います」
「え、ほんと? そっか…練習の甲斐があったのかな……
自信でてきた!」
「……はい、良いと思います」
「ふぅ、カノンのおかげで助かってるよ。ありがとう」
陛下は私に微笑んでくれました。
これまでにももう何度も私に笑顔を向けてくださってます。
メイドは命じられた仕事をするだけの存在です。
そんなものにお礼を言われるとは…なんて……もったいない……
――――変わったお方です。
陛下は私たちメイドと同じ献立のお食事を好まれ、いまは私が運んできた
朝食を召し上がってます。
「ん、今日もおいしいなぁ」
私と向かい合って座られ、微笑みをくださりました。
同じ席につくなんて許されない、もったいないことですが…
陛下はお喜びになられてます。
初めてお食事をお持ちした日の献立は、最高級の人肉料理でした。
絶対無理! 牛とか豚ならいいけど人肉無理!
料理の説明を始めると言下におっしゃられました。
その日の執務中、人肉料理を召し上がらなかった陛下のお腹が鳴る音を聞き、
不敬と思いましたが、私が豚肉を使った料理を作りましょうか?
と提案したところ、ぜひということになりました。
陛下は拙い私の料理を皿までたいらげる勢いで完食なさり、
その日から私が陛下のお食事係に任命されました。
「なんかいいよね……女の子の手料理」
陛下はそうおっしゃると、顔を少し赤らめてフフフっと笑いました。
魔族最高の存在であるお方が人間を食べたがらないのは……
やはり変わったお方です。
お食事は常に自室で召し上がられます。
というか、何か用事がない限り部屋の外からお出になりません。
陛下はヒキコモリみたいだ……とおっしゃってましたが、
メイドである私では、なんのことかわかりません。
軍団の方々はとても怖いのに……
その上に立たれる陛下は、全然怖くないのです。
いえ、本当はとても恐ろしい方と聞いています。
だけど、もう何週間も陛下のお世話係を務めさせていただいてますが…
私は……
「ねぇ、カノン」
「はい、なんですか? ミーシャ」
長い一日の仕事が無事終わり、仲の良い友人のミーシャと食事中。
食事中の日課、その日あったことの情報交換会が始まりました。
情報といっても、辛い出来事や悲しかったことのはけ口会。
ミーシャが…その方が気持ちが少し楽になるからってことで始めた会。
「あんたさ、最近表情が…なんか明るくなったね」
「…え?」
「なんか良いこと……あるわけないか。
もしかして、死を間近にしてなんか悟ったとか?」
「……」
ミーシャがその猫のような瞳で心配そうに私をじっと見ています。
私の表情が明るくなった?
何の希望もないこの世界で…
ただ殺されないためだけに生きるこの世界で?
そのとき、私の脳裏に陛下の笑顔がよぎりました。
「――――陛下……」
「え?」
ミーシャが怪訝な顔をします。
「え、あ……その……陛下がお優しいお方で……」
「……そう……」
ミーシャが厳しい顔つきになります。
「カノン、気を緩めちゃだめ。
上の方々にとって、私たちの命はゴミも同然なんだから……
油断したらあっという間に処分されるよ」
「……うん、わかってる」
そうだよね、やっぱり気をつけないとね。
私たちはゴミ……なのだから。
「それじゃカノン、今日もありがとう。明日もお願いね」
陛下がいつものように私に笑顔を向けてくださいます。
第24回15年前の自分と比べてどお? は今日も無事終了しました。
「はい、かしこまりました」
私は頭を深々下げ、お部屋から退出しようしたところ、
ふと、陛下の肩にゴミが付いているのに気がつきました。
「あ、あの陛下……肩の部分に埃がついております」
「え? あ、ほんと? 見えないな……」
陛下がパッパと手で払うも取れません。
「どお? 取れたかな?」
「いいえ、まだついております」
「あれれ……カノン悪いけど取ってくれないかな?」
「かしこまりました」
私がゴミを取ろうとした近づいたその時…陛下のマントを足で踏んづけてしまい、
陛下がイスから転げ落ちてしまいました。
あまりの出来事に血の気が引き、体が震えてしまい、謝ることも
忘れてしまったのです。
「はっ……はひ……ひぃぃ……」
思考は停止し、涙があふれ…私はいつの間にか床にへたり込んで、
失禁していました……
やっと思考が戻って来たときには、殺される……とだけ思いました。
友人のミーシャを思い出しました。
ミーシャごめんなさい……誓い守れない……
陛下は……
「あだだだ…
カノン、マント踏むなんてひどいや…
え? カノン!?
え、お、おもらし!? あ、ひょええ!?
は、初めて見た……
いやいや! 見てない! 見てないからボク!」
陛下は顔を真っ赤にし、両手で顔を覆ってしまいました。
私の顔は真っ青になったままで体の震えが止まりません。
陛下は私の様子がおかしいことに気がつき、私の肩をつかんできました。
「ん…? カ、カノン?」
私の肩をつかんだまま揺さぶっています。
殺されるっ……
「大丈夫、カノン!? どうしたんだ!? ケガ!?
体調が悪くなったの!?
だ、誰か呼ばないと……」
「――――へ?」
「カノン!? だ、大丈夫なの!?」
「え……? はへ?」
なぜ私が心配されてるんでしょうか……?
「あれ……私……まだ生きて……?」
「な、なに言ってるのカノン!? ほんとに大丈夫なの? 医者とかいるのかな。
だ、誰か呼ぼうか?」
「……」
「カ…カノン?」
「へ……陛下……お、お許しください……」
絞り出すようにやっと謝罪の言葉が出ました。
「え? なにが?」
「こ…転ばせたこと…私…その上、大切なマントにまで……」
「え? ああ、これの話か。こんなのどうでもいいよ。
それよりカノンが心配だ」
「……え……?」
陛下が本当に心配そうに見つめられていることに、ようやく気がつきました。
「大丈夫?」
「は……はい。申し訳ありませんでした……」
「……はふぅ……良かった……滅茶苦茶あせったよ……」
私はそのとき、自分が失禁していたことに初めて気がつき、
床にこすりつけるようにして頭を下げました。
「た、大切なお部屋を汚してしまって本当に申し訳ありませんっ」
「え? こんなのどうでもいいってば。
カノン疲れてるのかい?
しっかり休んだほうがいいよ」
「……はい……」
私がそう返事すると、陛下は私に……とても優しく……微笑んでくれました。
ミーシャ遅いな……
仕事が終了し、続々とお城のあちこちからメイドが帰ってきます。
今日の出来事をミーシャに言いたくてたまりません。
信じられない出来事のおかげで、いまも思い出すだけで鼓動が早くなります。
集まったメイドの顔を見渡すと、セレアムメイド長が静かに喋りだします。
「今夜死亡した、テミー……」
待って!! まだミーシャ来てないのに……
嫌な予感がよぎります。
「ハルナ、ヤララ…そして、ミーシャに
――――黙祷」
……は?
ミーシャ……? え、なんで?
私…今日すごいことあったのに……
なんで?
いつも私に向けてくれた猫のようにいたずらで暖かい瞳を思い出しました。
二度と帰って来ない親友……
私たちの心得三カ条……は?
皆、静かに黙祷をしている。
でも私は……黙祷もできず、ただ呆然としていました。
夜、毛布だけが敷かれた寝床に横になりながら、思い出しました。
幼い時に出会い、ずっと励まし合い、今日の朝まで一緒に生きた親友。
私は黙祷のあと、セレアムさんにミーシャがなぜ死んだのかを聞きました。
「彼女はなにも失敗はしてないわ。
ただ虫の居所が悪かった兵士に八つ当たりで殺されただけ」
そう、私たちはゴミ。
気まぐれに殺されても、なにも言えない虫けら。
虫けらだけど……私には大事な……大事な人だった。
私はこみ上げてきたものを吐いてしまいました。
陛下のことだってそうだ……
虫けらに対して、たまたま助けてやろう…そう思っただけなんだ。
人間にだってそういうことがあります。
たまたま踏みつぶすのをやめた……
神のきまぐれ……ただそれだけのこと。
「……カノン?」
「……」
「ねぇカノン?」
「え……、あ! はい、申し訳ありません!」
「……どうしたの? 今日、全然元気ないけど……
やっぱり体調悪いのかい?
今日はもう休んだ方がよくない?」
「い、いえ……
私なんて……虫けらですから……」
「……カノ……ン?」
私を心配そうなまなざしで見つめてくださる陛下。
陛下の優しさが苦しい。
神が見せる虫けらへのきまぐれ。
そんなものいらない……
そのきまぐれで、ミーシャが殺された……
きまぐれで私たちを苦しめるものたち。
希望を持たせ、その上で絶望を見せて苦しませる。
そして虫けらの苦しむさまを楽しむ。
涙があふれる。
自分という存在があまりにも哀れで……
ミーシャが哀れで……
止まらない。
陛下の御前なのに……
涙が止められない。
陛下がオロオロしている。
「カ、カノン……!?」
「へ……へいが……」
私の顔はひどいことになってると思う。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。
軍団の方なら、こんなメイドを見ればすぐに殺してしまうでしょう。
「へ……へいがは……わだじを……ご、ごろざない……んでずが……?」
「!? な、なにを言ってるの!
ボクがそんなことするわけが……」
「へ……へい……じゃ、わだし……が、陛下の…悪口、い、言っでも……?」
「そんなことで……
ボクはカノンが大事だよ。
キミのおかげで、色々助かっているんだ。
悪いところがあったら言ってよ。できるだけ直すから」
そんなバカな……
この人が本当に魔族の王なの?
ウソだ……
きっと王様じゃないんだ……陛下のウソつき……
じゃあ……心の中にあるもの全部、吐き出していいよね。
こんなの……いやだ……
ミーシャ……
いままで抑圧され、心の奥底にしまわれてきた思いが、
叫び声となってあふれ出しました。
理不尽に殺された友人。
たくさんの仲間が殺されたこと。
どういう気持ちでいままで生きてきたのか……
この瞬間にも自分は殺されるかもしれない。
でも……叫んでしまった。
私の心は止められない。
☆
「アステリアはいるか!?」
アステリアの居室の前にいたメイドに、怒鳴りつけるような剣幕で
声をかけるアキラ。
メイドは血相を変えて部屋の扉をノックする。
「アステリア様、陛下がいらっしゃいました」
部屋の中からドタバタ音がし、返事より先に扉が開かれた。
「へ…陛下!
おっしゃっていただければ、すぐにお伺いしましたのに!」
「すまないが、皆をすぐに集めてほしい。できるだけ早く」
「はい、かしこまりました」
アステリアは嬉しそうに頭を下げた。
アキラは謁見の間、その最奥にある玉座に座る。
眼下を見渡すと軍団全員が集まり、控えていた。
「皆、ご苦労さま。
今日皆に集まってもらったのは、ひとつ絶対に守ってほしいことが
あるからだ」
軍団は微動だにせず、アキラの言葉にじっと耳を傾けている。
「それは……
今後メイドたちを簡単に殺すことを禁じる!
理由もなく殺したり、些細なミスで殺すなど、絶対に許さない。
重大な命令違反があっても、その場の兵の勝手な判断で殺してはいけない。
絶対だっ!」
アキラは軍団兵が理解したかを確かめるように、全員をゆっくり見まわす。
「メイドたちはボクの宝だ。
それは軍団のお前たちも同じだ。
この城にいるもの、全てがボクの宝なんだ。
……以上だ!」
そう告げると、アキラはさっさと退出する。
軍団全員が頭を下げ、了承の意を示した。
カノンはアキラの言葉が信じられなかった。
メイドの命を……軍団と同じだと言った。
宝だと宣言した。
感情のままに訴えたことを聞き入れてくれた。
カノンは涙を流していた。
それは誰へ向けた涙だったのだろうか。
今まで大勢殺されてきたメイドへなのか。
親友のミーシャへなのか……
それとも……アキラへだったのか。
カノンには分らなかった。
だけど、今は胸がいっぱいになり、自然と涙があふれ出る。
カノンはふと気づいた。
周りにいるメイドたちも全員声を殺して涙を流していた。
☆
ボクの心臓は爆発しそうなほどドキドキしていた。
なんて大胆なことしちゃったんだ。
あんな恐ろしい化け物に命令なんて……
「うがー」
思わずゴロゴロとベットを転がった。
ただの人間だとバレないようになるべく大人しく部屋に引きこもっていたのに……
あんな恐ろしい魔族に命令を出しちゃったよ。
自分から刺激してどうするの……
でもカノンの涙に濡れた顔を見たとき、いてもたってもいられなかった。
「うん、これでいいんだ……」
ボクは勇気をだして良かったと満足した。