第33.5話「ヴァンパイア・前編」
ヴァンパイア編は3話続きますー。アキラたちが王都に着いた日のお話。本編の1日前です。
「ここが、誰もが憧れるあの冒険者ギルド!」
興奮気味のボクがいま来ているのは、王都エルドランの冒険者ギルドだ。
王都には今日着いたばかりだけど、真っ先にここを訪れたんだ。
当然、ダーツさん、ネロさん、カザリさん、タイラーさんが一緒だ。
カノンもついてきている。
なんのために冒険者ギルドに寄ったのか。
ダーツさんが言うには、ギルドの拠点がある街を訪れた冒険者は、
その街にしばらく滞在するよって登録が必要で、そうしないと仕事も
ギルドの恩恵も受けられないそうだ。
ギルドが運営している宿や食堂なんかが安く使えて、仕事や近隣の情勢についての
情報も仕入れることができるみたい。
当然、仕事の依頼を受けられるってのも恩恵のひとつだ。
それはさておき、冒険者ギルドの建物の大きさにはビックリした。
かなりの広さで学校の体育館くらいありそう。
それに建物の内部は、ボクが想像していた以上に立派だった。
石作りの建物はところどころ壁の表面が剥げていて、歴史と年代を感じさせる。
とても高い天井に向かって太い柱が何本もそびえ立っていて、
一番てっぺんはドーム状になっている。
建物のあちこちに精緻なレリーフが彫られていて、とても荘厳な印象を受ける。
広さだけじゃなくて、天井の高さもほんと体育館と同じくらいじゃないかな。
吹き抜けになったホールには、3、4人が並んで上がれる階段もあって、
見上げれば部屋が無数に並んでいる。
ボクが見たことあるアニメの中では、冒険者ギルドの建物って意外と
質素なイメージだったんだけどね。
ダーツさんが登録に行ったので、ボクはギルド内を見学することに決定。
興奮が隠し切れないボクのワクワクした様子に、タイラーさんが自分も
そうだったと教えてくれた。
「ここには夢と希望があふれているからな。
一攫千金を狙ってドラゴンや魔神を倒したいなんてのは、
子供のころなら誰でも持つ夢だ。
そのための出発地点が冒険者ギルドだ」
「ですよね! ボクもわかります。よく想像の中で、ドラゴンに立ち向かう姿を
思い浮かべてました。
苦楽を共にした仲間と強敵を倒していくんですよ!」
ボクが剣をぶんぶん振り回すジェスチャーをすると、皆が笑い出した。
カノンだけは目をキラキラさせてるけど、なんか余計に恥ずかしい……
ファンタジーアニメや異世界小説でよく見かける組織。
それは冒険者ギルド。
夢中になってアニメを見たよね。ボクの憧れだ。
女神さまにチート能力をもらって無双する。
とんでもない力を授かった元一般人がまず訪れる場所。
彼らは冒険者ギルドで仕事をこなし、力を認められていくんだ。
そして、いつしか世界の英雄になっていく。
素敵な冒険者の女の子と出会う場所もギルドだ。出会いの場所としても機能する。
なんて多機能なの。
そんな冒険の拠点に憧れない男なんて、男じゃない! そう断言したい。
だけどまぁ、本当にボクが異世界に来ちゃうなんて思わなかったけどね。
いざ来てみると、うん、まぁ無双なんて夢物語だ。
ああー、でもほんとに冒険者ギルドにいるんだ……夢のようだ。
「アキラ、あんまりはしゃぐとおのぼりさんみたいで、
なんだかこっちまで恥ずかしいぞ」
タイラーさんが笑っている。
「あら、それがかわいいんじゃない」
と、カザリさん。
男の子はかわいいって言われても嬉しくないですよ?
まぁ、妙にキョロキョロしちゃうのはワケがありまして。
ダーツさんの言いつけで、ボクは街中ではフードをすっぽり被って
顔が見えないようにしている。
冒険者ギルドに入ってもフードは被ったままで、フードの先端が
ボクの目より下にくるのでとても視界が悪い。
そのせいで辺りを見回すときにオーバーアクションになってしまう。
そういえば冒険者って強さの格付けってあるんだろうか。
ゴールド冒険者とかS級なんて称号あるのかな。
SSS級冒険者アキラ……思わずそんな呼び名を夢想しちゃう。
うっ! 妄想でヨダレ出そうになった。
強さといえば、ダーツさんに以前言われたことがあるんだけど、
戦いは相手が格上だからって絶対勝てないってことは無いんだって。
そのときの状況や体調、心の状態とか、色々影響するみたい。
常に100%の力で戦える方が珍しいそうだ。
相手に全力を出させないようにするのも大事な戦術らしい。
戦いとは水物。
油断をすれば一流の戦士だって一般人に負ける。
それが戦いというものだって。
イービルベアとの戦いがまさにそうだ。
熊が初めから本気だったら、カノンを守りたいっていう気持ちがなかったら……
少しの歯車の狂いで、ボクはこうしてここには立てていなかった。
お? 気になるもの発見。
壁に数々の依頼が羊皮紙が貼られている。
ボクは近くまで寄って思わず見入っちゃった。
これが結構おもしろくてさ。
依頼内容が文字で書いてあるんじゃなくて、モンスターと剣の絵が描かれてる。
箱が積み重なった横に馬の絵、なんてのもある。
多分、モンスターの討伐依頼とか荷物の輸送依頼とか、そんな感じじゃないかな。
文字はまだまだ一部の人しか読めないのかも。
まあボクだって文字で書いてあったら読めないんだけど。
「張り紙してあるのは貴族からの依頼だな」
依頼を食い入るように見ているボクに、ネロさんが解説してくれた。
「へー。そうなんだぁ」
「あっちの方には文字で書かれている依頼もある。
文字が読めるパーティーじゃないと仕事が受けられないわけだ」
なるほど。魔法使いだと文字も読めそうだし、魔法職必須の依頼なのかも?
「ほら、ほとんどの依頼はあそこの黒板に描かれている」
反対側の壁には大きな黒板がいくつも並べられていて、そこにはびっしりと
依頼の絵が描き込んであった。羊皮紙の依頼と比べると10倍以上の量だ。
「羊皮紙の張り紙は目立つが、その分、羊皮紙代だけでもコストがかかるからな。
コストをかけた依頼だけあって、内容は難易度の高いものばかりだ。
平民の依頼や簡単な仕事は黒板に描かれている」
冒険者っていうとモンスター退治や護衛、お使いとかなんでも屋っていうのが
ボクのイメージだけど、ネロさんが冒険者の本来の仕事を教えてくれた。
「数千年前は今よりもはるかに文明が栄えていた。
そうした文明の存在の痕跡が、世界中にある遺跡だ。
遺跡の柱1本とっても、いまだ永遠に光を放ち、夜の闇を明るく
照らし出しているものがある。
それほどの文明が残す遺物は、今の魔法では作り出せない
とてつもないマジックアイテムばかりだ。
貴族からの依頼は、大抵そうした遺跡に眠るマジックアイテムの収集だ」
「すごい……そんなのあるんですね。
遺跡探検かぁ。うう、行ってみたい」
ネロさんはボクの反応に苦笑しながらも、さらに詳しく教えてくれる。
いつもはネロさんって結構寡黙だけど、今日はよくしゃべってくれる。
もしかしてこーゆー話好きなんだろうか。
「厄介なのはそれを護り続ける守護者の存在だな」
「え、数千年経っても守り続けてるんですか。ゴーレムとかそんなのかな」
「良く知ってるな。中でも一番厄介なのはドラゴンだ。
最古の遺跡を護るのは、エンシェントドラゴンと呼ばれる十色の龍たちだ」
「ほへー……」
古代の財宝を守る伝説のドラゴン。これぞファンタジーって感じ。
想像するだけで興奮しちゃうね。
「いまだ龍を破った者はいないがな。
ゴーレムや魔獣が守る遺跡なら、攻略されたところもあるらしいが。
世界にはまだまだ無数の遺跡があるからな。
もしかすると、ドラゴン以上の守護者がいる場所もあるかもな」
良い! 冒険者良い!
絶対ボクも冒険者になる。それでいつかこの世界を探検してみたいな。
というか、すでに冒険の旅はしてるんだけどね。
魔族たちの勘違いの問題が片付けば、楽しい旅ができそうなのにな。
いつかボクはアステリアたちと戦う日が来るんだろうか。
それとも……
ネロさんが説明してくれた冒険者の仕事に感動しつつ、また張り紙を見てしまう。
張り紙や黒板を見て、ふと疑問に思う。
「報酬って書いてないみたいけど、金額ってどうなってるの?」
「奥のカウンターで依頼を受けたいと伝えたら、報酬の額を教えてくれる。
まぁ、黒板からの報酬額は大体決まってるがな。
羊皮紙の依頼は内容によってかなりピンキリだ」
「ネロさんたちは普段どんな仕事が多いの? やっぱり黒板の依頼?」
ダーツさんやネロさんが苦笑してる。なんか変なこと言ったかな?
タイラーさんがニヤリと笑い、答えてくれた。
「俺たちは羊皮紙専門さ」
「えー! すごい!」
「ま、いつでもってわけじゃないがな。
ダーツの気分次第で羊皮紙以外の依頼を受けることもあるがな」
はふぅ、やっぱしダーツさんたちは凄腕の冒険者だったんだなぁ。
旅の途中で盗賊をあっという間に倒したのは見たし、
ボクを守りながらイービルベアーと戦ったのも目撃したけども……
実際どのくらい強いんだろう。
周りにいる屈強そうな人たちを見て、心が浮き立つのを止められません。
ボクもネロさんたちと一緒にいて、冒険者仲間って思われてるのかな?
黒いローブを着てるし、凄腕の魔法使いとか……
ちょっと思わせぶりにポーズつけてみようかな。
腕を前に突き出し、体の前で交差させて背筋を反らせてみた。
イイ感じじゃない?
「アキラ、何踊ってるんだ?」
ほう、これが踊りに見えるのかねタイラーくん。君の目は節穴だね。
それはおいといて……恥ずかしくなったのでやめました。
なぜって? カノンが同じポーズを取りだしたからです。
なぜ真似をした?
なにはともあれ、客観的に見たら恥ずかしいって気づけて良かったけどね。
いくら格好つけても、どうせ周りからはタイラーさんたちが連れてる
子供くらいにしか見えてないんだ。
もしかすると親子連れだとか、そんな感じに思われてるだろうさ。
ボクにはわかるんだ……
はふぅ。
銀の輝きがチラチラ動いている。
実はさっきから視界の端に気になる子が映ってるんだよね。
銀髪のツインテールですっごい美少女。年齢は10歳くらいなのかな……
さっきからいろんな冒険者に話かけては、追い払われている。
気になる。
気になるといえば、ボクがその美少女を目で追いかけ始めてから、
カノンが不機嫌そうにしてるのも気になる。
何も言わず、じーっと責めるような目が怖い……
いや、え? なんで?
もっと王様らしくしろって意味なのかな。わからん。
って、あ、また冒険者の人たちに追い払われてる。
うーむ、一体何を話して拒否されてるんだろうか。
こんな場所に幼い女の子。
その謎はほどなくして解ける。ボクたちの前にその女の子が来たからだ。
銀髪ツインテールの女の子は、ボクたちをじーっと見た後、
とんでもないことを言い出した。
「ね、ヴァンパイア倒して。
それがあなたたちのデスティニー」
ヴァンパイアですと?
ほほう……つまり吸血鬼。
そんなものがこの世界にいるのか。まぁ、いても不思議じゃないけども。
ゾンビと同じくホラー界の超有名モンスターだ。
滅茶苦茶やばいイメージがあるけども。
それを倒してというこの少女は、一体なんの目的があって?
この世界ではヴァンパイアってそんなに強くないんだろうか。
カザリさんがやさしく微笑んでから、しゃがんで少女と目線の高さを合わせて
語りかけた。
「それって依頼? さっきから手当たり次第に冒険者に話てるみたいだけど」
少女はコクリとうなずいて、小さな手に握っていた銀貨3枚をボクたちに見せた。
「これで、倒してほしい。
あいつの住処もデストロイ」
ネロさんが考え込むように腕組みすると、困ったような顔をして皆を見回した。
「ヴァンパイア討伐といえば、エルドラン金貨100枚の仕事じゃなかったか?」
タイラーさんもカザリさんもコクコクとうなずいている。
ちなみに、エルドラン金貨1枚あれば、豪華な宿に1か月くらい泊まれます。
銀貨1,000枚で金貨1枚分。銅貨1,000枚で銀貨1枚。
食事一回分が大体銅貨50枚くらいだ。
銀貨3枚だとヴァンパイア退治にはまったく足りないけど、
小さな女の子にとってはとても大金ってことになる。
なるほど、だからさっきから追い払われていたのか。
しかし金貨100枚の仕事って、どんだけヴァンパイアやばいの……
カザリさんはやさしい口調で理由を少女に聞いている。
さすがカザリさんだ。他の冒険者のように無下に追い払わないあたりが、
とっても素敵だ。
「ところで、お嬢ちゃんのお名前は?」
「アリス。アイアムアヒューマン」
「そっか。アリスちゃんはなんでヴァンパイアを退治したいの?」
アリスちゃんは無表情のまま、淡々と答える。
「お姉ちゃんが冒険者なんだけど、ヴァンパイア退治に行ったまま
帰ってこなかった。さよならグッバイ。
仲間たちも帰ってこなかったし、多分全滅。
1週間前、お姉ちゃん私の前に現れて、ガブリンチョって噛みつこうとした。
なんとお姉ちゃんはヴァンパイアにされてて、
必死に朝まで逃げながら隠れた今日この頃。
このままじゃ私も今日からヴァンパイア。
だから殺してほしい。お願いヘルプ。」
平然と言ってるわりに、とんでもない内容だったぞ。
それに言葉もわかりづらい……というかはっきり言って変だ。
この辺の子がみんなこんな喋り方だったら、うまく会話できる自信がない。
チラっと皆の様子を見てみると、困ったような、突き放せないような
なんとも言えない表情をしてる。
うん、反応に困るよね。
カザリさんがガバっとアリスちゃんに抱きついて、頭を撫でてる。
「怖かったわね……かわいそう……」
「うざいおっぱい、でかいの嫌い。おっぱい退散」
アリスちゃんは無表情のまま、カザリさんを引きはがそうと抵抗してる。
カザリさんはまるで意に介した様子もなく、頭を撫でながら皆を見回した。
「今の話だと、羊皮紙の依頼はなさそうね。
順当に行けば、騎士団の仕事になるんじゃない?」
「騎士団のとこには行った、けど追い返された。ゴーアウェイ」
まぁ、そうなるのかもしれない……
「とりあえず、ダーツさんに相談……してみます?」
ボクがそう提案すると、タイラーさんとネロさんが手を額に押し当てた。
登録を終えて戻って来たダーツさんが、アリスちゃんの話を聞いて一言。
「受けようじゃないか」
さすがダーツさん……うぅ、大好きすぎる。
でもタイラーさんとネロさんは頭が痛いのか、こめかみを中指でグリグリ。
風邪なのかな。
ボクはアリスちゃんに微笑んで良かったねと声をかけた。
「うさん臭い黒ローブ、感謝する。サンキュー」
Oh! うさん臭いとは……
まぁ、室内でもフード被ったままだし、そう見えるのも仕方ないけど。
ネロさんとタイラーさんは不満そうな顔はしてるけど、反対は別にしてない。
カザリさんはニコニコしてる。
もしかすると2人が納得できない仕事を受けるのは、よくあることなのかな。
さっきタイラーさんが言ってたからね。
ダーツさんの気分次第で、羊皮紙以外の依頼も受けるって。
あとは実際問題として、ボクたちがヴァンパイアに立ち向かえるのか?
そこ、最大の問題だよね。
「ヴァンパイアって、どのくらい強いんですか?」
ボクのイメージだと相当ヤバイやつなんだけど……
もしかしてこの世界じゃザコ……は、ないよね、金貨100枚だし。
ダーツさんが少し考えこんでから、周りの冒険者をざっと見渡してる。
「今ここにいる冒険者が全員で挑んで、7割は帰って来れないかもな」
「はひぇっ? ええええっ!?」
変な声でちゃった。だってここには何十人も冒険者がいるんだから。
「そ、そんな仕事受けていいんですか!?」
「じゃあアキラ、この子を見捨てるか?」
「見捨てるわけじゃないじゃないですかっ!」
ボクは即答する。
アリスちゃんはポカンとしてボクをじっと見た。
ネロさんもタイラーさんもカザリさんも、皆がやさしい目でボクを見てくれる。
カノンもニコニコしてる。
「じゃ、やるしかねぇな。
まぁ心配するなとは言わないが、さすがに何も勝算がなくて引き受けるほど
バカじゃねえぞ」
「アリス!」
声をした方に振り向くと、太った中年のおばさんがこっちにやってきた。
「あ、ファットピーポー。いや、おばちゃん」
「まったく、また皆さんに迷惑かけて……
ほら、頭下げて、ごめんなさいしなさい!」
おばさんに頭をグイグイ押さえつけられて、アリスちゃんは無理やり
頭を下げさせられる。
保護者なのかな。
「あ、あの……?」
「すみませんねぇ。この子、またヴァンパイア退治の依頼してたんでしょ?
1週間ほど前からこの調子でして……
冒険者ギルドからも注意を受けてるんですよ」
おばさんがとっても申し訳なさそうに頭を下げて謝罪する。
「確かに依頼はされましたけど……」
「だっておばちゃん、お姉ちゃん早くやっつけないと、私今日からイズデッド」
「お姉ちゃんって、近所のマリアちゃんでしょ?
マリアちゃん、帰ってきてからずっと体調崩して寝込んでるじゃない」
あ、お姉ちゃんって本当の姉じゃないんだ。近所のお姉さんだったのか。
まだ子供だからなのか、説明が足りてない。
「だってお姉ちゃん、夜這いしてくるんだもん」
そこは夜襲じゃないの?
「とにかく、ほら、帰るわよ。
皆さん、本当に申し訳ありませんでした。それでは失礼します」
おばさんはぺこぺこ頭を下げながら、アリスちゃんを引きずって帰っていく。
嵐のように過ぎ去っていったおばさんとアリスちゃんをポカンと見送るボク。
「えっと、この件どうすれば?」
カザリさんがボクにニヤリと笑いかける。
「アキラちゃん、気がつかなかった?
あのファットピーポー、失礼、おばさんの口内に一瞬だけど牙が見えたわ。
カザリお姉さんの目は誤魔化せないわよぉ」
「そ、それって……」
「ヴァンパイアの奴隷にされちゃってるわねぇ」
「でも、お昼なのに外に出られるの?」
「お、良く知ってるわね。えらいわー。さすがアキラちゃん。
ヴァンパイアやその眷属は夜にしか行動できないけど、
奴隷化された者は昼でも活動できるのよ。
自分たちの弱点を補うために作られた配下の化け物ね」
「じゃ、アリスちゃんヤバイじゃないですか!
早く助けに行かないと!」
「ヴァンパイアは夜に行動するから、今すぐどうこうはされないわ」
「じゃ後をつけないと……」
「うふふ、あいつら鼻がいいからね。尾行しても見つかっちゃうわ。
というわけで、コレを付けたわけ」
カザリさんの手には糸車が握られていた。
今もカラカラと回っている。
「じゃじゃーん、わが国に伝わる忍術道具。
追跡くんよ」
おお、アリスちゃんに糸をくっつけてあるんだ。
「でも、ここにはいっぱい冒険者がいるし、倒しちゃえば良かったんじゃ?」
「ヴァンパイアの奴隷は厄介なのよ。
正体ばれたと認識した途端、ドカンと爆発するの。
ここにいる人間にも結構被害出ちゃったかもだし、
なによりアリスちゃんがあのおばさんのそばにいたから。
さくっとやることもできたけど、万が一にも失敗は嫌だからね。
奴隷化した化け物をやるには、人気のない場所でこっそりと」
なるほど、確かに厄介そうだ。
さすが、慎重なんだな。
やれる可能性はあっても、100%じゃない。
今すぐに訪れる危機でなければ、リスクを冒す必要もないってことだよね。
ダーツさんはよっこらせと言いながら、皆を見回した。
「じゃ、ヴァンパイア退治といきますか」