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第33話「白い闇」

「どうしたアキラ?」


ダーツさんが後ろを振り返り、立ち止まったボクを不思議そうに見ている。



ボクたちは昨日王都エルドランについたばかりだ。

朝食を終えて宿屋から外出したんだけど、王都の朝だけに人通りは多い。

人口20万人ほどだっけか。街の大きさもカケイドの何倍も大きい。



「あ、ごめんなさい。

 すっごい綺麗な女の人がいたんでつい……」


カザリさんとカノンの目つきが冷たい。ついでにタイラーさんの視線も。

え……なんで?

ダーツさんはキョロキョロしていた。


「おいおい、どこだ? 美人なんていねーぞ?」


聞きようによってはとても失礼な発言をしている。


「今、ボクたちとすれ違ったじゃないですか」

「あん?」

「ほら、今もそこに……って、あれ? いない……」

「ってかアキラ、お前は目立つから外ではフード被ってろって言ったろ」

「あ、ごめんなさい」


なにが目立つのかわからないけど……

ダーツさんが言うには、目立たないこと、それが長生きの秘訣(ひけつ)……らしい。

まぁボクのこれからの仕事……つまり、勇者メーヤの仕事を引き継ぐことを

考えれば、確かに顔を隠す方が方がいいね。

アステリアからもらった黒ローブを着てフードも被ると、

なんか怪しい魔法使いみたいだ。

こっちの方が目立ってない?


「しっかし、そんな美人が目の前を通れば、気がつかないわけが……

 で、どんな感じの美人だったんだ?」

「えっと……髪が青色で、肌も白くて……服も青かったです。

 まるで水の妖精みたいというか……」


カノンたちの視線がもう氷のように冷たいんだけど……なんで?


「ほう……そんなのいたっけかなぁ……

 しかしアキラ、お前も女をチェックしてるんだな」

「え!? いや、そんなわけじゃ……」


カザリさんとカノンがいつの間にか先を歩きだしている。

タイラーさんも……

ネロさんが、ヤキモチだなあれは……とボクの背中を叩いた。

カザリさんとカノンはなんとなくわかる気がするけど……

じゃあ、タイラーさんは? とは考えないことにした。

ボクたちもカノンたちの後を追って歩き出した。



でもあの青い髪の女性……なんかボクに言いたそうだったなぁ。

なぜか妙に気になる人だった。

綺麗なのはもちろんだけど、はかなげで今にも消えてしまいそうな。

なんていうか、この世の者じゃないというか……



ダーツさんは今も辺りを探している。

異常に視力がいいからなぁこの人。4.0以上はあるんじゃないかな。

前にも点にしか見えないほど遠くにいるニソクウサを、短剣投げて

頭に命中させてたし。

そうすると、弓使いのネロさんもダーツさん並みか、それ以上なんだろうか。

……みんなすごすぎだ。


「あはは。ダーツさん、どこか建物の中に入ったかもしれないし」

「うーん、アキラの好みの女ってのを一目見たかった……」


だからそういうこと言わないで……

ああ、カザリさんとカノンの氷のように冷たい視線で凍り付きそうだ。

ほんと誤解ですってば。変な目でほかの女性を見てませんったら。

ついにでタイラーさんの視線も冷たいのだが……ボクはあえて見なかったフリ。


ダーツさんがボクの背中をバンっと叩く。


「っていうのは冗談で、ここでも謎の死者事件が起こってるんだ。

 お前だけに見えてたってのも気になる。魔族の可能性もある。

 気を抜くなよ、アキラ。

 その女、また見えたら教えてくれ」

「は……はい……」


確かにそうだ。

気をつけないと……





ボクたちは今、王都エルドランで事件になっている【死者の声事件】の噂を聞いて

この街にやってきた。

カケイドの街に死者が現れた同じ日に、王都でも死者の声事件だ。

偶然とは思えない。


ボクの基礎体力を高める目的も兼ねて旅をしてきたせいで、王都に着くまで

1か月以上かかった。普通は1週間ほどらしい……

はぁ……どんだけ体力ないんだボク。

これから勇者メーヤの代わりして、あちこちを回ることになる。

ダーツさんたちが着いてきてくれるけど、自分の身くらいはある程度守れないと、

いざという時に足手まといになってしまう。

それに魔物に襲われた村へたどり着くのに時間がかかり過ぎたら、

村が全滅してるってこともあるかもしれない。

なにより……

チラリとカノンを横目で見る。

カノンを守っていきたいから……強くなりたい。


王都では少し前から、死者が家に帰ってきたって事件でもちきりになっていた。

その情報を集めるため、今皆が動いてくれている。

ボクも情報集め……とはいかなかった。

当然だ。ボクはこの世界のことをなにも知らない。なにもできないんだ。

いつもながらの足手まといっぷりだよ……

だけど、別の仕事がボクにはあるのだ。


皆それぞれの仕事のために散っていく。

ネロさんとタイラーさんは冒険者ギルドでの情報収集。

カザリさんは街中で人々の噂話を集めに行く。

カノンは皆の装備や衣服の手入れをしてくれている。


ボクはというと……剣術修行だ。

カケイドの事件が終わってから、ずっとダーツさんに剣を教えてもらっている。

それがボクの今一番やるべき仕事になっていた。


「ぼやぼやするな。早く移動して特訓するぞアキラ」

「はい!」


大きい剣は持つのも大変だったので、ショートソードの扱い方がメイン。

なかなかスジがいいと褒めてもらい嬉しかった。

というか、ただでさえ足手まといだし……少しでも強くならないと。

とにかく最低限の護身と体力……だね。





「はぁ! てぇりゃああ!」


カンカンという剣戟(けんげき)を響かせて今日も修行中。

街道から少し離れたところに大きな寂れた屋敷があった。

お化けが出そうなほどの廃墟っぷりで、その中庭で特訓中だ。

貴族のお屋敷だったけど、没落して今では主がいないそうだ。

ここなら誰もいないし、思いっきり特訓ができる。

ボクは目立ったらダメだから大っぴらには修行できないからね。

ダーツさん、よくこんな場所知ってるなぁ……さすがだ。


ボクたちが使ってるのは模擬戦用の木剣だ。

斬れないだけで当たると当然痛い……どころか骨折しかねない。

でもダーツさんに打たれても、痛いくらいで済んでるのは、

かなり手加減してくれてるんだろうな……

ボクは本気で向かっていってるのに、手加減してるダーツさんに

まったく太刀打ちできない。

いくらダーツさんが歴戦の戦士でも情けない……


「ほら、隙ありだ」


左太ももに剣が当たる。


「いだぁぁぁい!」


って、これボクの悲鳴じゃないし。

ダーツさんの声だ。お尻を抑えている……


「ダーツさん……痔ですか?」

「ち、ちげぇ……」


お尻に刺さった手裏剣を見せてきた。

え、手裏剣……

そしてどこからともなくカノンが現れる。


「痛いの痛いのとんでけー」


ボクの左太ももをナデナデしながらやさしく労わってくれる。

すると、本当に痛みが消えるから不思議だ。

魔法なんだろうか。

カノンに心配そうな瞳で見つめられる。

「がんばってください……」と一言残し、名残惜しそうに去っていく。

ダーツさんのこめかみに血管が浮きだす。


「カザリ! カノン! お前ら自分の仕事しやがれ!」


カザリさんの姿は見えないけど……



「アキラ、とにかく練習再開だ」

「お願いします!」


ダーツさんの振り下ろしてきた剣を、ボクは頭上に掲げた剣で受け止める。

まともに受けると手が痺れて剣を落としてしまう。

なので、刃先を若干斜め下にずらして受ける。

小柄で腕力がないので受け流すことに集中しろと言われた。

敵の体重が乗った攻撃を受け流せば、重心がぶれて大きく体勢を崩せる。

受け流した側は、その隙に攻撃に移れる。


ダーツさんはボクの動く速度に合わせて攻撃してくれている。

とにかく考えなくても動けるように体に叩き込むそうだ。

いくら動きに合わせてくれているとはいえ、反応が遅れれば……

ボクの左肩に剣が当たる。


「いだぁぁぁあああ!」


いや、これもボクの悲鳴じゃないし……

ダーツさんが四つん這いになって、お尻から手裏剣を抜いている。

手裏剣……シャレになってない気がする。

カノンがまたどこからともなく走ってきて、ボクの肩をナデナデしてくれる。


「痛いの痛いのーとんでけー」


ダーツさんが恨めしそうにこっちを見ている。


「むしろそれ、俺の尻に頼む……」



「よし、ダーツさんまだまだいけます!」


剣を構えなおしたけど……ダーツさんは四つん這いのまま起き上がる気配がない。


「おわりだ……」

「え?」

「今日は俺がこれ以上無理だ……」


うーむ……カザリさんとカノンに、邪魔しないように言っておかないと。

いや、今までの特訓でも同じことがあったんで、注意したんだけどね……

全然効果がないなぁ。

王都エルドランに着くまでの道中では、みんなの前で特訓をしてきた。

ボクが攻撃をくらうたび、カザリさんがケリをいれてたんだけど……

今日は手裏剣だからなぁ。

訓練してると、ボクだけじゃなくてダーツさんもボロボロになる日が続いていた。

しかしカザリさんはどこに忍んでいるんだろう。

ダーツさんに攻撃あてるなんて、さすがだなぁ……



特訓を終え帰り支度をしていると、20人ほどの騎士が馬に乗って

ボクたちに近づいてくる。

ボクは急いでフードをかぶる。

ダーツさんはボクを庇い、騎士たちの前に立った。


「なにかご用ですか、騎士様?」


騎士が左右に分かれて、男の人が一人出てきた。

ダーツさんのように気だるげな雰囲気を漂わせた人だ。

偉い人……なんだろうけど、市民と同じ服を着てて高貴な印象はまったくない。

丹精な顔立ちに無精ひげが目立ち、とにかく地味……だった。



「やぁダーツ。久しいね。打ち合う音が聞こえてきてね。

 何事かと寄ってみたら、懐かしいキミの顔があるじゃないか」


え、街道からだいぶ離れてるのに、木剣の打ち合う音が聞こえた……の?

そんなバカな……


「……これはヒュプテ様じゃないですか。お元気そうで何よりです。

 音が聞こえたなんて白々しいですね……

 どうせ、どこからか見てたんでしょ? あなたの目である者たちが」

「ははは。懐かしい友が久しぶりにこの街を訪れたんだ。

 そりゃ、なにをしにやってきたのかなと気になるじゃないの」


ええ? なんの話なの?

ヒュプテと名乗った男は馬から降り、ダーツさんの肩をバシバシっと叩いている。

友達……なんだ?

ヒュプテさんは嬉しそうにしてるけど、ダーツさんは少し緊張してる。


「キミが私の騎士団を抜け、どれだけたったかな?」

「さあ……5年くらい……でしたかね?」

「惜しいね。6年2カ月と14日だ。

 冒険者に戻って、より多くの悪魔を倒すと言っていたキミだが、

 そんなキミが王都に戻って、少年に剣の訓練を(ほどこ)している。

 実に興味深いじゃないか」

「ま、俺も年ですかね。そろそろ弟子でも……と」

「そこのキミ、名前は?」


急に話を振られてドキっとしてしまう。

ダーツさんを見ると、静かにうなずいてくれたので名乗ることにした。

ヒュプテさんの目が細められ、ボクを見た。


「ア、アキラ……です」

「ほう、なんと涼やかな声だ。

 まるでカケイドの黒い霧すら吹き払ってしまえそうだ。

 神々しささえ感じる声だね」


その言葉に反応して、無意識にほんの少しだけ後ずさった。

な、なんだ? この人なにか知ってる……とかじゃないよね? 偶然かな……

ヒュプテさんはボクをじっと見て、眠そうだった目をさらに細めて微笑む。


「その声の持ち主の少年についてもっと知りたいね。

 どれ顔を拝見したいが」


ヒュプテさんがボクの顔を覗こうと手を伸ばし、間にダーツさんが割り込む。


「そりゃ関係ないでしょ。で、なんの用なんです?」

「おっと、こりゃすまないね。

 なるほど、これは面白い。

 キミがカケイド事件の重要人物なのかい?」


核心を突くような言い回しにビクリと体が跳ねてしまう。

ボクの頬に汗が流れる。


「あとで君たちを我が屋敷へ招待しよう。

 ぜひ黒い霧の話など、詳しく聞かせてくれたまえ」



なんなんだ、この人……

ボクたちは黒い霧に関して何も言ってないのに……

なぜ見てきたように断定するんだ。

地味だと思ってた外見が今では恐ろしい姿に見えた。

ただのカモフラージュだ。

ボクはダーツさんのマントのスソを掴み、力を込めて握ってしまう。


「ああ、それから、実はね。リーネ村で噂の黒い霧が出現したと聞いてね。

 今から調査に行くんだよ。

 キミがいるんだから行く必要なくなったかな? はっはっは。

 まぁ、一応現場を見ておきたいしね。

 リーネ村の件も後で詳しく聞こうか」


得体の知れないヒュプテさんに、ボクのヒザが微かに震えた。



リーネ村……

村に入る少し前だったんだけど、ボクたちは野盗の集団に囲まれたんだ。

お金とボクとカザリさんとカノンを置いていけって、でないと殺すと脅してきた。

みんなの命を奪うと脅しただけでなく、カザリさんとカノンを要求した。

彼女たちが野盗に連れて行かれたら、どんな目に合うのか想像に難くない。

カノンやカザリさんが男たちに凌辱される姿を思い浮かべた瞬間、

猛烈な吐き気がし、抑えきれない怒りが火山の噴火の如く爆発した。

その瞬間、ボクの体から黒い霧が出ちゃったんだ……

黒い霧はあっという間に広がっていった。

野盗たちはダーツさんたちがあっさり全滅させた。

突如現れた黒い霧に驚いた野盗たちの隙をついて、瞬く間に倒していったんだ。

ダーツさんたちってやっぱりすごく強い……

カザリさんが、私たちは大丈夫、無事だからねって優しく抱きしめてくれて、

カノンにも優しく微笑まれて、次第に心が落ち着いていくと、

黒い霧もゆっくりと晴れていったんだ。

人間の嫌な部分を見ると過剰に反応しちゃうみたい。

っていうか、黒い霧……リーネ村まで広がってたんだな……

何の被害もなくて良かった……ほんと気をつけないと。

もっと強く自制心をもたなくちゃ……



ダーツさんが厳しい顔つきをして、腕を組みをする。


「あとで屋敷に伺いますよ……」

「ははは。歓迎の準備をしておくよ。

 さて、そろそろ行くとしよう。あまり時間がないのでね。

 そこの少年、アキラくんかな?

 甘美なる時間を共にゆっくりと楽しもうじゃないか」



ボクたちはヒュプテさんたちが去っていくのを見送る。

ダーツさんに気になったことを聞いてみた。


「ヒュプテさんって……ダーツさんの友達?」

「あー、友達というか……あいつの身分も知らず、一緒に冒険したことがあってな。

 そのあと騎士団に誘われた。

 知識欲が半端なくてな……知りたいことがあれば、なんでもやっちまう。

 あいつの良い所でもあるが、悪い所でもある。

 知識欲とはいえ、欲は欲だ……行き過ぎはダメってやつさ」


ダーツさんが少し厳しい顔をして彼らを見送っていたので、

これ以上は聞くのをやめる。


あ、あとひとつだけ気になったことが……


「あの、黒い霧のこと……偶然?」

「いやらしいやつさ。

 カマをかけてきたんだよ。

 今日出会うやつ全員に黒い霧の話を振ってるはずだ」

「え……そうなんだ?」

「あれは、反応を見てるのさ……

 まぁ、どうもばれちまったらしいけどな。

 あの人の前では、なにもかも白日の下に晒されちまう」


たったあれだけで、ボクのことわかったんだ。

なんて恐ろしい人なんだ。

この先、あの人の前でボロを出さずにいられるだろうか。

ボクがそう考えこんでいると……


「あいつはその知識欲さえ満たしてやれば敵じゃねぇ。

 むしろ心強い味方になってくれるぞ」


なるほど……ダーツさんは元々そのつもりだったのだろうか。

でも、ヒュプテさんのこと好きじゃなさそうだけど……



ヒュプテさんが去っていったのを見送った後、中断された帰り支度を再開する。

でもダーツさんがお尻にダメージを負ってるせいで、なかなか(はかど)らない。

やっぱりカノンはダーツさんのお尻もさすってあげた方がいいんじゃないの……

時間はかかったけど、準備が整って宿屋に向かって歩き出そうとしたところで、

ヒュプテさんと騎士の人たちがこっちへ戻ってくるのが目に入った。

っていうか、すごい勢いで走ってくる。なにかあったんだろうか?

ダーツさんもいぶかしんでる。


「ダーツ、アキラくん、私の馬に乗れ!」


ダーツさんは迷いがなかった。

ボクをヒュプテさんの前に押し上げ、ダーツさんは後ろに乗った。

ダーツさんは大声を上げた。


「カザリ! ネロとタイラーを呼んで宿屋で荷物整理して待機しろ!

 カノン! すぐこっちに来い!」


木の陰に隠れていたカノンが走ってきた。

ヒュプテさんが後ろにいた女性騎士に声をかけた。


「ヘイラ、その女の子を乗せてやってくれ」

「はい」


ヒュプテさんはすぐに馬を出す。

ヘイラと呼ばれた女騎士や他の騎士の人も後ろから続く。

ダーツさんが声をあげる。


「一体どうしたんですか!?」


ヒュプテさんは後方を指差す。


「あっ!」


ボクはそこの広がっているものを見て、思わず声を上げた。

真っ白な霧が立ち込めていた。

黒い霧の次は白い霧って……

いや、霧って白いもんだけどさ……

だけど……あれ普通の霧だよね?

ボクは気になったことを思わずそのまま()いてしまう。


「き、霧がどうかしたんですか?」


ヒュプテさんが答えてくれる。


「ふむ、キミがそう思うのは当然だ。

 あとで詳しい話をするとして、あれはヤバイ。

 恐らくあれが神隠しの原因だ。

 このタイミングで現れたんだ。普通の霧だと思う方がどうかしてるね」


神隠し? なんの話だろう……


ヒュプテさんは馬で逃げながらも、声の限り叫んでいる。


「民よ! 急いで南へ逃げるのだ!」


騎士たちも同じく叫んでいる。


「「南へ逃げろー!!」」



住民のみんなはポカンとしてたけど、だんだん騒ぎが大きくなっていってる。

後ろを見ると逃げ出そうとする人がいるみたいだ。



ボクたちが泊ってる宿屋に着いた。

ここで皆を待たないと。

そう思ってると、カザリさんがネロさんとタイラーさんを連れてやって来た。

ってか、早い……住民たちに避難を促しながらここまで来たとはいえ、

ボクたち馬に乗ってるのに……

さすが忍者のカザリさんなんだろうか。


「ダーツどうする? 私たちと来るかね?」


ダーツさんは即答した。


「ええ、一緒に行かせてください」


皆も騎士の馬に乗せてもらった。


「ヘイラ、馬足の速いものを3人ずつ東西の門へ向かわせてくれ。

 東西の霧の有無を確認し、南へ向かう我らと合流せよ」

「はっ!」


ヘイラさんがうなずくと、すかさず騎士に命令している。


「行くぞ!」


ボクたちが乗る馬が勢いよく走りだした。


しかし……あの白い霧、そんなやばいの?

北の方角にはうっすらと白い霞がかかってるように見える。

今のところ北にだけ霞が出ているので他は大丈夫そうだけど。

だけど、ボクの考えは甘い事を知った。


ダーツさんが呻いている。


「おい……どうなってる……」


いつの間にか、南の方にも薄く霧が立ち込めている。

ヒュプテさんの判断は早い。


「よし、一旦戻れ!」


ボクたちはまた宿屋の方向に戻りだす。


「フフ、多分西や東も同じ結果だろう。

 偵察へ走らせた者と合流次第、最終決定を下すが、

 多分私の屋敷へ向かう事になる。

 ヘイラ、先に屋敷に向かい、霧が侵入しないよう隙間を埋めさせておけ」


なにか大変なことが起こってるように思えるのに、

ヒュプテさんはなぜか楽しそうだ。



ヒュプテさんの考えは現実のものになった。

合流した騎士の報告では、すでに西も東も薄く霧が立ち込めていたようだ。

霧が街を包囲するなんて……そんなことってあるの?

ヒュプテさんが騎士たちに淡々と命じている。

焦ってる感じがまるでない。


「よし、お前たちは住民たちに家の中へ避難するようにと勧告せよ。

 布で建物の隙間を埋め、霧の侵入をできるだけ防げと伝えろ。

 手遅れにならないうちに、お前たちも早々に我が屋敷へ戻ってこい」



一体なんなんだこの霧……

神隠しとか言ってたけど。


ボクたちはヒュプテさんの屋敷へと急いだ。


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